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木村隆志「現代放送のミカタ」

『凪のお暇』がストレスフルな現代人の心に刺さる理由…単なる“再生物語”ではない深い魅力

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト
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「無責任な夢物語」にはできないはず

 冒頭に挙げたように、当作は「ストレスフルな日常を生きながら、そこから逃げることが許されない現代人に向けたファンタジー」という狙いがある。「もし、私も凪のようにすべてを捨てて逃げられたら……」と思いを馳せられることが醍醐味なのだ。

 だからこそ、制作サイドは「会社を辞めて、人間関係を絶ったから、よい出会いに恵まれて幸せになれる」という無責任な夢物語にはできないだろう。わかりやすい幸せを得るというより、しがらみを絶って身軽になったからこそ「失って本当に困るものはない」「だから、もう少し肩の力を抜いて生きていこう」という気づきを得られるような作品になりそうだ。

 3人以外の登場人物に目を向けても、根っからの悪はいないし、多少のデフォルメこそあるが、どこにでもいそうなキャラが揃っている。

 クールな小学生・白石うらら(白鳥玉季)、空気を読めず凪にパワーストーンを売ろうとした坂本龍子(市川実日子)、パンの耳をタダでもらい自販機の小銭を漁るが、楽しげに生きる吉永緑(三田佳子)、慎二にダメ出しするスナック「バブル」のママ(武田真治)、さほど悪意なくマウントしてしまう元同僚たち。

 それぞれ人柄に問題がありそうなキャラだが、それを決して批判的には描いていない。そんな描き方を見る限り、「人間社会は慎二のような人も、ゴンのような人もいて、だから付き合っていくのが難しくも、おもしろくもある。生きていくことって捨てたものじゃないよ」という人生賛歌のような作品になるのではないか。

心をなごませてくれる夏の風情

 最後にもうひとつ、当作の深さをつくっているものを挙げておきたい。

 それは、夏の風情。テーマが“人生の再生”と聞くと重い物語をイメージしそうになるが、当作は、風車が回り、風鈴の音が鳴り、夏祭りの囃子が聞こえ、流しそうめんをするなど、夏の風情が随所に差し込まれていて、心をなごませてくれる。

 9月に迎える終盤には、夏の終わり特有の心地よい寂しさを感じさせてくれるのではないか。刑事、医療、法廷など季節感のない作品ばかりの中、『凪のお暇』は、それだけでも貴重と言える。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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