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64歳でも「若い人」「老けて見える人」の差を生む要因…遺伝子とアンチエイジングの最新研究

取材・文=大野和基/ジャーナリスト
64歳でも「若い人」「老けて見える人」の差を生む要因…遺伝子とアンチエイジングの最新研究の画像1ジョシュ・ミッテルドルフ

「不老不死」は、洋の東西を問わず、古来、人間の究極の願いとして研究され続けてきた。「アンチエイジング」「抗加齢」「抗酸化」といった言葉が広く使われているように、少しでも老化を遅らせるための研究が今でも盛んになされている。

 そんななかで昨秋、「人間はなぜ老いるのか」というテーマを追求した書籍『若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間』(ジョシュ・ミッテルドルフ、ドリオン・セーガン/集英社インターナショナル)が発刊され、話題になった。本書で紹介されているのは、ベニクラゲは若返り、ハダカデバネズミは老化しないが、なぜ人間は老化するのか、という研究だ。「老化の役割」とは、なんなのか。

 著者のひとりであるジョシュ・ミッテルドルフ氏に、話を聞いた。

現在のアンチエイジング研究

--ミッテルドルフさんは、もともと天文物理学者でしたが、生物学者へと転じた理由は何ですか?

ジョシュ・ミッテルドルフ氏(以下、ミッテルドルフ) 物理学者のときは関心が持てるテーマがありませんでしたが、進化生物学の分野で根本的な間違いがあることがわかりました。その分野全体が間違った方向に向かっていたのです。その理由は、専門家が数学者の話に耳を傾けすぎていたからです。日本ではどうか知りませんが、アメリカではほとんどの生物学者は、物理学者や化学者ほど数学にあまりいい思いを抱いておりません。ところが、そこに数学者が割り込んできて、「進化はこうして起こる」と言ったときに、生物学者たちはなんの疑問も抱かずにそのまま受け入れました。

 進化は数学とまったく関係ありません。だから私は、生物学に専門を変えて貢献しなければならないと思ったのです。

--本書の中で、ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏に言及されていますが、エイジングの研究に対する同氏の貢献はどのようなことでしょうか。

ミッテルドルフ 幹細胞という特殊な細胞があります。自己複製能と、さまざまな細胞に分化する多分化能を持つ特殊な細胞です。かつては、いったん分化した細胞を幹細胞に戻す方法はありませんでしたが、山中氏はそれを幹細胞に戻す方法を発見しました。

 エイジングを研究するときに、幹細胞の研究はもっとも基本的なものです。その幹細胞を与えてくれたのが山中氏です。その貢献ははかりしれません。年をとると幹細胞も年をとり、元のようには機能しなくなります。その老化細胞を機能する幹細胞に戻すことが、アンチエイジングのメカニズムです。

--現在のアンチエイジングの研究に関する、世界の状況を教えてください。

ミッテルドルフ アンチエイジングメカニズムの研究は、ある程度進んでいます。つい最近、4つの「山中因子」(編注:特定の4つの遺伝子を成熟細胞に入れるとiPS細胞になること)を、少し古い皮膚細胞に短時間入れると、幹細胞まで戻るのではなく、少し戻って若い皮膚細胞になると主張している人がいます。これは新しいニュースです。研究が良い方向に進んでいる兆候かもしれません。

 今、注目されているのは、「エピジェネティクス」(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステムおよびその学術分野)です。生まれつき持っている遺伝子は一生変わりませんが、どの遺伝子のスイッチがオンになり、またオフになるかは、刻々と変わります。ストレスがある環境でスイッチがオンになる遺伝子もあれば、眠っているときにオンになる遺伝子もあります。

 年齢で言うと、40歳くらいまでは遺伝子発現はあまり変わりませんが、40歳を超えると自己破壊遺伝子のスイッチがオンになり、炎症の遺伝子もオンになり、それが体を破壊していきます。しかも、体を酸化的損傷から守る遺伝子のスイッチがオフになります。これはエピジェネティクスによって起こります。

--エピジェネティクスは今、世界でもっとも注目されている分野のひとつですね。

ミッテルドルフ そうです。仮に今、本書を執筆していたら、エピジェネティクスについてもっと多くのページを割いていたでしょう。エピジェネティクスの分野が注目されるようになったのはこの10年で、2000年には誰も聞いたことがない分野です。

研究が進む中国

--今は米フィラデルフィアに住んでいますが、中国科学院北京生命学研究院にも在籍していましたね。どのような経緯で中国へ行くことになったのでしょうか。

ミッテルドルフ 過去3年、夏の3カ月間、その研究所にいました。そこは大学ではなく、周囲にある大学の研究を助けています。北京の有名大学の2校から学生をとっています。そこで研究している人はみんな、アメリカやヨーロッパの大学で博士号を取得しています。予算もありますし、研究施設もあります。そこで10年間、自由に研究させてくれます。その間に成果を出すと、さらに10年間研究させてくれます。自由に研究できるので、中国にいるもっとも優秀な生物学者が集まります。アメリカの研究環境は少しずつ劣化していますが、逆に中国での研究に対するサポートは急激に増加しています。

--そこに行くには、招待されないといけないのでしょうか。

ミッテルドルフ そうです。私と中国の関係は長いです。1970年代にまでさかのぼります。過去に住んだこともありますし、子ども2人は中国からの養子です。彼らはすでに大人になっていますが、中国が外国人に対して養子プログラムを始めたときの最初のグループです。

--アメリカと中国との研究環境は、どのような点が違いますか。

ミッテルドルフ 中国は世界で認められようと、必死に追い上げています。それには、アメリカの専門誌に論文が掲載されることが欠かせません。しかし、彼らはリスクを取りたがりません。非常に保守的です。彼らは英語のネイティブスピーカーではないので、彼らが書く論文は理解しにくい。内容ではなく、変な英語に出くわすと、論文は返されます。そのため、アジアの多くの優秀な研究は、アメリカの専門誌に掲載されません。英語が下手だからです。

