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僕が田舎の会社を辞めて世界的アーティストに上り詰めた“きっかけ”と“運”

文=道明寺美清/ライター
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技術の進化に負けそうになる

 順風満帆にみえたさとう氏を次に襲ったのは、“技術の進歩”だった。

「インクジェットプリンターの登場は、私のようにアートペイントを仕事とする者にとって脅威でした。外壁でもシャッターでも、どこにでもインクジェットプリンターで絵を描けるんですよ。アーティストに頼むより安く速くできるので、当然、仕事は減りますよね」(同)

 それまでは筆やエアブラシを使用し描いていたさとう氏の絵は制作に時間もかかるため、インクジェットプリンターには負けてしまうと感じ、『新しいマーケットを開拓すること」を考え始めた。

「思いついたのが『ライブアートペイント』でした。それには『楽しませる』ことが必須だから、『スピード』と『意外性』が大事だと考えて、模索するなか中で出合ったのがローラーペイントでした」(同)

 新しいマーケットを開拓するにあたっては、相当な覚悟があったという。

「ライブペイントアーティストとして成功するためには、それまでの従来の筆やエアブラシは使わず、ローラーペイントだけでやっていくべきだと考えました。ちょうどそのタイミングで結婚もして、その当時、妻に『もしかしたら失敗するかもしれないけれど、ローラーペイントに賭けてみたいと思う』と話したら、『がんばって!』と背中を押され、やるしかないと決心しました」(同)

 その強い一念は成功を生み、唯一無二のさとう氏のパフォーマンスは評判となった。イベントのみならず、テレビなどのメディアにも数多く登場するようになった。

転機となった3.11

 2011年3月11日、宮城のスタジオから仕事場へ向かうクルマの中で東日本大震災に襲われた。

「クルマに乗っているときに地震が起きて、前に進めなくなりました。周りのクルマも止まって、すごく揺れていました。それはもう恐怖でした」(同)

 その後、宮城でさとう氏の見た光景は凄まじいものだったという。

「こんなにも沈んでしまうのかと思うほど、誰もがつらい状況の中にいました。友人のミュージシャンと一緒に、音楽とアートでみんなを元気づけようと、被災のひどかった地域へ向かいました」(同)

 しかし、被災の状況を見てさとう氏は絵を描くより先に、ある行動に出た。

 「正直、多くの人が亡くなってしまったり、行方不明になっていて、至る所が瓦礫に埋もれているなかで、必要なものは歌でもアートでもないという気持ちになりました。とにかく、瓦礫を取り除かなければ、との思いから、ただ黙々と作業しました」(同)

 瓦礫を片付けながら、さとう氏は複雑な気持ちになった。

「この状況で、アートでできることがあるのだろうか、と悩みました。なんて無力なんだと心が折れました」(同)

 そんなさとう氏を奮起させたのは、アーティスト仲間からのチャリティイベントへの誘いだった。

「『何をしているんだ? 日本のために、お前のアートでできることがあるだろう!』と激励されて、シンガポールで行われた3.11チャリティイベントへ招かれました」(同)

 シンガポールへ旅立つまでの数日で何枚もの作品を描いたさとう氏だが、震災後の宮城ではライフラインも止まり、作業を進めるのは困難を極めたという。

「水道も止まっているなかで、どうやって描こうかと思いましたが、風呂に溜まっていた水を使ったりして、やろうと思えばどんな状況でもできるんですよね。一心不乱に描きました。その作品を抱えてシンガポールに行こうとしましたが、空港まで行くのにもとんでもなく時間がかかりました。今思い出しても、よくあんなに大変な状況のなかで行けたなと思います」(同)

 シンガポールでのチャリティイベントは大成功し、さとう氏の作品は高値で売れた。売り上げは全額、震災復興のために寄付されたという。

「シンガポールでもライブペイントをしましたが、イベントに集まった方々の声援に心が熱くなり、最後は号泣しながら全身全霊で描いていました。忘れられないイベントです」(同)

アートの可能性を引き出す活動

僕が田舎の会社を辞めて世界的アーティストに上り詰めた“きっかけ”と“運”の画像4
さとう氏の作品

 シンガポールでのチャリティイベントに参加したさとう氏は、アートが人のためにできることがあるという手応えを感じ、その後も積極的にチャリティイベントに参加している。また、現在は障害を持つ子供たちのためのアートイベントも積極的に行っている。

「障害を持つ子供たちが、アートに触れることで何かを感じ取ったり、アートで表現できる可能性を引き出したりすることができるんじゃないかと思うんです」(同)

 こういった志を聞いても、さとう氏のアートへの思いは非常に純粋だとわかる。だからこそ、さとう氏のアートは多くの人を魅了するのだろう。

 さとう氏は今年、個展も開催し、国内外から多くの人が足を運んできている。アートペイントの世界を牽引するさとう氏は、世界に誇るべき存在だ。

(文=道明寺美清/ライター)

●大丸福岡天神ファインアートコレクション

さとうたけしライブペイント:7/20(土)、21(日) 13:00~15:00 観覧無料

会場:大丸福岡天神店 本館8F催場  www.daimaru.co.jp/fukuoka/

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