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東電、原発事故被害者への「賠償の誓い」反故…賠償金を値切り、和解手続き打ち切り

文=明石昇二郎/ルポライター

 それだけに、原発事故被害者救済のため、原発事故を機に米国流の集団訴訟「クラスアクション」の制度を我が国に導入し、最大限活用すべきだったのだ――と、今さらながらに思う【注1】。時効を10年延長することや、強制権限のないADRセンターを設けるより、「クラスアクション」制度の導入にこそ尽力すべきだったのだ。加害企業である東電が、法律の素人である一般市民を相手に白昼堂々と「赤子の手をひねる」ようなマネをするなら、それに対抗できる手段が必要だったのである。

【注1】2011年11月に上梓した『福島原発事故の「犯罪」を裁く』(宝島社刊)の中で筆者は、作家の広瀬隆氏、弁護士の保田行雄氏とともに、福島第一原発事故の被害者救済のために「クラスアクション」制度を導入するよう提案していた。

 だが、法曹界や政界は、この提案を無視し続けてきた。日本の法曹界は原発の大事故が実際に起きるまで、被害者が数十万人から百万人規模で生み出される損害賠償事件が発生することに対し、何の備えもしておらず、福島第一原発事故後、泥縄式に対処してきた。

 それまで、法曹界の彼らが持ち合わせていた「損害賠償理論」といえば、せいぜい「交通事故」に関するものくらいだったのだから、呆れるほかない。実際、国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)では、被災住民らが受けた精神的被害に対し、交通事故の精神的賠償に倣って賠償すべきとする方針を打ち出し、東電もそれを逆手にとって精神的被害に対する賠償額を値切っている。

「クラスアクション」制度とは?

 クラスアクションとは一種の集団訴訟なのだが、普通の集団訴訟ではない。公害事件や薬害事件などの被害者をまとめて救済しようという趣旨で設けられた、米国の裁判制度のことだ。少数の原告が被害者全員を代表するかたちで裁判を行ない、判決で得た成果はすべての被害者が享受できる。その裁判を「クラスアクション」とするかどうかは、判決が下される以前に裁判官が判断する。こうした進歩的かつ民主的な裁判制度は、まだ日本に存在しない。

 このクラスアクション制度のメリットは、裁判を躊躇する被害者にまで法的救済の道を開くことだけにとどまらない。実は、裁判所にとっても多大なメリットがある。福島第一原発事故に関連する同一ケースの訴訟が裁判所に殺到するのを未然に防ぐことができるのだ。すなわち、国費(=税金)の大幅な節約にもつながる。この制度をいきなりすべての裁判に適用するのが難しければ、まずは福島第一原発事故のケースに限った「特措法」「特例法」のかたちで導入すればよい。

 被害者救済にクラスアクション制度を生かす道筋を簡単に示すと、以下のイメージになる。

(1)国会で「クラスアクション法」(仮称)成立。

(2)法の成立を受け、日弁連の指揮の下、被害者の損害賠償請求訴訟を起こす。この際、米農家、酪農家、海や川の漁業者、自営業者、会社員、公務員など、さまざまな業種から代表的な被害者を「原告代表」として数人ずつ選出し、それぞれについて和解のモデルケースをまとめるか、判決を取る。もちろん「被曝」被害も賠償させる。

(3)「クラスアクション法」に従い、その和解と判決による賠償内容を、すべての被害者に適用する。大半の被害者は、クラスアクション裁判の終結を待って、被害を申請するだけでいい。

 これなら、裁判費用を心配して訴えを躊躇していたすべての被害者にとって福音(ふくいん)となること請け合いだ。最大の利点は、損害賠償案をまとめる際に、裁判所という「第三者」のチェックが入ることだろう。「賠償スキーム」(賠償の枠組み)を加害者である東電側がつくるという異常事態が、これで一気に是正・解消される。

 賠償のモデルケースができれば、放射能汚染によって故郷を追われ、慣れない土地や住居で暮らしながら、生活の再建と同時にADRや裁判をやらなければならないという苦労を、被害者はしなくて済む。損害賠償請求に注力しなければならなかった時間を、生活再建のために使うことができるようになるのである。つまり、被害者の経済的、時間的、心理的負担を大幅に減らせるのが、クラスアクション制度導入の最大のメリットだ。

 先にも触れたが、日弁連では賠償請求権の時効を20年へと再延長する立法措置を国に要望するのだという。これが叶った暁に一番の恩恵を被るのは、東電とともに賠償金を値切り続けてきた東電弁護士軍団【注2】かもしれない。被害者の前に立ちはだかり、時効が延長された20年の間、救済の邪魔をすることで食いつなぎ、さらにもう10年、生き永らえることができるのである。そんな彼らに支払われる報酬の原資は、東電に注ぎ込まれた私たちの血税だ。彼らはまさに悪徳弁護士の鏡だと、筆者は思う。

【注2】東電弁護士軍団が賠償金を値切るため、どのような法廷戦術を駆使しているのかについては、「週刊プレイボーイ」(集英社/2015年3月30日号)の記事『3年で108億円もの弁護士費用をゲットした東電リーガル・ハイ軍団のトンデモ屁理屈集』で、弁護士らの実名入り・写真付きで解説したことがある。

https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2015/04/03/45974/

https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2015/04/06/46182/

 賠償請求権の時効を20年へと再延長することを目指すなら、同時に「クラスアクション法」の制定も目指していただきたいと、我が国の法曹界の皆さんに対し、心から願う。時効が成立してしまう前の今なら、まだ間に合う。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

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