 この問題の解決法は、アジアで自分たちの専門誌を持つことですが、今のところベストな専門誌はアメリカとイギリスにしかありません。しかし、それらの専門誌は、英語が下手な論文に対する偏見がありますね。

--あなたにとって、英語が母語であることは、かなり有利というわけですね。

ミッテルドルフ そうです。だから北京にいるとき、私は非常に役立ちました。中国人が書く変な英語を直す仕事がたくさんありました。

日本の少子化への対策

--日本は現在、少子高齢化による人口減という、体験したことのないゾーンに入りました。一般的には、女性の自立や若年層の貧困など、経済的状況や社会環境が原因といわれていますが、生命科学の観点からみて、先進国における少子高齢化について、どうお考えでしょうか。

ミッテルドルフ 過去200年でみると、人がより貧しくなり公衆衛生が悪化すると、出生率が上がっています。多くの時間を、赤ちゃんをつくることに費やします。反対に、裕福になるとアートや文学や科学などに関心を持つようになり、赤ちゃんを育てることは魅力的ではなくなります。歴史的にみると、出生率が下がった地域に繁栄がやってきます。この現象は、インドでも生じ始めています。アフリカではまだ起きていませんが、アフリカの出生率は非常に高い。中東には非常に貧しい地域がありますが、赤ちゃんをたくさん産みます。

--日本での少子化の解決法は何かありますか?

ミッテルドルフ 私は中国から養子を2人とりましたが、私の心を十分満足させてくれました。人生でもっとも幸せな出来事であったといっても過言ではありません。日本人が海外から養子をもらわない理由がありません。

--エイジングについての国際会議は、よく開かれますか。

ミッテルドルフ 年に数回、大きな国際会議があります。私が知っている限り、2つは素人用です。大きな国際会議は「The Gerontological Society of America(アメリカ老年学会)」と「American Aging Association(アメリカ加齢協会)」が行う年次会議です。それに相当する会議がヨーロッパにもあります。

 ロシア・サンクトペテルブルクには、アンチエイジングの国際会議を自分らでつくって推進しようとしているグループがあります。驚くべき結果を出していますが、ロシア以外ではまともに扱われたことがありません。我々は、そこで発表されている実験結果を再現して、その有効性を確認するべきです。ロシアの科学は、欧米の科学よりもはるかにイノベイティブですが、いささかずさんなところがあります。

--研究機関で有名なところはどこですか?

ミッテルドルフ ハーバード大学にあるHarvard Stem Cell Institute(HSCI:ハーバード・ステムセル研究所)ですね。またサンフランシスコの北にはBuck Institute for Research on Aging(バック老齢研究所)があります。ドイツではMax Planck Institute(マックス・プランク研究所)が有名です。ペンシルベニア大学にも、エピジェネティクスの土台をつくった研究者がいます。

人によって老化の進み方が異なるのはなぜか

--私は今64歳ですが、高校の同窓会に行くと、同じ64歳とは思えないほど老けている人もいれば、年齢よりもはるかに若く見える人もいます。つまり、老化の進み方が人によってかなり違うのではないでしょうか。

ミッテルドルフ 老化には多くの要素がからんでいます。貧困は老化をかなり加速させます。生活習慣も大いに関係します。運動をしないでずっと座っているとか、喫煙、過食は老化を加速させますが、控えめに食べる、運動をたくさんする、たばこを吸わないことは、老化の速度を遅くします。社会的な要素としては、若い人と交わることが多い人や、活発な行動をする人は、より若くいられます。

 遺伝は、年をとればとるほど影響してきます。50代、60代くらいまでは遺伝よりも生活習慣の影響が強いですが、70代になると遺伝のスイッチが入ります。たとえば、95歳まで生きようと思っても、「長寿遺伝子」がないと難しいです。つまり、90代になると、遺伝子の力が生活習慣の力を超えてしまうのです。言い換えると、90代になると、たばこを吸っても、生活習慣が悪くても、長寿遺伝子が勝つので長生きするということです。

--アメリカでは「集団選択」を認めないという考えの人が多いようですね。

ミッテルドルフ 「集団選択」は、生物の進化に関する概念および理論のひとつで、自然選択(自然淘汰)が種や集団の間にもっとも強く働くという考え方です。従って、「利他的な」振る舞いをする個体が多い集団は存続しやすいのです。エイジングとは何かということについての誤解のすべてが、この問題から来ています。年老いて死ぬときに、まず生殖能力を失い、そして命を失います。それはフィットネスの反対です。つまり、個人でみると、エイジングはフィットネスの反対ですから悪いことです。しかし、集団でみると、エイジングは機能を果たしています。

 集団選択を認めない人は、「体は年を取るとともに、どんどんすり減っていくだけだ」と主張しているが、集団選択を認めると、我々の生命が確実にどこかで切断することを目的とする遺伝子があるだろうと考えます。我々が成熟するにつれて、遺伝子発現を変化させる同じエピジェネティクスが老化まで続いて、我々を破壊する遺伝子がオンになり始めるかもしれません。

 集団選択を認めない人たちは、「体のどこがすり減っていくのか」「どうやって体を修復できるのか」と言いますが、修復という発想ではなく、老化したときにどのスイッチがオンになるのか、というシグナルの発想を持つことが正しいアプローチだと思います。今、アンチエイジングの研究で先に進んでいる人は、「シグナル伝達システム」と「シグナル分子」という研究に取り組んでいます。
(取材・文=大野和基/ジャーナリスト)

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