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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

晴海・選手村跡地の一大マンション群は買ってはいけない?東京都内に住宅大量供給の兆候

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「多死・大量相続」時代のインパクト

 なぜ街間格差が出始めるのか理由を述べよう。

 このマンションが引き渡しされる2023年から25年にかけて、東京の不動産マーケットは大きな変革が起こりそうなのである。ひとつが、「多死・大量相続」時代の到来だ。1947年から49年に生まれた世代を団塊世代という。この世代は人口が非常に多く、これまで日本の産業の担い手として貢献してきた。この世代のすべてが2025年までに75歳以上の後期高齢者になる。

 実は東京都は75歳以上の後期高齢者の人口が、65歳から74歳までの前期高齢者の人口を上回っている。つまり団塊世代以上の世代が東京には大勢住んでいるのだ。団塊世代が後期高齢者の仲間入りをする頃、この前の世代を中心に東京は大量の相続が発生することが予想される。この世代はたとえば都内の大田区や世田谷区、杉並区などに住宅を所有している。

 そして相続した不動産のかなり多くが、子供や孫が住むことなく、賃貸に供されたり売却されることになるだろう。少子高齢化の影響だ。さらに2025年にかけてこれに団塊世代の相続が追随することになる。東京は相続天国になるのだ。晴海から見晴るかす東京都心の眺めは絶景だろうが、実は都心周辺の交通利便性の良い、ブランド立地などと呼ばれる高台の住宅地で今後、大量の相続物件がマーケットに供給されることが容易に予測されるのだ。

 さらに2023年には生産緑地制度の期限切れ問題が勃発する。都市農地を守るため固定資産税などの優遇を行ってきた制度で、現在都内には3300haもの都市農地が存在する。この特典を得るには30年間農業を続けなければならなかったが、この制度改正が行われた1992年から30年の期限を迎える23年は、大量の都市農地が宅地化を選択することが懸念されているのだ。国は期限延長などの緩和策をとっているが、農業従事者も高齢化しており一部は宅地化される可能性が取りざたされている。

建物竣工時の「値上がり」に期待するのは危険

 こうした土地の供給圧力が強まる時代に引き渡しを受ける晴海のマンションが、その時果たして「本当にお買い得」なのかどうかは正直怪しいと考えざるを得ない。現在の坪300万円代半ばから後半という相場観も、すでに価格的にはピークアウトしているという説が強いのだ。現時点での相場での単純な比較は危険かもしれない。

 引き渡しが4年以上先の物件をローンで買うことには、大きなリスクを伴う。住宅ローンを組む際は、物件引き渡し時の金利が適用されるのが一般的だ。さて、この低金利時代が4年後も続いているかの確信はない。たとえば35年返済5000万円のローンを組んだ場合、金利が1.5%であれば毎月の返済額は15万3092円だが、3%に上がっていれば19万2425円に跳ね上がる。35年間の総返済額では1600万円以上の差になってしまう。

 金利が上がるということは不動産価格も上がるから大丈夫と考えたいところだが、上記の理由を考えるとあまり楽観はできない。東京の不動産マーケットで晴海が置いてきぼりになる可能性を否定できないのだ。

 タワマンも分譲されるので国内外の投資マネーにも期待したいところだ。だが、引き渡しまで4年もかかる物件を買う投資家はほとんどいないのではないか。中古のマンションであれば、これを賃貸に回せるので3年から5年程度のタームで投資して、値上りを見込んで出口で売るというシナリオを描きやすいが、建設中の物件ではそうはいかない。東南アジアならば、開発中に買った権利を建物竣工前に売却できるので、マネーゲームを行いやすいが日本では無理な相談だ。

 実需としてみても、4年後の家族像を正確に予測できる人は少数だろう。子供の成績や学校、夫婦の勤務地、収入、健康。今の世の中は不確定要素が多すぎる。こうした変動要素に目をつむって建物竣工時の「値上がり」に期待するのは、投資スタンスとしてはあまりに天に運を任せているとしか思えない。

 このように考えてくると、「あえて」今、飛びついて買うような物件には思えない。令和時代のマンション購入は、昭和、平成時代の発想とは決別したほうがよさそうだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

●牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。

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