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芸人からの“搾取”で成立する吉本興業というシステム…契約書交わせば一発屋は生まれない

文=編集部
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東京・新宿にある吉本興業の東京本部社屋(写真:アフロ)

 2019年6月に報道された、雨上がり決死隊・宮迫博之らによる“闇営業問題”に端を発する諸問題は、宮迫とロンドンブーツ1号2号・田村亮とが7月20日に開いた記者会見以降、吉本興業の企業体質そのものに対する批判へと拡大。現状約6000人ともされる所属芸人と書面での契約書を交わしていなかった同社は、こうした批判を受け、7月25日、今後は希望する芸人と契約書を交わす方針へと転換したことが報じられた。

 芸人にとっては、その立場をきちんと保証してもらえるようになるという意味で、契約書を交わすことのメリットは大きいように思われるが、実際のところはそうでもないのだという。吉本興業の事情に詳しいあるお笑い業界関係者は、こう語る。

「若手芸人が吉本に所属する最大のメリットは、自社劇場がたくさんあり、さらに自社劇場への出演でも、安いながらもギャラがもらえることです。ほかの事務所の場合は、事務所主催のライブは基本的にノーギャラですからね。吉本であれば、ある程度の知名度がある中堅やベテランが出る劇場だけでなく、無名の若手が出る劇場もあるので、それだけチャンスが回ってくる可能性も高い。契約書を交わしていないがために、ギャラは吉本の“言い値”になってしまうわけですが、それでも吉本に所属したい芸人が多いのは、そういう背景があるからなんです」

契約書を交わせば芸人側に新たな不利益も

 今回の騒動でたびたび話題になっているのが、ギャラの取り分の問題だ。他社からのオファーで出演したテレビ番組やイベントなどのギャラのうち、9割を吉本が抜いていたともいわれている。

「吉本では、1人のマネージャーが20人から30人の芸人を担当することもあり、その数はほかの事務所よりもかなり多い。そうしたマネージャーが、自分の“実績”を少しでもよく見せるため、芸人の取り分を減らして会社の取り分を増やしているのではないか――という噂は、以前より芸人のなかに根強くあります。真相は藪の中ですが、ギャラの取り分が明記された契約書を交わしていないからこそ、そういった“操作”も可能になるわけです。

 裏を返せば、ギャラの取り分の“小細工”ができたほうが吉本のマネージャー側からすれば都合がよいわけで、それならば契約書を交わしていない芸人のほうに仕事を回す――という思考が働くことも考えられる。今後、契約書を交わした芸人よりも、交わしていない芸人のほうが忙しくなる、なんてこともあり得ますよね」(同・お笑い業界関係者)

 また、今回の闇営業騒動のように芸人が何らかの不祥事を起こした場合、契約書を交わせば今後は芸人側に損害賠償責任が生じる可能性も出てくるという。

「今は契約書がないので、もしも芸人が何かをやらかしても、尻拭いをするのは吉本側ということがほとんど。もちろんことの重大さによっては契約解除ということはありますが、不祥事によって生じた損害に対して、契約を根拠に芸人に金銭的賠償をさせるということはなかなか難しい。でも、契約書を交わすとなれば、不祥事に対するペナルティーや賠償責任は当然明記されるでしょう。そうなったら、芸人もそれ相応のリスクを負うわけです。これまでのように、吉本に頼って“なあなあで済ます”といったことができない部分も出てくるのではないか」(同・お笑い業界関係者)

多くの若手芸人を競争させるシステム

 そもそも、約6000人ともいわれる芸人の多くが契約書を交わすこととなれば、現在の吉本のシステムは間違いなく崩壊するともいわれている。芸能事務所関係者はこう話す。

「ここ10年くらいの吉本は、何千人という若手芸人の中でとりあえず競争させて、次なるスター芸人や大ブームを巻き起こすような一発屋芸人の登場を待つという形が基本。実際、毎年のように吉本から少なくとも1組くらいは一発屋芸人が出てきますが、あれは、若手を育てた結果狙って出てきたものではなく、所属芸人の分母を増やすことによって出てきやすい状況を作った結果でしかない。

 これが、もしも多くの芸人と契約書を交わしきちんとしたギャラを支払うようになったら、おそらく6000人もの芸人を抱えることは不可能となり、となれば当然、放っておいても毎年のように一発屋芸人が出てくるといったこともなくなる。一発屋芸人は、一度売れれば地方営業や企業イベントなどに引っ張りだこになって、しばらくの期間はかなりの売り上げを出していきますから、そうした売れっ子が出なくなってしまうのは、吉本にとってはかなりのダメージとなる。

 そうした一発屋的な売れっ子芸人の売り上げがなくなってしまえば、吉本が抱えることのできる芸人の数も減少するでしょう。どんどん吉本の所属芸人が減っていって、現状の若手育成システムも崩壊。負のスパイラルに陥る可能性も高いのではないか」

“搾取”することが前提のシステム

 いいか悪いかは別として、「契約書なし」の状態を前提にして吉本興業というシステムが回っているため、そこを変えてしまえば、全体が崩壊してしまう……ということなのだろう。

「そもそも芸人から“搾取”することが前提のシステムになっていること自体が大問題なわけですが、そこを急激に変えようとすれば、芸人たちの仕事がなくなりかねないというジレンマに陥る。特にメディア露出がまだ多くない若手芸人や中堅芸人たちはそのことを強く感じているようで、彼らは契約書を交わすことには懐疑的だという話も聞こえてきます。月収10万〜20万円くらいで細々と食っている30代〜40代くらいの芸人にしてみれば、契約書を交わして仕事がなくなるよりも、現状維持のほうが助かるという感覚もあるでしょうしね」(同・芸能事務所関係者)

 とはいえ、芸人の立場が弱すぎる状態は改善しなければならないはずだ。

「まずは、メディアの仕事だけで十分に食べていけるような売れっ子の芸人から契約書を交わすようにして、吉本社内のシステムをちょっとずつ変えていく必要があるでしょう。あるいは、契約書を交わしている“所属芸人”と契約書を交わしていない“預かり芸人”との区分をしっかり作るなどの策も有効かもしれない。とにかく、急激かつドラスティックな変革は、今吉本に所属している芸人にとっては、必ずしもメリットにばかりはならないというのは間違いないでしょう」(同・芸能事務所関係者)

 根本的な問題解決までにはかなり時間がかかりそうな、吉本興業の体質問題。結局騒動がひと段落してみれば、状況は何も変わっていなかった、ということにならなければよいのだが……。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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