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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

阪急広告炎上騒動でむき出し、低所得者層を「存在しないもの」として排除する日本社会

文=加谷珪一/経済評論家
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阪急広告炎上騒動でむき出し、低所得者層を「存在しないもの」として排除する日本社会の画像1阪急電鉄5100系(「Wikipedia」より/204-28)

 阪急電鉄の車内で展開された吊り広告が炎上し、同社は広告の掲載中止に追い込まれた。低賃金の例として月給30万円と表現したことが特に批判されており、一種の世代間論争の様相を呈している。だが、この問題の本質は世代間論争ではなく、以前から継続している日本の貧困問題と捉えたほうがよい。

日本社会が平等だったというのはウソ

 
 阪急電鉄は、企業向けブランディング事業などを行うコンサルティング会社と共同で、1編成を丸ごとメッセージ広告で埋め尽くすプロジェクトを実施した。8両編成の全車両に、働く人へのメッセージを掲載するというインパクトのある企画だったが、思わぬところでつまずいてしまった。

 メッセージ広告を見た乗客から「時代錯誤」「不愉快」といった苦情が殺到し、ネットでも炎上する騒ぎとなった。特に批判が集中したのが「毎月50万円もらって毎日生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。(研究機関研究者80代)」というメッセージである。

 給料よりもやりがいを重視しようという内容に違和感を持った人が多かったと思われるが、批判を集めた最大のポイントはなんといっても具体的な給料の額だろう。メッセージからすると月収30万円というのは、かなりの低賃金であると解釈できるが、今の時代において30万円の月収をもらえる人はそれほど多くない。

 ネット上では「過労死寸前まで働いて20万円なのに、あまりにも感覚が違い過ぎる」「今は昭和の時代ではない」といった批判の声で溢れることになった。

 日本における給与所得者全体の平均年収は367万円だが、この金額は1998年の418万円をピークに一貫して下がり続けている。月収30万円というのはほぼ平均水準であり、決して安月給という部類には入らない。しかも正社員であればボーナスも出ている可能性が高いので、ボーナス込みの年収では400万円を突破している可能性が高く、ここまでくると結構な高給取りといってよいだろう。

 こうした人たちを安月給としてしまった感覚は、確かに時代錯誤として批判されても仕方がない。

 右肩上がりの高度成長時代の感覚を引きずる世代と、今の世代との世代間論争として捉える向きが多いようだが、この話を世代間における認識のズレとしてだけ捉えると、日本社会の実態を見誤る。一般的なイメージとは異なり、実は日本の所得格差というのは、以前から継続してきたものだからである。

日本の貧困率は昔から高いまま

 
 日本は1億総中流などと言われ、格差の少ない国であると喧伝されてきた。確かに米国にいるようなケタ外れの富裕層は少ないため、日本における上方向の格差は小さい。だが貧困に陥っている人の割合など下方向の格差は、以前から深刻な状況が続いており、最近始まったことではない。

 現時点における日本の相対的貧困率(所得中央値の半分以下の所得しかない人の割合)は15%を突破している。主要先進国の中でこの水準の貧困率となっているのは、徹底した弱肉強食社会である米国だけであり、フランスなど欧州各国の貧困率は数%というところがほとんどである。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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