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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

天才・モーツァルトでもできなかったのに、チャイコフスキーが海外で大金を稼げた理由

文=篠崎靖男/指揮者

海外に渡って大金を得た作曲家たち

 ところで、ヨーロッパの国々の作曲家が「外国旅行」でなく「海外旅行」をしたとすれば、18世紀半ばまでは、行先はイギリスでしょう。子供時代のモーツァルトは、この天才少年を売り込もうとの野心を持った父親にヨーロッパ中を連れ回されましたが、英仏海峡を渡る際に船酔いで苦しませてまで、息子を英ロンドンに連れて行ったのは、イギリスは当時、産業革命により活況に沸いていたためです。

 しかも、当時のイギリス王・ジョージ3世の妃、シャーロットは、ドイツ王家の王女。当然のごとく、ドイツ音楽を好んだために、モーツァルトは早速、バッキンガム宮殿に招かれ、シャーロット妃の歌に即興で見事に伴奏をつけたりして、国王夫妻に気に入られたのです。

 そんな幸運もあり、モーツァルト家族はロンドン市内で実に1年3カ月も生活をしたのです。ジョージ3世自身も音楽好きだったため、ロンドンはパリに並ぶヨーロッパ最大の音楽都市であり、作曲家ハイドンなどは2度も訪れて、代表する交響曲のほとんどを作曲したくらいです。つまり、音楽家にとってロンドンは“お金になる街”だったのです。18世紀に入ってからも、実現こそしませんでしたが、お金に困ったベートーヴェンはロンドン行きを計画していたのです。

 ところが、18世紀も後半になり、ヨーロッパの作曲家の海外旅行は、新天地・アメリカへと変わっていきます。これは、風任せの帆船のために、イギリスのリヴァブール港からアメリカのニューヨーク港まで30日前後かかっていた航海日数が、蒸気船の出現によって大幅に短縮できたことも後押ししたのでしょう。チャイコフスキー、ドヴォルザーク、マーラーのような大作曲家が、どんどんアメリカに渡っていきました。

 ドヴォルザークは、ニューヨークの音楽院の院長に就任したのですが、当時、自国チェコのプラハ音楽院からもらっていた給料の、なんと25倍も支払われたそうで、妻と6人の子供を抱えたドヴォルザークにとっては大助かりでした。しかし、アメリカでのドヴォルザークは、莫大なお金を得ただけではありません。ロンドンでのハイドンのように、交響曲第9番『新世界より』、チェロ協奏曲、弦楽四重奏曲『アメリカ』を作曲。後年の我々に、代表作品を残してくれたのでした。

 そんななか、バレエ『白鳥の湖』や、交響曲第6番『悲愴』を生んだロシアの作曲家・チャイコフスキーは1891年、ニューヨークに新しくできたカーネギーホールのこけら落としのためにアメリカに渡り、自作の指揮をすることになりました。もちろん、莫大な出演料が約束されていました。しかしながら、その時のコンサートでは、観客を大いに落胆させたようです。チャイコフスキーは、「ニューヨークでは自分の曲を知っている人はあまりいないだろう」と考え、若い時の作品を少し手直しして演奏したのですが、実際にはアメリカではチャイコフスキーの人気はとても高く、観客に「あれ、あの曲じゃないか」と、すぐに見破られてしまったそうです。

 とはいえ、このコンサートで莫大なお金を稼いだチャイコフスキーですが、ロシアに帰る時にはほとんど残っていませんでした。実は、チャイコフスキーは「財布に穴が開いている」といわれるほどの浪費家で、王侯貴族のように、お金が入ればすぐに使い果たしてしまうのでした。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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