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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

MMT(現代金融理論)が見落としているもの…財政の民主的統制の難しさ

文=小黒一正/法政大学教授
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 実は、ブキャナンとワグナーの名著『赤字の民主主義-ケインズが遺したもの』(日経BPクラシックス)(原題はBuchanan and Wagner1977), Democracy in Deficit: the Political Legacy of Lord Keynes, New York : Academic Press)で、ブキャナンらがすでに約40年前に指摘しており、これも目新しいものではない。

 例えば、同書の76-77ページには以下の記述がある(下線は筆者)。

意図的な財政赤字の創出―支出はするが課税はしないというあからさまな決定 ―は、ケインズ政策の特徴だが、(略) ケインズ派が-大半のケインズ派が-通貨の増発を選ばず、古典的な公債負担論に挑戦する道を選んだのは、今もって意外である(略)需要不足という環境では、 政府の追加支出の機会費用は完全にゼロである。これは直ちに、必要な財政赤字を補てんするために通貨を創造しても、 純コストは発生しない-つまりインフレの恐れはない-ことになる。したがって、政治・制度上の制約がない場合は、意図的に財政収支を赤字にし、通貨発行だけで赤字を補てんすることが、ケインズ派 の理想的な景気対策になるはずだ>
 
 財政学者であれば周知の事実だが、ノーベル経済学賞を受賞したブキャナンらは「ケインズがいなければ、1960~70年代の政治家がこんなに節度を失うことはなかった」とし、アメリカの財政赤字や通貨膨張、政府部門の肥大化の主な原因をケインズ派の理論にあると批判するために執筆したのが同書(『赤字の民主主義』)である。

 同書において、財政規律を重視するブキャナンらが「ケインズ派が-大半のケインズ派が-通貨の増発を選ばず、古典的な公債負担論に挑戦する道を選んだのは、今もって意外」とする記述は、ケインズ派に対する「強烈な皮肉」を投げかけるものである。

予算膨張と減税の政治圧力をどうコントロールするのか

 MMTでは、財政赤字が害をもたらすとわかれば、その時点で適切な水準に財政赤字を縮小すればよいという発想だが、民主主義の下で政府支出の削減や増税を迅速かつ容易に行うのは極めて難しい。政府が財政赤字の縮小を迅速に行えるという仮定は、ケインズ理論が仮定する「ハーヴェイロードの前提」に近いものだが、政府支出の削減や増税は現実の政治プロセスで行うのは容易ではない。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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Twitter:@DeficitGamble

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