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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラが、朝・昼・夜で“微妙に”テンポを変えている理由は、脈拍にあった

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イーグルス(「Wikipedia」より)

 20世紀を代表するアメリカ人作曲家、アーロン・コープランドの代表作のひとつに、1937年にメキシコで初演した『エル・サロン・メヒコ』というオーケストラ曲があります。副題は「メキシコ・シティで人気のダンスホール」で、実際にメキシコの首都メキシコ・シティで営業していたダンスホールの名前です。

 そのタイトル通り、愉快でふざけたメロディーに溢れた名曲なのですが、お店の名前を曲のタイトルに付けるなんて、ほかに聞いたことがありません。ちなみに、英語に訳すと「サロン・メキシコ」となります。

 似たような名前として、アメリカのロックグループ、イーグルスが1977年に発表した『ホテル・カリフォルニア』がありますが、これはまったく架空のホテル名です。

「我々は客を受け入れるように仕向けられている。好きなときにチェックアウトはできるけれど、決して立ち去ることはできない」という不思議な歌詞で終わる名曲は、1975年にベトナム戦争が終結したのち、その無益な殺し合いに心を病んでしまったアメリカ人の心を強く惹きつけ、空前のヒットを飛ばしました。当時、ロックにはまっていた方々ならずとも、今もなお懐かしく愛し続ける方々も多いのではないでしょうか。

 実は2年前、海外でこの曲を僕が指揮することになりました。仕事の依頼を受けた時には、“クラシックやオペラアリアを演奏する野外コンサート”とだけ聞かされていて、「プログラムは後日、伝える」と言われました。そして、飛行機に乗る1週間くらい前に、「すべてのプログラムが決まった」とやっと連絡が入りました。

 プログラムを見てみたところ、聞いたこともない曲名ばかりが並んでおり、親しみのあるクラシックの曲名が数曲しかなくて、面食らってしまいました。この野外コンサートは、ロック、フォーク、クラシック、なんでもござれのコンサートだったのです。ちなみに、それまでの僕は、ロックやフォークなどの音楽を聴くことはあっても、指揮をしたことはありませんでした。そのプログラムのなかに、『ホテル・カリフォルニア』が入っていたのです。もちろん、野外コンサートにイーグルスがやってくるわけではなく、僕が指揮をするオーケストラをバックに、地元の歌手が歌うのです。

 指揮者の仕事は、スコア(指揮者用の楽譜)を開けることから始まります。まじめに楽譜を勉強するのです。そこで気づいたのは、『ホテル・カリフォルニア』のスコアが実に美しいということです。ここで言う「美しさ」とは、印刷や装丁がきれいとかという意味ではなく、音符自体が美しいという意味です。楽譜から魂の叫びが聞こえてくるかのようでした。

 次のステップとして、「ホテル・カリフォルニア」について調べました。僕は3年間、カリフォルニアに住んでいましたが、そんなホテルには見当がつきません。調べてみると、実在しない架空のホテルでした。架空の名前を使った曲名はたくさんありますが、この曲では「カリフォルニア」という名前に大きな意味があるのです。

 ベトナム戦争時代に出現した“ヒッピー”は、気候が温暖なカリフォルニアに集まったことはよく知られていますが、ドラッグや性に奔放な快楽主義で放浪癖のある彼らの終着点のイメージとして、「ホテル・カリフォルニア」という架空のホテルが音楽の中につくられたのです。

 そのことに気づいてから、僕はこの曲にすっかりのめり込みました。この曲を何度も演奏したことがあるオーケストラに対しても、リハーサル中に歌詞の意味について熱弁を振るうほどでした。

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