――副反応と疑われた症状は、どのようなものだったのでしょうか。
三輪 HPVワクチンを接種した後に、歩行困難や自らの意思とは関係なく勝手に体が動くような不随意運動、漢字の読み書きや計算ができなくなるような認知機能の低下、生理不順などが生じたとして、ワクチン接種後に報告された「多様な症状」の副反応として挙がっています。
WHOの見解もHPVワクチンは「有効かつ安全」
――実際に、副反応とワクチンについて調べた研究はあるのでしょうか。
三輪 名古屋市が実施した大規模疫学調査(「Nagoya Study」Suzuki S, et al. Papillomavirus Research 2018; 5: 96-103.)では、ワクチンによる副反応の出現率に有意差がないことが示されました。世界的にもHPVワクチンの安全性や有効性を示す研究調査が数多く出ており、WHO(世界保健機構)もHPVワクチンは有効かつ安全であるという見解を出しています。
もちろん、HPVワクチンは筋肉注射なので、局所発赤や痛み、迷走神経反射(注射で倒れてしまう)などの副作用はゼロではありません。最終的には個人の判断が尊重されるべきですが、正しいデータで利益と不利益のバランスを考えて、自分で選択することが大事だと思います。
――現状の接種状況はどうなっているのでしょうか。
三輪 それから約6年が経ち、接種率は1%未満にまで低下しています。現状ではきちんとした知識を持っている方が少ないと思っています。さらに、約3000人に行ったアンケート調査では、一般男性は一般女性よりHPVや子宮頸がんに対する知識が不足しているという結果もあります。この状態で接種有無の選択を強いられても、判断できない人がほとんどだと思います。子宮頸がんは女性の病気ですが、前述の通り男性に関係する病気もあります。まずは知ってもらうことが重要だと考えています。
――対象年齢を過ぎてしまったら、ワクチン接種の意味はないのでしょうか。
稲葉 性交渉をする前に接種するのが一番有効と考えられるため、定期接種の対象年齢は小6~高1までになっています。それを過ぎると意味がないということではありませんので、まだ接種していない若い世代の方はぜひ接種してほしいです。ただ、対象から外れると無料ではなく、自費で5万~6万円ぐらいしてしまいます。もし、すでにHPVに感染しているとしても、HPVはいくつかの型があり、自分が感染しているのとは違う型への予防効果はあります。
もっとも、HPVワクチンで防ぐことができるのは子宮頸がん全体の約70%です。ワクチン接種後も、20歳を過ぎたら定期的に子宮頸がんの検診を受けることが必要です。