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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

金の卵を産むニワトリを使って、最大限の利益を稼ぐ方法…「現在価値」という重要な思考

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

 先ほど100万円を1%の利率で銀行に預けるという例を出しました。でも、あなたは100万円をもっと有利な条件で増やしたいと考えるでしょう。実態として今の大手銀行の普通預金の金利は0.001%、100万円を1年間預けてやっと10円の金利です。定期預金にすると、なんと普通預金の10倍の金利がつきますが、それでも0.01%です。

 だから、もっとリターンが大きくなるような商品、たとえば金や上場株式等に投資しようと考えるかもしれませんし、何か商品を買ってオークションやフリマアプリで売ることを考えるかもしれません。100万円を増やす手段はいくらでも考えられます。ですから、ニワトリの買い手は今持っている1000円を増やす手段として、あなたの持っているニワトリを買うのが損なのか得なのか、ほかの投資機会と比較して考えているというわけです。だからあなたは最低でも1000円を100日間銀行に預けている間に得られる利息よりも、お得になる金額を提示しなければならないのですね。

リスクと現在価値

 さて今、金利という観点で現在価値を見てきましたが、もうひとつリスクについて考えなければなりません。先ほどのニワトリが本当に100日間毎日一個産むかどうかもリスクですし、本当に卵一個当たり10円の利益が取れるかどうかわからないというのもリスクです。ニワトリの買い手が養鶏業者のようにノウハウを持っている人であればリスクは小さいですが、まったくの素人であればうまく卵を産ませ続けられるかどうかというリスクもあります。これらも踏まえて価値を考える必要があります。

 これも別の例で説明してみましょう。あなたの友人が、「5年後に必ず返すから100万円貸してくれ」と頼んできたとしましょう。長いつき合いだから必ず返してくれると信用できるとしても、100万円をそのまま貸すのはあまりにお人好しです。先ほどの話のように、あなたはその100万円をほかの方法で増やすこともできるからです。仮に友人から3%の利息をもらうとしたら、5年後には116万円返してもらう約束をしなければなりません。金利3%の5年間は、総額が16%増える計算です。それに当てはめると、5年後に100万円返してもらいたいならば、今貸せる金額は87万円です。

 しかし、その友人はたぶん返してくれると思うけど、そうじゃない可能性もあると考えたとします。つまり、返済されないというリスクがあると考えます。損をするのは嫌だから貸さないというのもひとつの考え方ですが、ビジネスの世界ではそのリスクを数字で考えます。たとえば、返ってこない確率が五分五分であると考えるならば、5年後には200万円以上を返してもらう約束をしなければなりません。5年で倍以上というと、金利に直せば15%です。5年後に返してもらう金額を100万円にするならば、今貸せるお金は54万円です。

 ちなみに、ここで少し余談ですが、消費者金融でお金を借りれば15パーセントの金利はよく見かける利率です。この金利で長い期間お金を借りるととんでもない金額になってしまうことが、先ほどの例を踏まえれば簡単にイメージできると思います。厳密には先ほどの計算は複利計算、つまり利息にも利息が付く計算方法で、消費者金融で貸すお金は単利、利息には利息が付かない計算ですので、5年で倍とまではいきませんが、この利息を見る限り、消費者金融側は、ここでお金を借りる人たちが返さないリスクをかなり大きく見積もっていることがわかります。

 また、クレジットカードのリボルビング払いの手数料も年率15~18%程度に設定されています。クレジットカードを持っていると、リボ払いに切り替えると豪華賞品がもらえるなどのキャンペーンを頻繁に受け取りますが、長期にわたって使うと、相当な金額を手数料として払う必要があることは、もう皆さんおわかりでしょう。

会社の値段の決め方

 さて、これまで卵を産むニワトリを例に、利息とリスクについてお話をしてきましたが、やっとここからが本題、つまり事業の値段についてです。

 事業は金の卵を産むガチョウと同じと考えることができます。上手に経営すれば永遠に卵を産み続けます。たとえば、毎年1000万円の利益を生む会社に1億円の値段をつけるとすると、1億円÷1000万円=10ですから、買い手はこの会社への投資を、10年で回収したいと考えている、ということになります(註:話を簡単にするためこの計算には現在価値で割り引いていません)。

 このような考え方は、今は関係ないと思う人も、難しいから敬遠したいと感じる人も、知っておくと必ず役に立つ時が来ると思います。

 たとえば、今、多くの中小企業が後継者問題を抱えています。私の行きつけの飲食店も、高齢を理由に閉店したところがたくさんありますが、廃業する以外の方法はあったはずだと残念に思います。

 たとえば夫婦二人で切り盛りしていて、ノウハウはすべてこの夫婦が持っている店があるとします。お客さんがついているならば、利益は出ていることでしょう。店の家賃や光熱費、材料費、人件費、利益をきちんと計算すれば、この店の現在価値は簡単に算出できます。レシピが門外不出で、店主が文章を書くのが苦手だったとしても、誰かに頼んでレシピを文字や映像にして残しておけば、味が変わるリスクが減らせますから、その分高い価値がつくはずです。そうすればお店を適正な値段で売ることができるため、夫婦にはキャッシュが入り、お店も存続します。夫婦が企業価値に関して聞く耳を持たなかったのか、アドバイスする人がいなかったのか、原因はいろいろだと思いますが、実にもったいないことです。

 あなたが今、会社員であっても、次のステップとして今あるビジネスを買うことは十分に考えられます。ケーキ屋を一からつくるよりは、すでにあるケーキ屋を買うほうがよいケースもあるでしょう。その時にこの会社の値段の決め方について知っておくことは、必ず役に立つはずです。

 イソップの寓話は紀元前6世紀頃につくられたといわれています。その当時に現在価値という考え方があったのかどうかわかりませんが、ガチョウそのものを適切な値段で売る方法を誰かがせっかちな農夫も教えてあげることもできたのに、と思います。

(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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