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紙おむつ“素材”市場、また中韓メーカー台頭で世界的戦乱状態…日本連合が圧倒的シェア1位へ

文=編集部
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「Getty Images」より

 紙おむつには、尿などを効率的に吸い取る高吸水性ポリマー(SAP)が使われている。2枚の不織布で吸水性ポリマーを挟み込んだシートとして商品化されている。SAPの国内メーカーは、日本触媒、住友精化、三洋化成工業の3社があり、P&G、ユニ・チャーム、花王、大王製紙、キンバリー・クラークなどに向けて出荷されている。

 紙おむつ用吸水性素材で世界首位の日本触媒と同5位の三洋化成は、2020年10月をめどに経営統合することで合意した。統合によりSAP市場における世界シェアを3割まで引き上げる。

 持ち株会社を設立して両社を完全子会社とする。株式移転比率は、19年12月に締結する最終契約で決める。持ち株会社の株式は東証1部へ新規上場を申請する。上場日は株式移転の効力発生日となる20年10月1日を予定。日本触媒と三洋化成は上場廃止となる。

 統合持ち株会社の社長には日本触媒の五嶋祐治朗社長、代表権を持つ会長には三洋化成の安藤孝夫社長が就く。統合で人員整理はしないとしている。

日本触媒は高杉良の経済小説『炎の経営者』のモデル

 17年3月19日、フジテレビはスペシャルドラマ『炎の経営者』をオンエアした。1986年に高杉良が発表した『炎の経営者』(文春文庫)の初のテレビドラマ化である。

 日本触媒工業(現日本触媒)の第2代社長(実質の創業者)である八谷泰造が、このドラマの主役である。小さな町工場の経営者が“当たって砕けろ”の精神で急成長していく姿を描いている。

 高杉良の小説は、1950年11月に社長の八谷泰造が山陽本線下り夜行急行列車「筑紫」内で、富士製鐵社長の永野重雄に出資を依頼するシーンから始まる。研究者の八谷は1949年4月、2代目社長に就き、社名を日本触媒工業に改め再出発を図った。しかし、戦後の未曾有の不景気の時代である。すぐに資金繰りで行き詰まった。

 かつて八谷の会社に勤め、かつ八谷家に居候していた将棋棋士の升田幸三に知恵を付けられ、同じ広島県出身の富士製鐵社長の永野重雄への出資依頼の直談判を決意する。永野が広畑製鐵所に視察に行くとの情報を得た八谷は、夜行急行「筑紫」に乗り込んだ。一介の町工場の経営者にすぎない八谷だったが、面識のない財界の巨頭、永野を相手に「重化学工業の発展こそが日本経済の推進力になる」と、夜汽車の中で持論を展開。ついに1000万円の出資を承諾させた。

 日本触媒を語るとき、必ず取り上げられる有名なエピソードだ。

リーマンショック後、SAPとアクリル酸の生産設備を完成

“当たって砕けろ”の八谷精神は、その後を継いだ経営者に引き継がれた。08年のリーマンショックの際、各企業が設備投資を抑制したが、日本触媒はSAPやその原料のアクリル酸の生産設備を完成させた。

 紙おむつに欠かせないSAPは、世界で流通する4分の1を日本触媒が生産している。世界のトップシェアである。

 日本触媒の19年3月期の連結決算の売上高は前期比8%増の3496億円、営業利益は同2%減の261億円、純利益は3%増の250億円だった。

 SAP原料のアクリル酸などの基礎化学品の売上高は1681億円(構成比は36.9%)。紙おむつの原料となるSAPなどの機能性化学品の売上高は1983億円(構成比は54.6%)。

 日本触媒はSAPや原料のアクリル酸を自社生産しており、同業他社と比べて競争力はある。12年9月、兵庫県姫路市の工場で爆発事故を起こし、一時的に世界規模でSAPの供給不足に陥ったほどだ。

 株主構成は、住友化学工業が持株比率6.69%で筆頭株主。三洋化成は3.11%保有する7位の株主だ(19年3月末時点)。

三洋化成は豊田通商と東レの関連会社

 三洋化成の株主構成をみると、豊田通商が18.21%で筆頭株主。東レは16.26%で第2位。日本触媒は4.70%で第4位(19年3月末時点)。豊田通商と東レの関連会社である。

 三洋化成は1949年、三洋油脂工業として創業。もともとは三菱化学と関係が深かった。01年3月、SAPを製造するサンダイヤポリマーを三洋化成60%、三菱化学40%出資で設立。営業を開始した。

 三菱化学は13年3月、SAP事業から撤退する。サンダイヤポリマーの持株40%のうち30%は豊田通商、10%を三洋化成に譲渡した。この結果、サンダイヤは三洋化成が70%、豊田通商が30%出資する合弁会社となり、社名をSDPグローバルに変更した。

 豊田通商は三洋化成が世界で初めてSAPの商業生産を始めて以来、その販売に携わってきた。三洋化成と豊田通商はSAPを戦略的開発商品と位置付けている。豊田通商は出資比率を高め、三洋化成を持ち分法適用会社に組み入れた。

 三洋化成の19年3月期の連結決算の売上高は前期比微減の1615億円、営業利益は同8%増の129億円、純利益は同42%減の53億円だった。SAPなど生活・健康産業関連の売上高は552億円(構成比34.2%)である。

 SAPの生産能力は、日本触媒、独BASF、独エボニック、住友精化に次いで、三洋化成は世界第5位だ。ただし、独BASF、同エボニックの18年度の全売上高はそれぞれ7兆7000億円と日本触媒の22倍に上る。日本触媒の五嶋祐治朗社長自ら「10年後も生き残るには規模が小さすぎる」と述べている。

 日本触媒は16年、SAPの特許侵害をめぐり、住友精化に10億円の損害を請求する訴えを起こした。18年8月、日本触媒から和解を申し入れ、和解が成立した。

大型再編の起爆剤になるか

 紙おむつ市場は、国内は少子高齢化で縮小傾向にあるが、世界規模でみると成長分野だ。中国は世界最大の紙おむつ消費国であり、アジア諸国やインドは巨大なマーケットだ。

 SAP市場には中韓メーカーの新規参入や設備増強が続き、戦国乱世の様相をみせている。

 三洋化成は、次の大型の設備投資が難しかったため、日本触媒との統合に合意した。住友化学が筆頭株主の住友精化が日本触媒=三洋化成連合に合流し、世界の紙おむつの原料市場で、5割のシェアを目指すとの観測も出ている。

 03年、住友化学と三井化学の合併が破談になって以降、化学メーカーの再編の動きは停滞していた。日本触媒と三洋化成の統合が、化学工業の大型再編の起爆剤になる可能性もある。

 日本触媒の五嶋社長は日本経済新聞のインタビューで、三洋化成との経営統合により「次世代電池といった新事業の育成により100億円の統合効果を生み出す」と語った。主力ながら先行き不透明な「おむつ原料」の次の製品開発に意欲を示した。

 力を入れるのは、「全樹脂電池」と呼ぶ次世代電池だ。電極を含めてほぼすべて金属を使わない樹脂製のため発火しにくいという利点がある。
(文=編集部)

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