小林敦志「自動車大激変!」

トヨタ「JPNタクシー」の誤算…不評で“不買運動”も?中国車が日本タクシー市場に参入か

トヨタの「ジャパンタクシー」(「トヨタ ジャパンタクシー | トヨタ自動車WEBサイト」より)

 東京都内を歩いていると、トヨタ自動車の「ジャパンタクシー」(以下、JPNタクシー)がかなり走っており、代替えが順調に進んでいるように見える。しかし、都心ではなく郊外のターミナル駅や東京の隣接県などに足を運ぶと、JPNタクシーの数はとたんに少なくなる。

 JPNタクシーは、“名車”とも呼ばれたトヨタ「クラウンコンフォート」系(含むクラウンセダン)の後継タクシー向け営業車両として、2017年10月に正式発売された。当時のニュースリリースによると、月販目標台数は1000台となっている。そこで、日本自動車販売協会連合会(自販連)の統計で調べると、2018事業年度締め上半期(2018年4~9月)の販売台数は3582台となっており、月販平均台数は約597台ということになる。ちなみに、直近となる2019年5月の単月販売台数は670台、同年6月は786台となっている。

 タクシー車両の新車販売では代替え需要が大原則となる。リースならもちろんのこと、タクシー車両の代替え時期はほぼ決まっており、年初にだいたいの生産計画を立てることができる。JPNタクシーは代替え需要に加えて、日産自動車「Y31セドリック」タクシーを使っている事業者など、他銘柄(トヨタ以外のタクシー)からの代替えも想定して月販目標台数を決めたのかもしれないが、実際の販売台数が目標の半分強となっているのを見ると、全国的に見れば販売苦戦なのではないかといわれても仕方ない。

JPNタクシーが苦戦している理由

 JPNタクシー販売苦戦の大きな要因といえるのが価格設定。廉価グレードの「和」で327万7800円、上級の「匠」で349万9200円となっている。クラウンコンフォートのスタンダードが221万1300円だったので、JPNタクシーの和と比較しても約100万円アップしている。LPガスハイブリッドになったとはいえ、100万円アップでは都内の大手や準大手では代替えが進んでも、クラウンコンフォートすら新車で代替えできなかった事業者も珍しくない地方部では、なかなか入れ替えが進まないだろう。

 もともと、東京などで新車として先行して普及させ、一定期間使った後に中古車として地方のタクシー事業者へ普及を進めるという方向だったとの話もあり、地方の事業者からは「東京ありきで事が進んでいる」と、地方軽視ではないかとの声も聞かれた。

 また、セダンスタイルからMPVスタイルになったものの、使い勝手が悪いとの話も多い。筆者が海外出張の帰りに羽田空港からJPNタクシーに乗る機会があったのだが、リアラゲッジスペースに旅行用スーツケースなどを積載すると、クラウンコンフォートの頃と積載量がほとんど変わらない印象を受けた。

 細かいところでは、リアドアが半自動式(乗務員操作)のスライドドアになったため、ドアアームレストの設定がないことが乗車するたびに気になって仕方ない。運転席側のリアサイドウインドウは固定式となっており、「乗車中に気持ち悪くなったらどうするんだろう」との声もある。開閉速度が遅いため、リア半自動スライドドアを完全に閉めないままの“見切り発車”もいまだ横行しており、「出たばかりの新しい試みをしているタクシー車両なんだから」と考えても、「あれっ」という部分が多いのがとにかく気になる。

 価格設定が高いということもあり、地域によっては“JPN不買運動”とでもいえる行動も目立っているとの話も聞くし、今までクラウンコンフォートをタクシー車両として使っていたマカオや香港でも、“トヨタ・コンフォート”という車名で走り出しているとのことだが、別の情報では、今後もクラウンコンフォートの後継として定着していくかについてはかなり疑問が残るという。

 中国本土は世界でもトップレベルでBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル/純電気自動車)が普及しており、タクシーのBEV化も進んでいるので、その中国の特別行政区であるマカオや香港も、中央政府は“ひとつの中国”と強調していることもあり、中国メーカーのBEVタクシーへ移行していくのが自然な流れではないかというのである。

