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白井美由里「消費者行動のインサイト」

ダイエット中に「どうでもよくなってしまう」現象を防ぐには…抑制行動の質的特徴

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 三つ目は「受容性」で、先行研究からは強制されたゴールよりも自分が受け入れたゴールのほうがパフォーマンスを向上させることが示されています。ダイエットは実行者自身が設定したゴールであり、受容していることから失敗とは無関係としています。

 最後の「自己効力感」はゴールとの距離に依存するもので、先行研究からは遠い目標よりも近い目標のほうがパフォーマンスを向上させることが報告されていますが、ダイエットには日々のカロリー摂取量制限という近い目標があることから、失敗とは無関係としています。

 以上のことから、先行研究が提示したゴール要素では「どうでもよくなる効果」を説明できないことになります。

ゴール達成につながる行動のフレームが関係する

 なぜ「どうでもよくなる効果」は、先行研究が指摘した一般的なゴール要素では説明できないのでしょうか。この理由として、コクランとテッセルが挙げたのは行動の性質の違いです。先行研究の多くは、スキルや能力などの強化や改善を目指した「獲得行動」に焦点を当てているのに対し、ダイエットは食事制限という「抑制行動」に焦点を当てていると説明しています。この2つの行動は質的にかなり異なります。

 獲得行動では、たとえゴールを達成できなかったとしても、ゴールを失ったといった捉え方はしません。望ましい行動や正しい行動に焦点を当てるポジティブなセルフモニタリングが行われるので、ポジティブな感情が喚起されて自己評価が高まり、パフォーマンスも向上する可能性が高くなります。失敗したとしても日々の努力による進捗は実感できるので、目標が高すぎたといったプラス思考が促進されます。つまり、獲得行動はポジティブにフレームされた行動になります。

 これに対し、抑制行動は成功か失敗かのように白か黒かの二択思考で考え、減らすべきネガティブな行動とエラーに焦点を当てるネガティブなセルフモニタリングが行われます。ダイエットは、抑制によって達成するゴールになります。また、体重減少という最終目標よりも、日々のカロリー摂取量制限というより近い副目標に焦点が当てられるため、その副目標が達成できないとゴールを失った、失敗したと考えます。ネガティブなセルフモニタリングは不安を増幅する上に、もともとダイエットは個人的な不満や失敗など自尊感情が低い状態で開始される傾向にあるため、その自尊感情をさらに下げてしまう危険性があります。つまり、抑制行動はネガティブにフレームされた行動になるので、獲得行動とは異なるのです。

どうしたら「どうでもよくなる効果」の発生を防げるのか

 ダイエットはネガティブにフレームされた抑制行動ですから、「どうでもよくなる効果」の発生を抑えるためには、抑制行動をできるだけポジティブにフレームすることが勧められます。コクランらは、例として「カロリー摂取量を減らさなければならない」と考えるのではなく、一回の食事を1000カロリー以内で抑えたことを労うことを挙げています。自分を褒め、体重減少という長期目標に近づいていることを考えるのです。達成できた回数を記録していくのもポジティブ思考になると思います。

 また、摂取量の上限を一日単位ではなく、一週間単位や一カ月単位などより長い時間で捉えることが勧められます。近い目標は抑制行動には向きません。近い目標をより遠い距離で考えることで、期間内の少々の逸脱を許容できるようになり、目標を放棄しなくなります。これによって成功率が高まります。これらはダイエットだけでなく、禁酒や禁煙などさまざまな抑制行動にも当てはまります。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献

【註1】Herman, C. P. and D. Mack (1975), “Restrained and Unrestrained Eating,” Journal of Personality, 43(4), 647-660.

【註2】Polivy, J. and C. P. Herman (1985), “Dieting as a problem in behavioral medicine,” in E. S. Katkin and S. B. Manuck (Eds.), Advances in Behavioral Medicine, 1, 1-37.

【註3】Polivy, J., C. P. Herman, and R. Deo (2010), “Getting a Bigger Slice of the Pie. Effects on Eating and Emotion in Restrained and Unrestrained Eaters,” Appetite, 55(3), 426-430.

【註4】Cochran, W. and A. Tesser (1996), “The “What the Hell” Effect: Some Effects of Goal Proximity and Goal Framing on Performance,” in Striving and Feeling: Interactions among Goals, Affect, and Self-regulation, L.L. Martin and A. Tesser (Eds.), Mahwah, NJ: Erlbaum, 99-120.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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