しかしながら、この人に対して、周囲の人たちは常識のある振る舞いは期待していませんでした。それは彼と付き合えば、それをあきらめざるを得ないことがすぐにわかるのも理由ですが、最も大きな理由は、その人が個性的で一風変わった芸術家であったことです。商用のアートが専門ではありましたが、グラフィックデザインでは他の人には真似のできないクオリティの高い作品を次々とつくり上げ、彼のおかげで高額の受注もできていたのです。
そのため周囲も、その人によい絵を描く以外のことは期待しておらず、社会人としての常識などは求めていなかったのです。彼には失礼ですが、常識的で整った人格に、芸術的な才能がくっついているのではなく、優れた芸術作品はいろいろと欠けているものがあってこそ生まれるのかと思えてしまう人でした。それゆえに周囲も彼の未熟な振る舞いは好きではないのですが、仕方のないこととして受け入れていたのです。
ビジネスパーソンは常識ある振る舞いを
しかし、このような例はあくまでも例外として捉えるべきです。前出の筆者の知り合いのような振る舞いは、普通のビジネスパーソン、すなわち周囲と上手にコミュニケーションを取りながら仕事をすべき人が真似をしてよいことではありません。自分が「人見知り」と述べることもNGになります。
本当に人見知りであいさつも苦手、人との会話に大きなストレスを感じることがあるとしましょう。その場合でも「人見知りです」と口にするのは、たとえば接客業であるホテルのフロント係が「接客は苦手で、本当は好きではない」と口にするのと同じようなことです。もしそんな発言を聞いたら、そのホテルの客や他の従業員は、そんなことは口にせず、やるべき仕事を一生懸命にやってほしいと思うのではないでしょうか。
もし、この文章を書いている筆者が「本当は書くことは苦痛で好きではない」と言ったら(実際そうしたことはありませんが)、読者は興ざめするはずです。そして、なぜそんな話をするのだろうと、不快にも思うのではないでしょうか。
どんな仕事でも「苦手です」などとは言わず、そうであればなおさら、上手くできるように黙って努力するべきでしょう。社会人として必要な対人コミュニケーションのスキルは、これとまったく同じように捉えるべき事柄なのです。