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江川紹子の「事件ウオッチ」第134回

【『表現の不自由展』中止問題】津田大介氏による「お詫びと報告」に対して生じる疑問

文=江川紹子/ジャーナリスト

「トリエンナーレ」を訪れても、企画展には立ち寄らなければよい。各企画は、それぞれ別の部屋で展示されているので、この企画展だけを「スルー」するのは容易だ。報道やSNSで企画展についての情報が流れてきても、無視すればよい。少女像や昭和天皇の写真が使われたコラージュが燃える映像で心が傷つくなら、テレビのチャンネルを替える。ツイッターであればミュートやブロックなどの機能を利用して、そういう情報ができるだけ自分の所に入り込まないようにすればいい。

 わざわざ抗議の電話やファクスを入れた人たちは、そういう「スルー力」が弱いのではないか。文化的寛容さとは、結局のところ、不快なものをどれだけ「スルー」できるかにかかっていると思う。

 最近はさらに、こうした「反日」的な催しはとっちめなければならない、という使命感をたやすく煽られて、抗議などの行動に出る人たちも増えているようだ。

 当人たちは、それを愛国的行動だと思っているのだろうが、逆の効果を生んでいる。まず、展示中止となった少女像はスペインの事業家が購入し、バルセロナに開設する美術館に展示されることになった。ヨーロッパに、また慰安婦を象徴する少女像が拡散したことになる。

 企画展中止に抗議して、「トリエンナーレ」に作品を出している海外アーティストが、次々に自分の作品の展示をやめたり、企画の変更を申し出たりしている。「トリエンナーレ」のポスターやガイドマップにも写真が使われている、いわば今回の看板作品であるウーゴ・ロンディノーネ氏(スイス)の45体のピエロ像も展示室の閉鎖が検討されている、という。

 声を上げたアーティストによって、今回の出来事は各国のアート界に伝わる。企画展の閉鎖が報道された国もあるので、日本の表現の自由に懸念を抱く人たちもいるだろう。

 日本では今、来年の東京オリンピックに向けて、さまざまな文化関連行事が行われている。そのコンセプトは「文化でつながる。未来とつながる。」。これが発表された時の声明にはこう書かれていた。

<東京はアートの力を信じている。
 それは私たちのこれからを描く力だ。
 それは違いを受け止め、通じ合おうとする力だ。
 2020年。
 東京はその力を世界に示したいと思う。(以下略)>

「私たち」の「違いを受け止め、通じ合おうとする力」のありようは、その理念とはずいぶん違うことを、今回の出来事は示してしまった。「電凸」攻撃に加わった人たちには、自分たちの国柄を自分たちが毀損していることを、しっかり自覚してほしい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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