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高橋篤史「経済禁忌録」

老人ホーム「サニーライフ」、割高なサービスを毎日、入居老人に押し売る“銭ゲバ体質”

文=高橋篤史/ジャーナリスト
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サニーライフのHPより

「これは高齢者に対する経済的虐待ですよ」(元職員)――。

 20代職員による高齢入居者の傷害致死事件が記憶に新しい介護付有料老人ホームサニーライフ」をめぐり、別の闇が浮かび上がってきた。関係者の証言や内部資料によると、本社は現場の職員に対し日次管理で販売ノルマを課しており、そうした売り上げ至上主義がはびこる結果、一部で入居者本人の同意が不確かなまま有料サービスが提供されている疑いがあるのだ。

 サニーライフを運営するのは千葉県君津市に本社を置く川島コーポレーション(社長・川島輝雄氏)。設立は1990年。企業の寮やアパートだった建物を借り上げる手法で施設数を拡大させてきたのが特徴だ。現在、北は北海道から西は近畿まで121施設(別ブランドの「やわらぎ苑」を含む)を運営する。信用調査会社によると、2018年11月期は売上高387億円、営業利益28億円。業界ではSOMPOケア、ベネッセホールディングス、ニチイ学館といった大手に次ぐ中堅グループの一角を占める存在だ。

 同社の成長を支える特徴のもうひとつは低価格路線である。退去時の償却負担が重くなりがちな入居金は無料。月額利用料(管理費、食費、家賃、光熱水費)についても通常価格からの割引キャンペーンを前面に打ち出していることが多い。これらを武器にテレビコマーシャルや新聞折り込みチラシなどを大量に投下して入居者を募集している。

 しかし、実際に入居すると、実態は募集時の宣伝文句とかなり異なるという。

「最初は毎月の利用料が16~17万円といわれていたのに、入居したら22~23万円が請求されるようになりました」

 元入居者の家族はそう証言する。明細書をよく見ると、増額分はさまざまな有料サービスの利用によるものだった。代表的なものはそれぞれが1回380円の「フルーツ」や「喫茶」「総菜」の提供サービスである。

 この家族によると、入居者は毎日午後、施設内のレストランに集められ、コーヒーや果物などが配られていた。総菜は決められた食事メニューに小鉢などもう1品が追加されるものらしい。入居者がその場で代金を払うことはなく、1カ月ごとにまとめて請求される。そのため入居者側は事前に現金10万円(以前は5万円だった)を施設側に預けなければならない。使用された分を毎月補填していくやり方だという。

 入居時、家族に対しそうした提供についての詳しい説明はなく、請求書を見て施設側に問い質したところ、サービスの存在が初めてわかったという。この家族の場合、施設側に提供を控えるよう抗議し、利用頻度は減った。

 サニーライフではこのほかにも施設内で提供する有料サービスの種類がとにかく多い。「売店」と呼ぶワゴンサービスは毎日午後、職員が各自の個室を回って菓子類を販売するもの。価格はスーパーなどでの店頭価格より高いことが多く、ときには梅干しパックが約1000円で販売されることもあるという。さらに理美容やマッサージといった有料サービスもある。さまざまに企画されるレクリエーションも有料サービスを伴うことが多い。

 また、入居時には空気清浄機や靴、ひげ剃り、温度計、収納棚など施設側が提示した備品一式を買うことになるという。値段は5~7万円。前出の元入居者家族は「ほかでも買えるようなものだが、それを買わなければいけないような雰囲気だった」と振り返る。

 各種有料サービスに関し問題なのは、認知症の入居者が多いなか、本人が健康管理上のリスクや有料であることをきちんと理解した上で利用しているのか甚だ疑問であることだ。前出の家族によると、抗議後、施設側は認知症の入居者に関し利用上限額を月1万円に定めたという。が、他の入居者にどこまで徹底されているかは定かでない。

 というのも、こんな内部資料が存在するからだ。「売店販売伝票」と題された1枚紙がそれである。1日ごとの某施設における入居者ごとの注文商品名や数量、金額が職員によって手書きで記入されているのだが、筆者が入手したものを見ると、「入居者様サイン」のところはすべて空欄になっている。本人の同意をきちんと確認した上での販売だったのか、かなりの疑いがある。

 前出の家族は「お菓子が何個も入った袋を職員がぽんと入居者のところに置いていくだけのこともある。そうしたら、本人は全部食べちゃいますよね」と憤りを隠さない。

売り上げノルマ達成のプレッシャー

「押し売り」とも呼んでいい職員による行き過ぎた行為がどれだけ横行しているかはわからない。ただ、有料サービスの利用が高額に上りがちなのは実態として確かで、それは職員による熱心な売り込みがあるからだと思われる。それもそのはずで、職員に対しては日々、売り上げ増加に向け本社から強烈なプレッシャーがかかっているのだ。

 ここに社内メールの写しがある。本社企画部の部長が各施設の支配人以下職員に宛てたものだ。内容は東京事務所(東京・銀座)で近く開かれる部門長会議に関するもの。メールには会議の議題が8項目記載されているが、かいつまんでみるとこんな具合である。

