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安倍政権、夏の東京のヒートアイランド抑制に躍起…木造建築が再注目、超高層ビル建設も

文=小川裕夫/フリーランスライター
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安倍政権、夏の東京のヒートアイランド抑制に躍起…木造建築が再注目、超高層ビル建設もの画像1「Gettyimages」より

「燃えやすいので防火の観点から木造は危ない」「地震が頻発する日本では、木造家屋は危ない」――。

 木造家屋には、そんな負のイメージがつきまとってきた。しかし、そうしたイメージは20年以上も昔の話だ。いまやハウスメーカーや林業関係者たちも木造家屋の売り出しに力を入れ始めた。その背景にはコンクリートの建物が増えたことで、ビルが密集する東京はヒートアイランド現象に悩まされるようになったことがある。単に暑い都市というだけなら、まだ許容できたかもしれない。しかし、東京は2020年夏に五輪開催を控えている。

「気温が35度を超える炎天下で競技を行うなど、命を脅かす危険性が大きい。かといって、開催返上は政府にとって恥だから絶対にあり得ない。そうした事情から、国土交通省や環境省はなんとか気温を下げようと、さまざまな手段でヒートアイランドの抑制を考えているのです」(国交省職員)

 国交省や環境省は、以前より屋上緑化や壁面緑化などでヒートアイランド抑制に取り組んできた。東京の緑化率・緑被率は向上しているが、それでも東京の夏は年を追うごとに灼熱化している。緑化はヒートアイランド現象の抑制に効果の高い政策だ。しかし、国交省の取り組んだ緑化は、「当初は予算も少なく、手掛ける面積は少なかった。だから文字通り焼け石に水だった」(前出・国交省職員)。

 緑化のほかにも、道路のアスファルトを熱のこもりにくい舗装へと改良するといった工夫も凝らした。それでも、東京のヒートアイランド化は止まらない。

 東京都は小池百合子都知事が環境大臣を務めたこともあり、風呂や食器の洗いの残り湯を使った打ち水を推奨した。古来より、打ち水はヒートアイランドの抑制効果があることが知られている。打ち水は家庭でもできる、手軽なヒートアイランド対策と銘打って東京都などは大々的に都民に推奨した。ちなみに打ち水に対しては、水を撒くと蒸してしまい、かえって暑苦しくなるのではないかと疑問の声もあるが、気化熱を利用するため、風通しのいい屋外で実践する場合は、蒸してより暑苦しくなることはない。

 大掛かりな公共工事だけではなく、国と東京都は一億総ヒートアイランド対策といった様相で、東京を冷やそうと躍起になる。

 一方、東京都や国交省・環境省が取り組む緑化も急速に広がりを見せつつある。緑化は気温を1~2度下げる効果があるとされている。たかが1~2度と思われがちだが、気温が2度違うだけで体感温度や不快指数には大きな差が出る。まして、競技者にかかる身体的負担は段違いだ。

見直される木造建築

 そうしたなか、前述の通り民間の住宅メーカーによる木造住宅・木造建築が注目されるようになっている。

 木造が注目されるようになったのは、研究が進んだことで防火・耐震の技術が急速に向上したことが大きい。例えば、一定の太さのある柱なら、火災が起きてもすぐに燃えることはない。むしろ、炭化と呼ばれる現象が起き、木は炭になって延焼を防ぐ。そのため、かえって鉄筋や鉄骨よりも火災に強いとさえいわれるようにまでなった。

 横浜市では、木造4階建ての複合商業施設「サウスウッド」が13年にオープン。木造建築の概念を大きく覆した。

「建物に木材を使うのは、木特有のぬくもりとか温かみが利用者から好評を博しているからです。行政側・建築者からすると、周辺の建物との調和や景観面で住民とのトラブルが起きにくいというメリットがあります。問題は、やはり『火災や地震の際に危険なのではないか?』という昔ながらのイメージです。そうした不安を口にされる方も多いのですが、少しずつ木造への理解は浸透しているとも感じます」(業界関係者)

 東急電鉄は“木になるリニューアル”と称して、池上線の駅舎を改築。戸越銀座駅は木をふんだんに使った駅舎へと生まれ変わった。東急傘下の東急建設も新ブランド「モクタス」を立ち上げて、19年2月に中大規模木造建築市場への参入を表明した。

 木造建築のパイオニアともいえる住友林業は、もっと大胆な木造プランを温めている。同社は創業350周年を迎える41年を目標に、高さ350メートルの高層ビルを木材比率9割で建設することを宣言。同社が見据えるのは、“街を森にかえる環境木化都市の実現”だ。前出の業界関係者は言う。

「木造で350メートルの超高層ビルと聞くと、『マンガの話なんじゃないの?』と訝る人もいるみたいです。しかし、業界内ではすでに技術的・理論的には可能といわれています」

 以前から、住友林業は植林事業をはじめ製材、木造建築に力を入れてきた。最近では、トヨタ自動車と連携して木製の自動車づくりにも挑戦を始めた。

 業界内では、ヒートアイランドが問題視された00年前後から木造を見直す意識が少しずつ強くなっていた。実際、00年には建築基準法が改正されて、木造建築の規制緩和が図られた。その後も、たびたび建築基準法は改正。着実に、木造は評価を得てきた。人々が抱く木造へのイメージが変わり始めたきっかけは、東京五輪でメーン会場になる新国立競技場の一部に木材を使うことが決まったことだろう。

 木の逆襲は、静かに始まっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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