注目を浴びるシエンタ

 JPNタクシー苦戦のなかで、注目を浴びているのがトヨタ「シエンタ」である。シエンタは2018年9月のマイナーチェンジで2列シート車が追加されており、これはタクシーベース車ありきの設定ではないか、ともいわれていた。現行シエンタは3列シートしかなかったデビュー当時から、タクシー車両として使われることが多かった。東京などの大都市でなければ走行距離もそれほど多くないので、ガソリンハイブリッドでも採算が取れるとのことである。

 しかも、最近ではガソリン仕様(またはハイブリッド)を購入した後にLPガスを燃料とするように改造して使う事業者も目立っている。ガソリンタンクはそのまま残り、予備燃料として使えるので、ハイブリッド仕様でLPガスバイフューエル仕様にすると、トータル航続距離は軽く1000㎞は超えるとのこと。

 しかも、LPガスバイフューエル仕様への改造費は、調べると70万円もあれば十分なようなので、仮に2列5名乗車のハイブリッド仕様となるオートスライドドアが装備される、上級グレードのファンベースGハイブリッドに改造を施しても、車両本体価格に改造費を単純に加えると約300万円となる。JPNタクシーの和より約20万円、上級の匠より約50万円安く済むことになる。

「JPNタクシーではなく、シエンタベースの営業車仕様があれば、それで十分だったのでは?」

 タクシー業界を中心に、この疑問は多く聞くことができる。ちなみに、シエンタはタイや台湾など、ASEAN各国で日本とは異なる仕様(MTなどもあり、タクシー仕様としての使用も想定した設計になっているとの情報もある)とはなるがラインナップされており、いずれも大人気となっている。

中国ブランドのBEVが日本参入の可能性も

 2015年にタクシー車両要件の基準緩和が行われ、今ではJPNタクシーのようなタクシー車両向けモデル以外でも、さまざまな車両が使えるようになっている。都内では日産「ノートe-POWER」のタクシーもよく見かけるが、乗務員からは「自分のマイカーに運転感覚が近い」と、利用客からも「ひとりで利用するなら十分」という声が聞こえ、意外なほど評価が高まっている。しかも、前述したLPガスバイフューエルへの改造も可能となっている。

 そうはいっても、JPNタクシーに限らず新車への代替えを躊躇する事業者も多く、そのなかには、先代クラウン・ロイヤルサルーン・ハイブリッドの中古車に入れ替える事業者も増えている。新型クラウンの登場以来、先代クラウンからの代替えが法人ユーザーを中心に目立っており、黒系ボディカラーのロイヤルサルーン・ハイブリッドの中古車も多い。年式や走行距離などにこだわらなければ150万円以下で購入することも可能で、大都市ほど走行距離が延びない郊外や地方部では、ガソリンハイブリッドでも燃料費負担はコンフォートやY31セドリックのLPガス車と比べても“トントン”とのこと。

 JPNタクシーはハイブリッド仕様なので、燃費性能がコンフォート系に比べると格段に向上した。しかし、それが直接的な原因ではないが、LPガススタンドの廃業に拍車をかけたともいわれており、東京23区内でもLPガススタンド空白地帯が生まれてしまった。地方部ではもともとLPガススタンドが少ないなか、やはり廃業も目立ち、遠方のガススタンドへ行くよりは、ということもあるようで、先代や先々代「プリウス」のタクシーが目立っている。

 しかし、ガソリンスタンドも廃業が目立っているので、中長期的に見れば、日本では地方部、特に主要都市以外からタクシー車両のBEV化(タクシーだけでなく一般車両も)が進んでいくのではないか、との話もある。しかし、日本車で量販されているBEVは日産「リーフ」ぐらい。このままいけば、そこへ向けて中国ブランドのBEVが入ってくる可能性は否定できない。「まずはタクシーなど営業車で」とばかりに、日本市場に本格参入する足掛かりにはもってこいである。すでに路線バスでは中国BYD社製のBEV路線バスが日本各地で走り出しており、バス事業者の間でも評価が高いとのこと。

 ちなみにBYDに関しては、筆者が見てきただけでも、バンコクやジャカルタで同社のBEVとなるe6ベースのタクシー車両が、現状ではかなり台数は限定的だが導入が始まっている。このような動きは、すでに路線バスでの営業運行が始まっている日本においても、今後は進んで行く可能性は十分高いと筆者は考えている。

 JPNタクシーの販売苦戦状況はJPNタクシー自体の問題だけでなく、タクシー業界、そして日本国内の自動車を取り巻く環境の変化なども浮き彫りにしているといっても、決して過言ではないだろう。

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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