電話対応、新入社員の恐怖の難関に…上司の叱責は逆効果、そもそも固定電話の経験なし

「gettyimages」より

 4月に新入社員が入社してから3カ月以上が過ぎた。企業によって方針は異なるが、新入社員研修の期間を経て社会人としての心得を学んだ新人たちは各部署に配属され、それぞれの業務をこなしている頃だろう。そんな新人が最初に任される業務といえば、いわゆる「電話番」だ。しかし、近年では、ある理由から電話対応に苦心する新入社員が増えているという。

新人が「受話器を取れない」理由

 企業の社員研修プログラムで講師を務める、NPO法人日本サービスマナー協会の森麻紀氏は「3~4年ほど前から、新入社員の電話への苦手意識が強くなっている」と話す。

「もちろん、昔からビジネスシーンの電話対応が苦手という新入社員はいました。ただ、近年は『固定電話の使い方がわからない』『電話に出るのが怖い』という新入社員が増えているという特徴があります」(同)

 社会人になるまで日常的に固定電話に触れたことがないという生活環境が、電話の苦手意識につながっているという。その原因として考えられるのは、当然ながら「ケータイ・スマホの普及」だ。

「かつては各家庭に固定電話があり、子どもの頃から“わからない相手”が家族の“誰か”にかけてきた電話を取る機会がありました。そのため、電話対応は新人でもできる仕事、と認識されています。しかし、携帯電話が普及した後の世代のなかには、固定電話がない環境で育ったという人も少なくない。彼らにとっての電話はケータイなので、相手の番号が表示されて相手がわかった上で出るもの、という意識が強いのです。そのため、電話業務を任されても『知らない相手からの電話が怖い』と感じ、なかなか受話器が取れない……と悩んでしまう人が増えています(同)

 また、ケータイやスマートフォンは親しい人との連絡手段であるため、最低限の敬語を使い慣れていないことも特徴だ。森氏の研修に参加した新入社員のなかにも、ビジネスシーンではふさわしくない「もしもし」や「はい」を第一声で発してしまったり、逆に慇懃無礼な「二重敬語」を使ってしまったりするケースも少なくないという。

「若者は固定電話の使い方にも特徴があります。固定電話ならではの『保留ボタン』や『内線・外線』などの機能を知らないため、保留せずにほかの社員に電話を取り次いでしまった、というエピソードを耳にしたことがあります。その場合は、電話の機能から学ぶ必要がありますね」(同)

 それでも、新入社員が「電話番」を担うことで、対外的な対応のイロハを学ぶことができる。苦手意識だけで電話対応を拒否するのは考えものだという。

上司世代にも意外な注意点が

 新入社員にとって最初の難関となる「電話対応技術の習得」だが、克服するためには練習と経験あるのみ、と森氏はアドバイスを送る。

「積極的に電話に出るのはもちろん、敬語や丁寧語は言葉として言い慣れることがポイントです。また、自宅で電話対応の言い回しを練習し、録音して聞き返すと、おかしな点が見えてくるはず。うまく話せないからといって電話を取らずにいては、上達することなどありません」(同)

 しっかり電話対応ができるようになれば、社内での評価も向上すると考えていいだろう。一方、新入社員を教育する立場にある上の世代にも注意点がある、と森氏は指摘する。

「新入社員の教育を担当する人は、より丁寧に電話対応の流れを教えるように意識してください。『内線・外線の説明』や『電話を取り次ぐ際は保留にする』というマナーなど、固定電話に慣れている世代にとって“常識”だと思うことまで、丁寧に説明しましょう。年上世代が抱いている固定電話への共通認識をそのまま新人教育にも使うと、思わぬトラブルを招く可能性があります」(同)

 また、新入社員が電話対応でミスをしても過剰に責めるのは望ましくないという。

「特に、敬語の使い方についてキツく指摘するのは避けましょう。『また変な言葉遣いを怒られたらどうしよう』と不安になり、電話を取る勇気がなくなってしまいます。もちろん訂正や指導は必要ですが、頭ごなしに叱るのはNGです」(同)

 間違いを指摘しつつ、電話に不慣れな新入社員たちへの精神的なケアも必要なのだ。

「電話不要論」はナンセンス?

 2017年、実業家の堀江貴文氏が「電話不要論」を唱えて賛否両論を巻き起こした。その主張は「電話がかかってくると仕事を強制的に中断される。メールで十分」というもの。しかし、森氏は「電話を一概に否定できない」と話す。

「確かに電話にはタイミング次第で相手の仕事を止めてしまう、などのデメリットはあります。一方で、電話をかけることでスピーディーに仕事が進んだり、電話の向こうにいる人の感情を声から読み取ったりすることもできるので、現状ではメリットのほうが多いのではないでしょうか」(同)

 また、森氏は「現段階で電話対応という業務をなくすのは難しい」と分析する。もちろん、実業家と新入社員では状況が異なるので同列には語れないが、こと新人にとって、最初に「電話番」を任されることには大きな意味があるという。

「電話対応を通して、先輩が行っている仕事の内容や取引している顧客の傾向など、自社の特徴を把握することができます。また、ビジネスメールに慣れていなくても、細かいニュアンスを電話で補足できるので、新入社員にとっては逆に欠かせないコミュニケーションツールだと思います」(同)

 自社の特徴や仕事の理解度を深める、電話対応業務。新入社員はもちろん「電話は不要だ」と考えている先輩社員も、その重要性を再確認してみてはいかがだろうか。

(文=真島加代/清談社)

●森麻紀(もり・まき)
日本サービスマナー協会 特別マナー講師
百貨店で5年間、能力開発部に所属し新人教育に携わる。1996年から大手エステサロンでオペレーター、カウンセラーとして勤務。その後もエステサロンを中心に「お客様を笑顔にできるサービス」を実践している。専門はビジネスマナー研修、接遇マナー研修、電話対応研修など多数。

●「NPO法人日本サービスマナー協会

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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