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白井美由里「消費者行動のインサイト」

お客に待ち時間を「短い」と感じさせイライラさせない方法…実際の時間と感じ方に関する研究

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

片付けるべき用事を時間でカテゴリー化する

 続いて、片付けるべき用事と時間の関係について見ていきましょう。期限のある仕事、買い物、コンビニでの支払い、家の修理、庭の手入れなど、人生はやることだらけです。それらの用事を片っ端から片付けていっても、次々と別のやるべきことが発生するので、やるべきことリストには終わりがありません。

 ソマンは、こうした状況への対応策として、人がこれらの用事を時間で分類(カテゴリー化)していることを説明しています。時間の経過は連続していても、心理的には区切ることができるという考え方です。

 例えば、カレンダーやスケジュール帳では時間を月ごとや週ごとに分類していますが、これと同様に、人は用事についても「今週中」か「来週以降」のように時間でカテゴリー化しています。同じカテゴリーに分類された用事は同じように捉えるので、別のカテゴリーに分類された用事への対応とは異なってきます。こうしたカテゴリー化は難しいものではなく、片付ける用事を効率よく整理することができます。

 カテゴリー化するにはなんらかの基準を設定する必要があります。「今週中」か「来週以降」にカテゴリー化する場合は、「週末」が基準になります。同様に、「今月中」か「来月以降」のカテゴリー化では「今月末」が、「年内」か「来年」のカテゴリー化では「年末」が基準になります。これは対象や状況によって異なり、大学生であれば学年暦、農家であれば収穫期、企業であれは会計年度を基準としたカテゴリー化が考えられます。ほかにも誕生日、クリスマス、バレンタインデーなどいろいろな基準が考えられます。

 ソマンは、このように多様化した基準を「今なのかどうか」で説明できるとしています。この基準では、用事を今すぐに片付けるべきと考える「今行うカテゴリー」と、急ぐ必要はないと考える「あとで行うカテゴリー」の2つのカテゴリーに分けます。
 
 ソマンは、共同研究者のテュと一緒にこのカテゴリー化を実証しています。さまざまなタスク(口座開設と貯蓄の手続き、親友の誕生日会の準備、データ入力タスク、ギフトの購入)と基準を用いた実験を行い、同じタスクであっても、「今行うカテゴリー」に分類されたほうが、後で行うカテゴリーに分類された場合と比べて、すぐに開始する意向が強くなること、およびそこにはタスク完了を意識したアクション志向のマインドセット(心の状態)が働いていることを明らかにしています【註6】。

体に悪い行為を減らす

 それでは、この時間によるカテゴリー化をなかなかやめられない行為と関連づけて考えてみましょう。脂っこいものやスイーツを食べ過ぎたり、お酒を飲み過ぎたり、タバコを吸い過ぎたりと体への悪影響が懸念されるにもかかわらず、なかなかやめられないことがありますが、それは、その悪い結果が今すぐには起きないと考えているからかもしれません。また、老後のことを考えればある程度の蓄えが必要であることをわかっていても、なかなか貯められないのは、老後はまだかなり先のことと考えているからかもしれません。

 これは、「未来の自分」との心理的つながりをそれほど強く感じていないため、「現在の自分」に対する意思決定と同じようには捉えていないことを意味します。言い換えると、不摂生な生活をやめたり貯蓄したりする行為は、「あとで行うカテゴリー」に分類されているということになります。したがって、これを「今行うカテゴリー」にシフトできれば、すぐに開始できると考えられます。卒業、就職、結婚、出産など人生の節目は意識が変わるときなので、今から始める必要性や準備しておく必要性をアピールすると、シフトしやすいと思われます。

 また、ビフォーとアフターのように、現在と未来の姿のイメージを見せることは未来を意識させるので、シフトさせる効果があると思われます。体に良い製品やサービス、貯蓄や投資商品を提供する企業はこうしたカテゴリーのシフトを考慮したアピールをされるといいかもしれません。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献
【註1】Soman, D. (2015), The Last Mile: Creating Economic and Social Value from Behavioral Insights, Toronto: University of Toronto Press.
【註2】Katz, K. L., B. M. Larson, and R. C. Larson (1991), “Prescription for the Waiting in Line Blues: Entertain, Enlighten, Engage,” Sloan Management Review, 32 (2), pp. 44-53.
【註3】Hui, M. K., L. Dube, and J. C. Chebat (1997), “The Impact of Music on Consumers’ Reactions to Waiting for Services,” Journal of Retailing, 73 (1), pp. 87-104.
【註4】Cameron, M. A., J. Baker, M. Peterson, and K. Braunsberger (2003), “The Effects of Music, Wait-length Evaluation, and Mood on a Low-cost Wait Experience,” Journal of Business Research, 56 (6), pp. 421– 430.
【註5】Oakes, S. (2003), “Musical Tempo and Waiting Perceptions,” Psychology & Marketing, 20 (8), pp. 685–705.
【註6】Tu, Y. and D. Soman (2014), “The Categorization of Time and Its Impact on Task Initiation,” Journal of Consumer Research, 41 (3), pp. 810-822.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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