NEW
木村隆志「現代放送のミカタ」

フジ月9『監察医 朝顔』法医学ドラマでも一味違う理由…視聴者の心をつかむ引き算の美学

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト
【この記事のキーワード】

, , , ,

 しかし、1話終盤にじっくり描かれた東日本大震災のシーンは、金城プロデューサーと上野が被災者に向き合い、真摯な取材をもとに撮影している様子が画面から伝わってきた。それでも「つらすぎて見ていられない」「できれば減らしてほしい」という声も少なくなかったが、視聴者の心をつかんでいたからであり、他作にはない臨場感があった証拠だ。

 なかでも圧巻だったのが、上野が1話終盤で見せた「三陸鉄道の車内でひとり泣き尽くす」という演技。静寂の中、セリフや表情の変化などに頼らず、佇まいだけで感情を伝えられる女優は、どれだけいるだろうか。大げさな感情表現のない上野の役作りもまた、引き算のような美学を感じさせる。

 批判を恐れて視聴者の顔色をうかがうような「ほぼ原作通り」「牧歌的なムードに徹する」作品が多いなか、当作が風化されがちなつらい現実から逃げずに向き合おうとしているのは間違いない。

朝顔の悲しみをやわらげる登場人物たち

 上野以外のキャストでは、朝顔の父・万木平(時任三郎)が包容力を、朝顔の悲しみをやわらげようとする婚約者・桑原真也(風間俊介)が癒やしを、興雲大学法医学教室の同僚・高橋涼介(中尾明慶)、安岡光子(志田未来)、藤堂絵美(平岩紙)らが笑いを添えている。

 包容力、癒やし、笑いのいずれも“穏やかな”という注釈を入れたくなるほど、彼らの人柄は温かい。死というつらい現実が日常にある彼らだからこそ、その温かさが朝顔の悲しみをやわらげている様子が伝わってくる。

 法医学というジャンルこそありふれているが、原作の思い切ったアレンジから、安易な足し算に走らず引き算した脚本・演出、俳優たちの穏やかな熱演まで、関係者たちの真摯な姿勢が伝わる良作と言っていいのではないか。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

『話しかけなくていい! 会話術』 「話がうまい人」になる必要はない。無言でも、ひと言でも、人に好かれるための画期的コミュニケーション術! amazon_associate_logo.jpg
『嵐の愛され力~幸せな人生をつかむ36のポイント~』 嵐に学ぶ人から好かれる、人を好きになれる人間力の磨き方。明日から使える36個の“○○力”。年齢・性別を問わずマスターできる。 amazon_associate_logo.jpg

関連記事

プレスリリース入稿はこちら サイゾーパブリシティ