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韓国、性接待“捏造”大国の闇…一大スキャンダル、次々と「壮大なデマ」判明の真相

文=高月靖/ジャーナリスト
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チャン・ジャヨンさんの葬儀(写真:Yonhap/アフロ)

韓国芸能界「性接待」のイメージと現実

 韓国芸能界がまた「性接待」で揺れている。今年に入って噴出した「V.Iゲート事件」では、K-POPを代表する男性グループBIGBANGのメンバー(3月に脱退)が渦中の人物となった。投資家らにコールガールをあてがった性接待=売春斡旋の容疑が持たれているためだ。

 5月にはそのBIGBANGの所属事務所、YGエンターテインメントのヤン・ヒョンソク代表の性接待問題も浮上。こちらは2014年に東南アジアの資産家が訪韓した際、高級料亭で大勢の女性を斡旋したとの疑惑だ。ヤン代表は一連の疑いを否定しつつ、6月14日に「引退」を表明した。

 その4日前、6月10日にはかつて一大事件として騒がれた「チャン・ジャヨン事件」が意外な展開を見せている。新たな証言者として名乗り出た元女優ユン・ジオが、支援者らに損害賠償などを求める訴訟を起こされたのだ。その奇怪な経緯は、あとで詳しく見ることにしよう。

 日本でも、ことあるごとに報じられてきた韓国の性接待問題。とりわけ一部メディアでは、「韓国芸能界といえば性接待」といったイメージも根強いようだ。だが、その先入観と現実には、実は大きな隔たりがある。何かと取り沙汰されるこの問題を、いま改めて整理しておきたい。

チェ・ジウ、KARAもゴシップの的に

「ジウ姫」の愛称で親しまれた『冬のソナタ』主演女優チェ・ジウも、「枕営業でテレビ局の元社長を腹上死させた」と囁かれたことがあるが、この話はデマだということがわかっている。枕営業の相手と噂されたのは、元MBC社長のイ・トゥンニョル氏。01年に61歳で急死したのは事実だが、死因は夫人とのドライブ中に起こった食道静脈瘤の破裂だった。

 日本でK-POPブームの火つけ役となった女性グループKARAも、性接待で騒がれたことがある。KARAは10年8月の日本デビューから短期間で大きな人気を集めたが、翌年1月に一部メンバーとその親たちが所属事務所に「専属契約の無効」を求める騒動を起こした。その際に「望まない仕事を強要して人格を冒とくした」などと事務所を非難したことから、「性接待」を無理強いされたとの憶測が広まったわけだ。だが、これも実際は性接待などでなく、仕事上のささいな不満にすぎなかった。要するに、事務所を不利な状況に追い込むための言いがかりじみた主張だ。

「一大スキャンダル」の呆気ない結末

「韓国芸能界といえば性接待」というイメージを決定的にしたのが、冒頭で触れた「チャン・ジャヨン事件」だ。「メディアの大物らを相手に性接待を強要された女優が自殺」というショッキングな筋書きが大きな反響を呼び、日本でも連日ニュースで取り上げられた。だが13年まで続いた裁判の結末は、ほとんど報じられなかったようだ。

 結論からいうと、あれだけ世間を騒がせた「性接待の強要」は事実と認められなかった。警察の捜査と判決から浮かび上がった経緯は、次のとおりだ。

 事件は09年3月、29歳の美人女優チャン・ジャヨンが自殺したことから始まる。背後にいたのはチャンが所属していた芸能事務所元代表のK氏、そしてそこから独立したチャンの元マネージャーY氏。Y氏は独立に際して女優らを引き抜くなどし、K氏と裁判で争っていた。そのK氏も強制わいせつや薬物投与疑惑などの問題を起こしており、チャンは事務所と自分の将来に不安を感じていたようだ。

 Y氏はチャンも引き抜こうとしたが、移籍には専属契約に基づく巨額の違約金が必要になる。Y氏はこれを免れるため、チャンにK氏を陥れるための文書を書かせた。これが、のちに公営放送KBSの手に渡って韓国中を大騒ぎさせた「チャン・ジャヨンのリスト」。K氏からメディアの大物ら十数人を相手に「性接待」を強要されている、と告発する手記だ。

 チャンの死後、この文書で実名を挙げられたメディア関係者など大勢が取り調べを受けた。だが性接待の実態が1つも見つからなかったのは、上述のとおりだ。遺族によると、チャンは死の前年からうつ病で通院していた。また警察によると、文書を書かされたことを悔やんでいたという。そうした事務所移籍をめぐるトラブルにうつ病が重なった――というのが、捜査結果から浮かび上がる自殺の原因だ。