「(2)売店・喫茶・フルーツ売上実績について」

「(3)衣料品販売実績について」

「(4)訪問マッサージ利用状況について」

「(8)理美容利用率」

 半分は件の有料サービスの売り上げに関するものだ。ほかの「(1)入居率について」や「(5)住宅型施設空コマに関する件」も増収策に関する議題に分類されるだろう。入居者の健康や安全に関する議題はひとつもない。

 冒頭のように指摘する元職員によると、こうした会議は毎月1回開かれているという。全国の施設から支配人やケアマネージャーが東京に招集され、総勢は150人ほど。東京事務所内には入りきらないため中央区内の別の施設を借りているという。

 さて、同社の売り上げ至上主義が最も顕著に表れているのは会場内での席順だ。売り上げ実績が悪い順から社長以下幹部連の視線をもろに浴びる最前列に並ばされるのである。

「99%は売り上げの話。社長は当たり障りのない話をすることが多いが、その下の部長クラスが『あんたのとこ、どうなってんの?』などと厳しい。成績が悪いところは後で個別に呼ばれて叱責されたりもする」

 有料サービスの提供には当然ノルマが課されており、その進捗状況は毎日、本部から「トップ・ワーストDaily速報」として送られてくる。職員は常に尻を叩かれている状況と言ってよい。

 筆者が入手した内部資料には、売店・喫茶・フルーツのノルマ進捗率について施設ごとのトップ10とワースト10が記載されており、「全体目標」(=ノルマ)、「全体実績」(=途中実績)、「遂行率」(=ノルマに対する進捗率)の数字がずらっと並んでいる。この月、最も成績が良いのは「サニーライフ越谷」(定員68人)で、この時点での売り上げは148万円、遂行率は188%。最も成績が悪い「サニーライフ埼玉」(定員105人)は49万円で55%とある。ちなみに傷害致死事件があった「サニーライフ北品川」(定員66人)は2番目の成績優秀施設で、売り上げは36万円、遂行率は153%である。

入居者の死亡も売り上げ確保の道具

 サニーライフの内情について思わず眉をひそめたくなるのは、会社側が入居者の死亡時を売り上げ獲得の好機だと考えているフシがある点だ。筆者の手元に東京事務所の営業部が各施設に宛てたメールがあり、そこにはこう記されている。

「……『葬儀事前相談依頼書』の依頼率が12月13日現在、全施設平均で23%と低調です。できている施設とできていない施設の二極化が激しくなっています。葬儀紹介業務の入り口です。……依頼率は、50%目標です。不振施設は、支配人会議で説明してもらいます。/以上」

 同社は外部の葬儀会社と提携しており、入居者の死亡時に斡旋する業務を行っている。なんらかのバックマージンが入る仕組みだと思われる。件のメールはその成約率を上げるため、入居者家族と事前相談ができるよう各施設でもっと努力せよというお触れだ。

「葬儀成約率向上に向けての留意点」と題された別の内部資料を見ると、その徹底ぶりに驚かされる。入居時のセールストークなどを職員向けにまとめたものだが、目を引くのは入院時に関する注意事項。それによれば、入居者が入院した場合、職員は週に1度は見舞いを実施するよう求められており、さらにこうある。

「・酸素5L以上吸入の場合は、見受人に病状ヒアリングする。点滴薬剤名も記録する」

 元職員によれば、見舞いというのは建て前で、求められているのは入居者の死期が近いかどうかを見極めることなのだという。酸素吸入量が5リットル以上というのはほぼ危篤状態を指す。さらに点滴の内容をチェックすることで容態が詳しくわかるのだという。病院側の説明には職員も同席することが求められている。件の内部資料から引けば、「いざという時のためにお勧めする」ためだ。

 そして、死亡時のセールストークもパターンごとに決まっている。家族から施設に電話連絡があった場合はこうである。

「最後までお手伝いさせていただきたいので施設のことをよく知っている提携葬儀会社をご案内したいのですがいかがでしょうか」

 前出の元職員は入社後しばらくして「この会社、どうなのかな? これは介護保険の枠から外れているんじゃないか?」と多くの疑問を感じ、昨年、退職を申し出た。現在は別の介護施設で働いている。それまで大手も含め数社で働いてきたベテランだが、サニーライフの売り上げ至上主義はあまりに異質だった。そして、今では「経済的虐待」だったと考えるようになった。

 これらについて会社はどのような認識を持っているのか。取材を申し込むべく、ホームページで問い合わせ先とされているフリーダイヤルに電話をした。電話口に出た相手の男性は社内で確認するためだろう、「少々お待ち下さい」と言い、しばらくすると、「こちらではお答えできません。対応できません」ととりつく島もない。しばらく押し問答をしたが、電話は一方的に切られた。

 同社のホームページには冒頭の入居者死亡事件について5月22日付で「弊社元従業員の逮捕につきまして」との文章が掲載されている。その分量は250字余り。「安全管理体制の強化について全社をあげて全力で取り組んでいく所存」などとされているが、その後の具体的取り組みなどに関する説明はいまだ何もなされてはいない。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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