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白井美由里「消費者行動のインサイト」

お客に待ち時間を「短い」と感じさせイライラさせない方法…実際の時間と感じ方に関する研究

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授
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待ち時間を短く感じさせる

 続いて、前述した記憶マーカーと待ち時間の感じ方の関係について考えてみましょう。私たちは、スーパーのレジや銀行のATMで列に並んだり、レストランで席を案内されるまで待たされたりと、日常生活の中で実にたくさんの「待つ」を経験しています。待つことは顧客にとっては不快な出来事であり、サービスの品質評価や満足度を下げたり、再利用の決定に影響を与えたりすることが先行研究から示されています。重要な点は、これらの評価に影響を与えるのは、実際の待ち時間よりも、その時間をどの程度長く感じたか、なのです。

 前述したように、この2つの時間は一致しないことが多いです。したがって、サービスや製品を提供する側は、顧客との長期的な関係性を構築するためにも、待ち時間を少しでも短く感じさせるような工夫をする必要があります。それは、顧客の意識を他にそらすような仕掛けをすることですが、注意が必要です。もしもこの仕掛けが記憶マーカーとなって記憶に残ってしまうと、この待たされた経験をあとで思い出したときに、待ち時間を一層長く感じさせてしまうことになるからです。したがって、この気をそらすための仕掛けには、顧客の記憶にそれほど鮮明に残るものではなく(=記憶マーカーとならない)、かつ待っている間のイライラを軽くするようなものを選ぶべきということになります。

 電子ニュースボードと待ち時間の推定値を示す電子時計の効果を分析した先行研究からは、待ち時間の感じ方は電子ニュースボードの有無によって変わらないものの、電子時計があることによって短く感じることが示されています。【註2】。

 BGMを対象とした研究もあります。例えば、好ましさの高いBGMは人をポジティブな気分にさせますが、待ち時間との関係で見ると、待ち時間が短い(4分)状況では長く感じさせるのに対し【註3】、待つ余裕がある状況では短く感じさせることが明らかにされています【註4】。また、BGMのテンポに着目した研究では、待ち時間が短い(4~15分)場合には、遅いテンポは実際よりも短く、速いテンポは実際よりも長く感じさせること、そして、待ち時間が長い(18~25分)場合には、テンポは影響しないことが示されています【註5】。BGMで待ち時間の感じ方をコントロールする場合には時間帯や用いる楽曲の評価を考慮する必要があるようです。