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鷲尾香一「“鷲”の目で斬る」

画期的新薬・キムリア、1回3千万円超に保険適用決定…健康保険制度の危機と命の問題

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
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キムリア」の登場で、同薬が保険適用治療薬でもっとも高額となったのだが、それまではがん治療薬の「オプジーボ」が最高額だった。オプジーボは小野薬品工業が開発した免疫療法薬で、悪性黒色腫などに効果がある。ただし、キムリアとは違い、複数回にわたる投与が必要で、たとえば体重60キロの患者が1年間26回使用した場合には、必要な薬代は年間3500万円 になる。そして、健康保険が適用されているため、患者の個人負担は月額約8万円だ。

 2015年の日本の肺がん患者推定数は約13万人で、もし患者5万人がオプジーボで治療すると、1年間の薬代は3500万円×5万人=1兆7500億円、10万人なら3兆5000億円が必要になる。当然、健康保険制度の財政を悪化させるだろう。

 麻生財務相が言わんとしたのは、こうした健康保険の財政に与える悪影響についてだ。実は、高額の健康保険適用薬については、オプジーボが保険適用薬となった時にも沸き起こっている。

綱渡りの健康保険財政

 自営業者や農家などが入る健康保険である国民健康保険は、厚生労働省によると2017年度の収支が450億円の赤字となっている。国民健康保険は、財政健全化のために18年度から運営を都道府県に移したが、都道府県は保険料を算定する「参考値」として「標準保険料率」を示すことが定められ、共産党が19年度の「標準保険料率」に基づいて国民保険料(税)を改定した場合の負担額を調査したところ、全国の8割の自治体で年平均4万9000円の大幅値上げとなることが判明している。

 共産党によると、10月からの消費税率引き上げを加味すると、「年収400万円で4人世帯の場合、大阪市で7.4万円、新宿区で13.3万円の負担増となる」という。こうした実態があるにもかかわらず、現在の健康保険、特に国民健康保険は税金で赤字を穴埋めしながら、保険料を引き下げたり、据え置いている。

 もちろん、新薬が開発され、病気治療がなされ、健康を取り戻すことは、喜ばしいことだ。しかし、高額の治療薬が保険適用になることは、国民の健康を底辺で支えている健康保険制度の存続に大きな影響があるのも事実。「キムリア」の場合、厚労省は患者数をピーク時で年216人、販売金額で72億円と予想しており、健康保険の財政を脅かすほどのものではないかもしれない。

 ただ、ある大手病院の内科医は、こう指摘する。

「キムリアの自己負担は1回で60万円、オプジーボの自己負担は月額8万円といっても、かなりの自己負担になることは間違いない。治療が受けられるのは、ある程度の収入がある患者だ。そういう点では、保険適用薬になったからといっても、だれでもが治療を受けられる『平等なもの』ではないだろう」

 今後もキムリアのような新薬が、高額の保険適用薬となる可能性は大きい。すでに、いくつかの新薬が保険適用の候補薬となっている。こうした高額の保険適用薬については、健康保険制度への影響、治療を受けられる患者の貧富といった問題から、どの程度の病状や年齢まで保険適用で治療するのかという命の問題まで、さまざまな議論が必要になるだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

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