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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

中国、米ドルの買い支えを中止か…米国経済が窮地に、トランプ氏の交渉術が手詰まり

文=加谷珪一/経済評論家
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 関税の対象となる製品を拡大するという手法はすでに使い切っている。関税の水準をさらに上げるという強攻策もあるが、米国経済への影響が大きいため、産業界からは慎重な対応を求める声が出るだろう。とりあえずはドル安誘導が無難なところだが、ドル安を進めるためには、金利を引き下げなければならない。だがトランプ氏は、このカードもすでに使い切ってしまった可能性がある。

 トランプ氏は、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)に対して、これまで何度も利下げを要求しており、一時はパウエル議長の更迭を示唆する発言まで行っている。FRBはトランプ氏からの圧力に抗しきれず、利下げに転じる意向を表明したが、トランプ氏は利下げ幅が足りないとしてFRBへの攻撃を続けている状況だ。

トランプ流交渉術は正念場に差し掛かっている

 その結果、債券市場では米国債が一気に買い進まれ、米国の長期金利は1.5%台まで下落している。すでに十分な低金利水準であり、ここから利下げを表明したところでドル安の効果は限定的だろう。

 トランプ氏が中国との交渉を妥結に持ち込みたいと考えているのであれば、同氏に残された有力な手段は外交的なものとなる。香港で行われている民主化デモに介入し、人権問題で米国が譲歩する代わりに、貿易交渉での中国側の妥協を引き出すといった手法などが考えられる。

 だが、人権問題は中国にとって微妙なテーマであり、一歩間違えば、とんでもない結果を引き起す。いずれにしても経済と安全保障に関する交渉がパッケージディール化された場合、交渉の行方は読みにくくなるので、それだけでも不確実性要因といってよいだろう。

 とりあえずはトランプ氏の出方次第ということになるが、市場にとってはかなり憂鬱な状況となってきた。

 米国の債券市場では長期債が極端に買われていることから、短期金利と長期金利が逆転する「長短金利逆転現象」が発生している。長短金利の逆転は、景気後退の前触れともいわれており、一部の市場関係者は今後の米国経済の先行きを不安視している。

 長短金利の逆転は、市場見通しにバラツキが生じていることが直接的原因であり、必ずしもそれが景気後退につながるわけではない。だが少なくとも、市場が今後の米国経済を不安視しているのは間違いなく、これはトランプ氏自身が引き起した事態といってよい。

 トランプ氏は交渉が得意な人物とされているが、トランプ流の交渉術が今後も成果を上げられるのか、まさに正念場に差し掛かっている。

(文=加谷珪一/経済評論家)

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