ミスド、大量閉店ラッシュ…深刻な客離れの兆候、「ドーナツを食べる」という習慣が急減

ミスタードーナツの店舗(撮影=編集部)

 ミスタードーナツの大量閉店が止まらなくなっている。運営会社のダスキンによると、2019年3月末時点のミスドの国内稼働店舗数は1007店で、1年前から79店減った。年間70~80店規模の大幅減が3期連続で続いている。

 ミスドの国内チェーン全店売上高も減少の一途をたどっている。19年3月期は740億円で前期比5%減だ。減少は11年連続で、ピーク(08年3月期)の1253億円から4割減っている。

 コンビニエンスストアで、ドーナツを含めたスイーツや菓子を手軽に買えるようになったほか、消費者の健康志向の高まりで高カロリーのイメージが強いドーナツを敬遠する人が増えたことが影響し、ミスドは苦戦するようになった。

 苦戦が続く一方、収益性が改善傾向にあることは救いだ。19年3月期の稼働店1店当たりの売上高は、前期比1.7%増だった。ミスドを主体としたダスキンのフード事業も収益性改善基調が続いており、19年3月期の営業利益は3億2000万円と2期連続で黒字を確保した。17年3月期までは4期連続で赤字が続いていたが、不採算店の閉鎖が功を奏し、収益性が改善している。

 さらなる収益性の改善を期待したいところだが、今後が危ぶまれる出来事が起きてしまった。ダスキンは5月21日、ミスタードーナツ門司駅前店(北九州市)で元アルバイト従業員が厨房に入って不適切な動画を撮影し、インターネット上に投稿していたと発表した。それは、元アルバイト従業員が店舗の厨房に入り、調理器具や食材を触るように見える場面が映った動画だった。この動画が拡散し、批判の声が上がった。ミスドでいわゆる“バイトテロ”が起きてしまった格好だ。

バイトテロで深刻な客離れの恐れ

 今年に入ってからだけでもバイトテロはいくつか発生しているが、バイトテロが起きた飲食店では深刻な客離れが起きている。

 たとえば、アルバイト従業員がごみ箱に捨てた魚をまな板に戻して調理しようとする様子を映した動画がネット上で拡散した回転ずしチェーン「くら寿司」では、騒動が起きた2月の既存店客数が、前年同月比6.1%減、翌3月が5.2%減となるなど、客数の大幅減が続いている。

 また、定食チェーン「大戸屋ごはん処」では、アルバイト従業員が配膳用のトレーで裸の下半身を覆う様子を映した動画が拡散し、大きな問題となった。動画が拡散した2月の客数は6.4%減、翌3月は10.8%減と、くら寿司同様に深刻な客離れが起きている。なお、3月は大半の店舗を1日休業して再発防止の研修を実施しており、その休業日を除外して前年と同じ営業日数で比較した場合の増減率を大戸屋は8.5%減としているが、大幅マイナスであることに変わりはない。

 このように、バイトテロが起きた飲食店では深刻な客離れが生じており、ミスドも同様の客離れが懸念される。ダスキンはミスドの月次の販売動向を公表していないため、バイトテロの影響を確認することは難しいが、たとえ一時期的だったとしても、客離れが起きることは必至だろう。ミスドの動画では、アルバイトが食材を触るように見える様子が映っていたが、その食材が客に出された可能性があると思うと、ミスドのドーナツを食べようという気は失せる。同様に感じる人は少なくないだろう。これをきっかけに客離れが起きてしまえば、さらなる業績悪化は避けられない。

 このように、ミスドは業績悪化で苦しんでいるが、バイトテロによる客離れでさらなる業績悪化が懸念される。バイトテロによる影響はいずれ沈静化するので、時間がたつのを待つほかないが、以前からの販売不振から来る業績悪化に対しては、抜本的な対策を講じる必要がある。

「非ドーナツ」商品強化で業績改善を図る

 そうしたなか、ミスドは「非ドーナツ」商品の販売を強化することで売り上げ向上を実現し、業績改善を図りたい考えだ。

 ミスドは17年11月からパスタなどの軽食メニューを「ミスドゴハン」として販売を開始した。さまざまな軽食メニューを販売してきたが、最近では4月下旬から春夏の期間限定で、フランクフルトやグラタン、リンゴなどをそれぞれパイ生地で包んだ軽食メニュー6種を販売している。同時に、今若者に人気のタピオカドリンク4種も期間限定で販売を始めた。このように軽食メニューを強化することでランチ需要などを取り込みたい考えだ。

 こうした“非ドーナツ”強化の動きは、ドーナツの本場、米国でも起きている。日本でもかつて展開されていた、米国生まれの世界的なドーナツチェーン「ダンキンドーナツ」は非ドーナツをアピールするため、今年1月からブランド名から「ドーナツ」を外し、「ダンキン」の名で再出発を図っている。

 ダンキンは1948年の創業当初から、ドーナツとコーヒーを看板メニューとして販売してきた。そのため、ドーナツ店でありながらカフェの性格も強くある。イメージとしてはミスドとスターバックスが合わさったような店といえるかもしれない。それが今はカフェの性格がかなり強くなっており、ドーナツの名を外したのは、実態に即してカフェの面を強く訴求したい思惑がありそうだ。ダンキンは、もはや名実ともにドーナツ店ではないのかもしれない。

 なお、米国発祥のミスドは1990年に米食品大手のアライド・リヨンズに買収され、米国のミスドのほとんどがダンキンドーナツへ移行している。これにより米国では現在ミスドブランドはイリノイ州に1店舗を残すのみとなっており、存在感はほとんどない。米国でドーナツ店といえばミスドではなくダンキンとなっているのだ。

 米国では、ドーナツはコーヒーと一緒に朝食にする人がいるほど根強い人気がある。しかし、米国でも健康志向が広がっており、ドーナツは敬遠されるようになった。こうしたことから、ダンキンは非ドーナツメニューとして朝食メニューを強化している。

 ダンキンで販売する「ベジ・エッグ・ホワイト」は、ピーマンやマッシュルーム、ネギが入った卵白のオムレツとチーズをバンズ(パン)で挟んだホットサンドイッチで、健康志向の消費者向け朝食メニューとして売り出している。もちろんドーナツは入っていない。

 今春には非ドーナツの朝食メニューとして「エッグ・ホワイト・ボウル」と「ソーセージ・スクランブル・ボウル」を発売。カップ麺のような容器の中に、前者は卵白、ホウレンソウ、ローストポテト、タマネギ、チーズが入り、後者はスクランブルエッグ、ソーセージ、ピーマン、タマネギ、チーズが入っている。

 こうしてダンキンでは、ドーナツはどんどん脇に追いやられている。非ドーナツの流れは米国も日本も同じで、消費者の健康志向が続く限り、ドーナツ販売はどちらの国でも厳しくなっている。日本のコンビニエンスストアでは、カウンターコーヒーとの併売を狙ってドーナツをカウンターで販売する動きがあったが、今となってはドーナツをカウンターで見かけることはなくなってしまった。コンビニカウンターの力をもってしても、消費者の購買行動を変えてドーナツを爆発的に売ることはできなかった。

 日本のミスドもダンキンと同様に、ドーナツに頼らない運営を行っていかざるを得ない状況になっている。ダンキンとは方向性がやや異なるが、ミスドは軽食メニューを強化することで非ドーナツ需要を取り込み、業績を改善させたい考えだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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