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あのバーニーズ、時代遅れの遺物に…セブン&アイの“指導”の下でずっと業績低迷

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
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ニューヨークにあるフラッグシップ・ストア(「Wikipedia」より)

 ロイター通信や米CNBCテレビなど複数のメディアが、米高級百貨店バーニーズ・ニューヨークが 7月中にも連邦破産法の適用を申請する可能性があると報じ、衝撃が走った。

 バーニーズといえば、おしゃれでラグジュアリーなブランドの衣料品を幅広く取りそろえ、富裕層やおしゃれに気を使う人を中心に人気を獲得してきたことで知られている。自社開発のプライベートブランド商品のほか、イタリアを中心としたヨーロッパから直輸入した商品を販売する。バーニーズの世界観に合ったものだけを並べており、その世界観に魅了された人は少なくない。

 そのバーニーズが、破産する可能性があるという。ニューヨーク・マディソン街にある旗艦店の賃料負担が重く、資金繰りが悪化したことが直接的な原因と報じられている。CNBCテレビによると、賃料は今年、約1600万ドル(約17億円)から約3000万ドル(約 32億円)まで高騰しており、利益が吹き飛ぶ計算だという。

 現在、身売りや追加融資などで破産を回避する道を探っているが、今後の行方は予断を許さない。

 バーニーズは1923年にニューヨーク中心部マンハッタンで誕生した老舗。創業者はバーニー・プレスマンで、創業者の名がブランド名の由来となっている。

 当初は現在のように高級志向ではなく、男性用スーツなどの衣料品を低価格で販売していた。高級路線を志向したのは60年代後半からで、創業者の息子のフレッド・プレスマンらが転換を図った。76年には、高級アパレルブランド「ジョルジオ・アルマーニ」を米国で初めて導入している。

 日本での展開は、伊勢丹がバーニーズと提携して89年6月にバーニーズジャパンを設立し、翌90年 11月に日本1号店を新宿にオープンしたのが始まりだ。93年8月に横浜に2号店を、2004年10月には銀座に3号店を開業している。

 バーニーズジャパンが誕生したのは、バブル経済が崩壊する直前で、逆にいえばバブル絶頂期でもあった。ドル高是正を目的とした1985年のプラザ合意をきっかけに日本で起きた円高不況の対策として金融緩和や積極財政を行った結果、日本はバブル経済に突入。空前のカネ余りでジャパンマネーは米国にも流れ込んだ。89年に三菱地所がニューヨークの商業ビル、ロックフェラーセンターを買収したことが象徴的な例となった。

 そんな日本経済が「イケイケドンドン」の時代の最中に、バーニーズジャパンが誕生した。しかし、90年代に入りバブルは崩壊。以降、日本経済は低迷の一途をたどる。

時代遅れになったバーニーズの世界観

 バーニーズジャパン誕生から15年後の2004年に銀座店がオープンしたが、その頃のバーニーズジャパンの業績は厳しい状況にあった。バブル崩壊による不況もあって売上高は伸び悩み、05年2月期まで2期連続で営業赤字、3期連続で最終赤字を計上していた。だが、旗艦店となる銀座店がオープンしてから売上高は大きく伸び、それに伴い赤字体質からも脱却、大きな利益を稼ぎ出せるようになった。

 そうしたなか、伊勢丹は本体の百貨店事業に集中するなどの理由で06年6月にバーニーズジャパンの全株式を住友商事と東京海上キャピタルの投資ファンドに売却している。ただ、08年9月のリーマン・ショックの余波もあって、10年2月期と11年2月期は最終赤字の計上を余儀なくされた。しかしその後は、10年3月に神戸店、11年9月に福岡店をオープンしたことも手伝って売上高が上向き、赤字体質からは脱却することに成功した。

 バーニーズジャパンの株式はその後も変遷する。14年1月、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が東京海上キャピタルの投資ファンドからバーニーズジャパンの株式を取得し、15年2月には住友商事からも取得、完全子会社化した。セブン&アイHDはバーニーズジャパンが持つ商品調達力や売り場編集力のノウハウを活用し、自社の商品開発力強化を狙った。

 だが、この頃からバーニーズジャパンの業績は低迷する。16 年9月には六本木店をオープン。セブン&アイHD指導のもと業績向上を狙うも思うような成果は出せず、売上高は15年2月期から19年2月期まで210億円前後で横ばいが続いている。収益性は悪化するようになり、17年2月期は最終赤字に陥った。19年2月期は営業赤字、最終赤字を計上している。

 バーニーズジャパンは現在、アウトレット6店を含めて12店を展開している。19年2月期の売上高は208億1000万円、営業損益は6000万円の赤字だった。最終損益は10億2900万円の赤字となっている。

 バーニーズは日米どちらも厳しい状況だ。米国では賃料負担が重荷になっているが、根本的な問題は別にある。インターネット通販との競争激化も背景にあるが、それだけではない。日本でもそうだが、バーニーズの世界観は今や時代遅れになっていることだ。

 バーニーズジャパンはブランドの世界観を「TASTE、LUXURY、HUMOR」としている。直訳すると「こだわった、豪華な、ユーモアのある」といったところになる。男性用アパレルのイメージとしては、01年に創刊した、可処分所得の多い中年男性をメインターゲットとした男性向けファッション誌「LEON(レオン)」(主婦と生活社)の世界観が近い。

「レオン」は、おしゃれな中年男性が不良がかったファッションを着こなす“ちょいワルおやじ”を提唱したことで知られる。そのファッションは00年代中ごろに流行した。だが、それも今は昔。今の時代に“ちょいワルおやじ”的なファッションははやらない。レオンの印刷部数も凋落の一途をたどる。それと同じで、バーニーズのファッションも今ははやらないといえる。もちろん、男性用アパレルだけでなく女性用アパレルも同様だ。

 バーニーズは人生の晴れ舞台の日の衣料品としては最適かもしれない。だが、「ファッションのカジュアル化」が進むなか、ハレの日のための衣料品の需要はどれほどあるというのか。需要は大きく減っていると考えるのが自然だろう。バーニーズジャパンの前途は多難といえる。

 米国のバーニーズも、たとえ破産を回避したとしても、前途は多難だ。多店舗展開に失敗して96 年に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請し、その後は再建に成功したが、当時と今は状況が明らかに異なる。米国でもファッションのカジュアル化が進むなどで日本と同様にバーニーズは時代遅れの遺物になったといえる。V字回復を果たすための妙案を見いだすことは、極めて困難だろう。はたしてどのような結論に至るのだろうか。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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