人々の「善意」で迷走していった事件

 事件の顛末が裁判で明らかになったのは、10年11月。だが韓国では、これを受け入れない人が多かった。性接待の相手に与党と近い要人がおり、事件をもみ消したというのだ。

 こうした反応を煽る役目を担ったのが当時の野党だ。その背景をかいつまんでおこう。チャンが自殺した09年は、2代続いた左派政権から李明博(イ・ミョンパク)の保守政権に代わった翌年にあたる。10年ぶりに下野した左派勢力は、保守政権を攻撃する材料を血眼で探していた。そこで目をつけたのが、「チャン・ジャヨンのリスト」に名前があった「朝鮮日報」系列の会社社長。「朝鮮日報」は、左派が目の敵にしてきた保守系有力紙だ。野党はこれを政権批判の材料とし、国会で「警察の捜査に圧力が加えられている」などの追及を繰り広げた。

「国家権力が女優の悲痛な訴えを握りつぶした」という陰謀論を、純粋に信じた良心的な人々は多い。だが三回忌を迎えた11年3月には、そんな人々がデマに釣り上げられる事件が起きている。民法キー局SBSが「チャン・ジャヨンが性接待の被害を綴った手紙」を発見したと大々的に報じたところ、これがまた捏造と判明したのだ。チャンになりすました手紙の主は、ゴシップマニアの受刑者だった。

初めて沈黙を破った元恋人の証言

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領の誕生で左派が政権に返り咲いてほどなく、事件の再捜査を求める声が大統領官邸に殺到。政権発足の翌年、18年6月には検察が捜査を再開し、「朝鮮日報」の元記者がチャンに対する強制わいせつの疑いで在宅起訴された。そしてチャンの死から10年経った今年3月、事件に新たな登場人物が加わる。K氏の事務所でチャンの後輩だった元女優ユン・ジオが、「事件の唯一の目撃者」だと名乗り出て脚光を浴びたのだ。

 良心的な人々は、今度こそ国家権力が隠蔽した真実をユンが暴いてくれると期待した。ユンは「命を狙われている」などと主張しながら支援金を募り、少なくとも1500万円近くを集めたとされる。3月には『13回目の証言』と題したエッセイ集も出版した。

 だが次第に証言の信憑性が疑われ、カネ目あての売名行為といった疑惑が噴出。4月末には、エッセイ執筆を手伝った作家や弁護士から詐欺、名誉毀損などで訴えられた。一貫して沈黙を守っていたチャンの元恋人も、「故人に対する名誉毀損」「自分を含め誰もユンの名前を聞いたことがない」と発言。そしてついに募金に応じた支援者から、訴訟を起こされたわけだ。

 そうしたなか、ユンはカナダにいる母親の介護のためと称して出国。直後にその母親が実は韓国にいたことを明らかにしたのは、ユン自身だった。

虚実が入り交じる「性接待」スキャンダル

「韓国では女性芸能人が性接待を強いられている」――。日本の一部メディアで見られるこんなイメージはたいてい、上述したようなデマ、でっち上げが元だ。だがもちろん、韓国にも似たようなゴシップがないわけではない。たとえば芸能人志望の若者が「スターにしてやる」と言われて騙される、あるいはチャンスを求めて自ら体を売るといったケースなら、たびたびメディアをにぎわせている。

 16年には、落ちぶれたK-POP歌手が在米韓国人相手の売春容疑で捕まった。また13年には、女優ソン・ヒョナが資産家相手に援助交際を行った容疑で起訴されている。ただしソンは最高裁まで争った末、16年に無罪を勝ち取った。つまり売春ではなく、プライベートな恋愛だったと証明したわけだ。

 海を挟んで、虚実ない交ぜとなっている韓国芸能界の性接待問題。その顛末は得てして、単純なゴシップよりも意外な真相に彩られている。

(文=高月靖/ジャーナリスト)

高月靖

高月靖

ノンフィクションライター、イラストレーター。主著『キム・イル 大木金太郎伝説』『独島中毒』『韓国芸能界裏物語』『ワリカンにする日本人 オゴリが普通の韓国人』『徹底比較 日本vs.韓国』『南極1号伝説』『ロリコン』『韓国の「変」』など。

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