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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

ルネサス、呉元社長はなぜ突如“辞任”? 工場生産中止による“特需”をアテにした浅知恵

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 それが、ルネサス那珂工場が停止しなかったことにどう結び付くのか? それを検証する前に、まず地方紙の茨城新聞を引用して、渇水と海水遡上の状況を時系列的に説明する。

・2月19日(火) 茨城新聞第1面 『上流・里川から取水へ 少雨、久慈川に海水遡上』

<今冬の少雨による久慈川の流量低下に伴い、日立市の水道水確保に影響が出ている。流量が低下したことで、月2回ある大潮の時期を中心に海水が市の取水口まで遡上。塩分濃度が国の基準を上回って取水できない時間帯が発生し、貯水量が不安定になっているためだ>

・4月27日(土) 茨城新聞第23面 『水道水確保、綱渡り 少雨、貯水量一時10分の1』

<長引く少雨の影響で、日立市の水道水確保が綱渡りの状態を続けている。今週に入って、取水している久慈川の流量が急激に低下、海水遡上に伴って取水できない時間帯が長引き、貯水量は一時、通常の10分の1程度まで減少した。市は24日に急きょ、取水口下流側に海水遡上を防ぐための堰を設ける対策を取ったほか、市民に節水を呼び掛けている>

・4月27日(土) 茨城新聞第23面 『月雨量平均4割弱 那珂川で取水制限』

<那珂川、久慈川流域の4月の雨量が平年の4割弱となっているのを受け、国土交通省常陸河川国道事務所は26日、那珂川で27日正午から取水制限を始めると発表した。制限率は農業用水15%、都市用水10%で、同事務所は節水を呼び掛けている(中略)同事務所によると、昨年10月以降の那珂川と久慈川の雨量(累計)は平年の半分程度で、4月の雨量は平年の4割弱と少なく、両河川とも流量が基準を大きく下回っている。那珂川では海水が遡上し農業用水の取水が困難な場所が発生しているため、振替取水を行う”

・5月15日(水) 茨城新聞第1面 『綱渡り続く水確保』

<日立市の水道水供給に危機が忍び寄る。少雨の影響で水源とする久慈川の流量が低下し海水が遡上。繰り返し取水停止を強いられ、水道水確保は綱渡りが続く。一方で、人口減に伴う料金収入の減少は水道事業の経営を直撃。数年後の赤字転落が見込まれ、現状では老朽施設の更新もままならない>

・5月16日(木) 茨城新聞第1面 『赤字転落の瀬戸際』

<水道事業は料金収入にほぼ依存しており、給水量減に伴う料金収入の減少は水道事業経営を直撃する。料金収入で人件費や維持管理費を賄いながら留保資金を生み出し、これと企業債務(借金)で施設整備と借金返済を行うからだ>

<(日立)市は今春、水道事業の経営戦略(2019~28年度)を策定した。この中の投資・財政計画には、厳しい数字が並ぶ。通常の水道事業に関わる収益的収支は24年度に赤字に転落し、施設や配管を整備する資本的収支も25年度には資金不足に陥るとの試算だ>

・5月22日(水) 茨城新聞第25面 『取水制限を一時解除 那珂川』

<国土交通省常陸河川国道事務所は21日、那珂川の取水制限を一時的に解除したと発表した。那珂川では4月27日から取水制限を実施し、今月8日から一時的に解除。その後もまとまった降雨がなく、13日から農業用水15%、都市用水10%の取水制限を再開していた。同事務所では20日、取水制限が継続している状況などを踏まえて那珂川・久慈川渇水調整会議を開催。那珂川の取水制限について協議し、野口地点(常陸大宮市)の水位観測値が流量に換算しておおむね100立法メートルに相当する水位以上となる、塩水遡上が河口から17.5キロ地点に到達していないと判断される―等の一時解除の基準を定めていた。21日に基準を満たしたことから一時解除を決めた>

 少雨の影響で、久慈川と那珂川が渇水し、海水が遡上して、取水制限をする事態となったが、日立市やひたちなか市が大変な状況になっていることがご理解できたものと思う。では、この渇水や海水遡上による取水制限と、ルネサスの工場停止がどう関係しているのか?

ルネサスの“特需”が消滅したわけ

 ルネサスは、5月と8月に、それぞれ1カ月工場を停止し、1万人の社員を帰休させる予定にしていた。その際の8割の給料を茨城県の税金を当てにしていた。これが、ルネサスにとっての“特需”だったわけだ。

 ところが、工場を止める直前の4月27日に、那珂川の取水制限が始まった。その結果、茨城新聞で示した通り、<那珂川では海水が遡上し農業用水の取水が困難な場所が発生しているため、振替取水を行う>など、茨城県は想定外の出費を強いられることになった。それだけでなく、今後の水道事業を展望すると、赤字転落の危機的状況に陥ってしまった。

 ここまでが事実で、以下が筆者の推測である。茨城県にとっては、経営難のルネサスの一時帰休社員の給料を税金で補てんする等という余裕はもはやなくなってしまったのではないか。茨城県は、その税金を一企業の救済に使うのではなく、茨城県民の水道水確保や農業用水の振替取水にこそ使うべきだという判断をしたのではないか。その結果、ルネサスが当てにしていた“特需”は消滅したものと考えられる。

呉氏が社長を辞任したわけ

 筆者の推理は次の通りである。日本興業銀行(現みずほ銀行)出身の呉氏は、机上計算で、半導体工場を停止すれば、電気、水、ガスなどの費用を数十億円、もしかしたら100億円規模でセーブできると算出した。次に茨城県と交渉して、工場停止に伴う一時帰休社員の給料の補助を取り付けた。元銀行員だから、こうした交渉は得意だったのかもしれない。そして、工場を停止すれば“特需”があるというシナリオを描いた。

 ところが、少雨により久慈川と那珂川が渇水し、海水が遡上して、取水制限が起きる事態となり、茨城県は生活用水や農業用水の確保に税金を使うことを優先し、ルネサスに補助金を出す余裕がなくなった。つまり、“特需”は雲散霧消し、呉氏の描いたシナリオは“絵に描いた餅”と化した。

 その結果、ルネサスが諮問機関として設置している指名委員会が、「足元の業績悪化および2016年度に設定した中期的に目標とする財務指標との乖離(かいり)が大きくなっていること」(ルネサスの6月25日付ニュースリリース)を挙げて、呉氏の責任を追及し、呉氏は辞任せざるを得ない状況になったのではないか。

 以上はあくまで筆者の推理だが、結局、人間の浅知恵など、自然災害には勝てないということであろう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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