小早川隆治「日本のクルマづくり~さらなる志・凛・艶・昂を目指して~」

1860万円のBMW「8シリーズクーペ」に試乗して実感した“日本車が学ぶべき点”

BMWの「M850i x Drive Coupe」(「BMW 8シリーズ クーペ:イントロダクション」より)

 今回は、最近試乗の機会を得たBMWブランドを牽引する8シリーズクーペ「M850i x Drive Coupe」に関するご報告をしたい。

 8シリーズクーペは「究極の美しさと速さを追求することによりラグジュアリークーペの再定義を目指した」とのことで、まず内外装デザインで「ラグジュアリーとは何か?」を突き詰めたという。「ラグジュアリー」の概念は国や人により大きく異なるが、共通しているのは、クルマが今や車輪のついた個室とも呼べる存在になりつつあり、人々が「五感が喜ぶ」「感性を駆り立てる」「質感の高い」ものに囲まれたいと思っていることだという。

 外観スタイルは、BMWデザインのアイコンでもあるキドニーグリルを含むフロントまわり、優雅なボディーライン、ダブルバブルルーフと、官能的なななめ後ろからの見栄えなどにより、スポーティーな力感と高級感が非常にうまくつくり込まれており、特にリヤクオーターまわりの造形は魅力的だ。

 内装も、造形こそ控えめだが、スポーティーでラグジュアリーなものとなっている。新たに採用された操作、表示システムは、10.25インチのコントロール・ディスプレイと、速度、回転数を表示する左右のメーターの間にNAVIマップの一部が表示される12.3インチのフル・デジタルメーターパネルから成り立っている。

ダイナミックでスポーティーな走りを体感

 内外装デザインの「ラグジュアリー」に加えて「ダイナミック&スポーティーな走り」も圧巻だ。530ps/5500-6000rpmの出力と750Nm/1800rpm-4600rpmのトルクを発揮する新開発の4.4L V8ツインターボエンジンを搭載、8速AT、前後輪の駆動トルクを素早く無段階に可変するインテリジェント4WD、リアアクスルの電子制御ディファレンシャルロックなどが組み合わされている。

 走り始めた瞬間から圧倒的な加速性能を発揮するとともに、コーナーからの脱出時なども安心して加速が可能で、箱根ターンパイク周辺道路で存分に走りを楽しむことができた。最高トルクが1800rpmから期待できるのも大きな魅力だ。スポーティーで官能的な排気サウンドもいい。

 高出力エンジンに加えて車重が1990kgに収まっていることも、このクルマの動的性能に大きく貢献している。ボディパネルの大半がアルミで、リアフェンダー周辺のみに深絞鋼板を使用、センタートンネルをカーボンファイバー製にすることなどにより、軽量化が図られている。

 このクルマの開発にあたっては、ドイツ・ニュルブルクリンクをはじめとするサーキット走行を通じて徹底的に鍛え上げられたようだが、市街地走行、低速走行も決して不得意ではない。ゆったりとした市街地ドライブ、カップルでのロングドライブ、箱根のようなワインディングロードでの活発な走り、さらにはサーキットランまで、非常に幅広く運転することを楽しめるクルマに仕上がっている。

ハンドリングが軽快で快適性もバツグン

 従来のダンパーに加えて、電子制御アクティブスタビライザーを装備することにより、一般道での快適なクルージングも実現している。また、4輪操舵システムにより最小回転半径を5.2mに抑えて取り回しの良さと俊敏性を高めるとともに、車線移行や高速コーナリングの安定性を高めている。箱根ターンパイク周辺での試乗では、ハンドリングが実に軽快で、低速、高速コーナリングも含めてあらゆるコーナーを安心して楽しく走れることに感銘を受けた。

 ブレーキも非常にリニアーでコントロール性がいい。加えて、ロードノイズ、路面からの突き上げも驚くほどよく抑えられており、快適性という面からも大変好ましいクルマに仕上がっている。

 詳細は避けるが、このモデルには各種の最先端の運転支援システムが標準装備されており、「パーキング・アシスタント」には「リバース・アシスト」という機能が初めて採用されたことは大変興味深い。これにより、直前に前進した最大50mまでを記憶し、その同じルートをバックで正確に戻ることが可能になったという。

ブランド戦略上も貴重な役割を果たすクルマに

 試乗車の価格は税込みで1860万円と安くはないが、BMWのブランドスローガンである「駆け抜ける喜び」をまさに実現したモデルに仕上がっており、ブランド戦略上も貴重な役割を果たしていくことになるだろう。すでに3Lクリーンディーゼル版(319ps、680Nm、価格は1237万円)、カブリオレなどが追加されており、シリーズ全体でどのくらいの販売台数となるかも非常に興味深い。

 日本のクルマづくりは左脳型のクルマづくりが定着し、プレミアムカーづくりで明らかに欧州メーカーの後塵を拝している。日本メーカー各社ともブランド&商品戦略の強化は必須で、BMWから学べることは非常に大きいと思う。
(文=小早川隆治/モータージャーナリスト)

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小早川隆治/モータージャーナリスト

1941年生まれ。学習院大学卒業後、東洋工業(現マツダ)に入社。RX-7&モータースポーツ担当主査、北米マツダ副社長などを務める。退職後、モータージャーナリストとして活動。日本自動車研究者ジャーナリスト会議監事。

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