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住宅ローン大手アルヒで「フラット35」不正利用の疑い…多重債務者の借り換えの温床か

文=編集部
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住宅金融支援機構本店ビル(「Wikipedia」より)
住宅金融支援機構本店ビル(「Wikipedia」より)

 東証1部上場の住宅ローン大手、アルヒ株が売られた。10連休明けの5月8日、2018年3月以来、1年1カ月ぶりの安値となる1414円を付けた。連休に入る直前の4月26日の終値1982円から29%下落した。

 連休中の5月4日、住宅金融支援機構が提供する長期固定金利型の住宅ローン「フラット35」を悪用し、不動産投資に不正利用された疑いが出ていると報じられた。

 本来は居住用しか認められないのに、当初から投資目的であることを隠し、居住用と嘘をついて融資を引き出す手口だ。不動産仲介の業界用語で「なんちゃって」と呼ばれている。

 不正な融資を疑われている顧客は20~30代前半の若者を中心に100人超。融資額は1人2000万~3000万円で、計数十億円に上るとみられている。年収300万円台以下の所得層が大半で、200万円前後の借金を抱えていた。

 投資セミナーやインターネット上で、「借金を帳消しにして不動産を持てる」と勧誘していた。マンションの賃貸収入の範囲内でローンを返せるという触れ込みだった。

「フラット35」は、1%程度の固定低金利で35年間借りられる。投資向けの不動産の融資よりは低利で借りられることから、住まずに投資に回す借り入れの手口で不正が行われていた。

「フラット35」は、自ら居住する目的で住宅を購入する人に対し、住宅金融支援機構と提携した民間金融機関が資金を貸し出す。35年間の長期にわたり低い固定金利で借りられるのが特徴だ。投資用不動産を取得するための利用は認めていない。

 アルヒは5月7日、「当社が主体となり不正を行った事実は確認されていない」と発表した。ただ、過去の融資案件で不正な申請が持ち込まれ、意図せずに実行した可能性について住宅金融支援機構と調査を実施中とした。

 市場では、アルヒへの影響を懸念した売りが続いた。

 アルヒの代表取締役会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)兼COO(最高執行責任者)の浜田宏氏は5月14日の決算説明会で、こうコメントした。

「住宅ローンは直接面談をして、居住意思を確認した後に融資する。融資後のローン債権は住宅金融支援機構に譲渡しており、万が一、不動産投資への流用などに関してアルヒがミスをしていれば債権を買い戻す必要がある。しかし、債権の買い戻しは今までもなく、アルヒにミスはないと考えている」

 過去の調査結果が出たことから、アルヒ株は成長力期待から買い戻された。6月28日の終値は2111円(56円高)。5月8日の安値(1414円)から49%上昇した。

住宅ローンの融資額でメガバンクを上回り国内トップを目指す

 アルヒは17年12月14日、東京証券取引所第1部に上場した。初値は1270円と公開価格(1300円)を下回ったものの、終値は1338円だった。

 この間、オーナー企業は再三交代した。2000年6月設立時の社名はソフトバンク・ファイナンスカード。01年5月から日本初の住宅ローン専門の金融機関モーゲージバンクとして営業を開始。05年5月、SBIホールディングスグループのSBIモーゲージに社名を変更した。

 15年2月、米投資ファンドのカーライル・グループの傘下に入る。浜田氏が経営に参画し、社名変更を主導。15年5月、社名をアルヒに変更した。社名は「ある日」が由来。人が家を買おうと決断する大きな節目の「ある日」の手伝いするというのが命名の理由だ。

 浜田氏は1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。米サンダーバード国際経営大学院修了。82年、山下新日本汽船(現商船三井)に入社。デル・コンピューター(現デル)日本法人社長、HOYA取締役COOなどを経て15年5月、アルヒの会長兼CEOに就いた。

 トップ就任2年半で東証1部上場を果たした。上場時点で会見した浜田氏は「5~6年後に住宅ローン年間融資額1兆2000億円以上を目指し、固定金利型、変動金利型の住宅ローンの融資額全体で国内トップになりたい」と抱負を語った。

 メガバンクを含む邦銀を抑えて首位になるというのだ。浜田氏はアルヒの強みについて「日本でもっとも低い金利の商品を提供することだ」と述べた。

外国投資ファンドが多数、株主に名を連ねる

 アルヒが住宅金融支援機構と提携して提供する最長35年の全期間固定金利住宅ローン「フラット35」の取り扱い件数は、10年度から9年連続でトップシェアを守っている。

 住信SBIネット銀行、ソニー銀行、楽天銀行などインターネット専業銀行と提携して変動金利型の住宅ローンも販売する。

 全国の直営店やフランチャイズ店舗など、計155店(19年3月末時点)を擁する。住宅ローンを販売して得られる手数料が収益源となっているため、住宅ローンの金利競争の影響を受けにくい。審査にはロボティクス(ロボット工学)やデータマイニング(ビッグデータを分析し、相関を見つけること)といった最先端のIT(情報技術)を駆使し、申し込みから最短6営業日で融資を実行できるのが強みだ。

 19年3月期の連結決算(国際会計基準)の売上高に当たる売上収益は前期比17%増の238億円、当期純利益は同10%減の43億円。18年同期に12億円の繰り延べ税金資産を計上していた影響で減益となった。

 20年3月期の売上収益は19年3月期比14%増の272億円、当期純利益は同12%増の48億円を予想。年間配当金は50円に増額を計画している。18年3月期の配当は22円、19年同期は44円と倍増。さらに増やすとしている。

 アルヒは株式の売り出しを実施した。売り出し人は筆頭株主だったカーライル・グループとSBIホールディングスで、売り出し価格は2051円。受渡日は3月5日。自己株式を除いた売り出し株数の割合は40%に上る。

 この結果、新しい株主に海外の投資ファンドが名を連ねた。アルヒの株価は持ち直し、売り出し価格(2051円)を3%上回ったが、ほぼ同一水準といえる。年初来高値は2566円(1月21日)である。会長兼社長兼CEO兼COOと、全権を一手に握る浜田氏は具体的な株価上昇策を求められることになる。

「フラット35」の不正は不動産バブル崩壊の予兆か

「フラット35」は、戦後長らく続いてきた「持ち家促進政策」にほかならない。当然ながら、利殖のために使うのは御法度である。不動産業界では、「不正を行う大きな理由は、多重債務者の借り換え」(金融アナリスト)といわれている。「フラット35」で過大な融資を受け、差額分を借金の返済に充てるというスキームだ。

 不動産会社は、仲介するだけで責任は取らない。どんな融資案件でも住宅金融支援機構が手数料を上乗せして買い取ってくれるから、貸し倒れリスクはゼロである。

「フラット35」の運用に関しては、12年に会計検査院が融資体制の甘さを指摘している。住宅金融支援機構が審査を厳格にしないため、「なんちゃって」のような事案を根絶できない、とみられてきた。

 仮に、本当に「フラット35」で不正を行っている人の多くが多重債務者だとすると、極めて厄介なことになる。物件を投資用として使っているのであれば、購入者は住宅金融支援機構に「住所変更届」を出しているはずだ。住所変更届の件数をきちんと把握すれば、“不正”の実態はわかるとされている。

「フラット35」の闇は深くて暗い。
(文=編集部)

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