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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

マクロ経済スライドにより年金給付4割減の可能性も、給付水準を取り戻す解決策

文=小黒一正/法政大学教授
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支給開始年齢の自動調整

 何か有効な解決方法がないだろうか。問題を完全に解決できる妙策はないが、公的年金制度には「繰り上げ・繰り下げ」の仕組みがあり、このうちの「繰り下げ」を利用して給付水準の減少分を取り戻す方法もある。

 公的年金の支給開始年齢は原則65歳であるが、「繰り上げ」を希望すると、給付水準が減額されるものの、最大60歳まで支給を早めることができる。また、「繰り下げ」を希望すると、最大70歳まで支給を遅らせ、給付水準を増額することができる。1カ月の繰り下げで0.7%ずつ増額されるので、65歳以降も可能な限り働き、70歳に繰り下げると、給付水準は42%増となる。

 厚生労働省 「厚生年金保険・ 国民年金 事業年報」(2017年度)によると、受給開始時期の選択を終了した70歳の受給権者のうち、繰り下げの利用率は概ね約1%程度しかないが、支給開始年齢を70歳に繰り下げ、給付水準を42%増やせば、マクロ経済スライドの発動で低下する給付水準の約4割減を取り戻すことができる。

 現行制度上、繰り下げは70歳が上限だが、法改正で75歳まで可能とし、支給開始年齢を75歳に繰り下げれば、給付水準は84%増になるため、マクロ経済スライドによる給付減(約4割)を考慮しても、給付水準を約4割も増やすことができる。このような繰り下げを選択する高齢者が増えていけば、貧困高齢者の増加を抑制する効果も有する。

 ところで、2006年の改革で、デンマークは公的年金の支給開始年齢を平均余命の伸びに連動させる仕組みを導入している。国民年金(1階部分)の支給開始年齢は2024年から2027年にかけて65歳から67歳に引き上げるとともに、それ以降の支給開始年齢は自動調整される。具体的には、想定受給期間を14.5年とし、「支給開始年齢=60歳+60歳の平均余命+バッファーの0.6年-想定受給期間(14.5年)」という算定ルールに従い、支給開始年齢を自動的に調整するという改革である。2011年の改革で、イタリアも支給開始年齢を平均余命の伸びに連動させる仕組みを導入している。

 デンマーク等の改革を踏まえ、日本でも支給開始年齢の引き上げや、その自動調整メカニズムの導入を提言する有識者も多いが、一定の条件が整うと、支給開始年齢の自動調整とマクロ経済スライドは実質的に同等となる。この理由は以下のとおりである。

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