石徹白未亜「ネット依存社会の実態」【アプリ四季報 2019年4~6月】

「アーチャー伝説」が密かなブーム…ゲームアプリ、シンプルなハイパーカジュアルがトレンド

『アーチャー伝説』をApp Storeで」より

 ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠状態だったり、アンインストールしてしまったりしたアプリがある人も多いはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉を聞くが、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。

 本連載では、ダウンロード数だけでは見えない「アプリの利用率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。

 前編に続き、同社のオウンドメディア「App Ape Lab」編集長の日影耕造氏に、2019年第2四半期(4~6月)を中心にアプリの動向を聞いた。

人気が拡大する「ハイパーカジュアル」とは

――前回は、インターネットテレビ局「AbemaTV」が生中継で存在感を高めている事情や5G時代のワンセグ視聴についてうかがいました。今回は、19年4~6月を象徴するアプリについて教えてください。

日影耕造氏(以下、日影)アーチャー伝説」という、弓矢を使ってモンスターを倒し、ステージを進んでいくゲームです。アンドロイド版は4月、iPhone版は5月にリリースされ、順調にユーザー数を伸ばしています。

「アーチャー伝説」は、近年注目されている「ハイパーカジュアル」というジャンルに近いカジュアルゲームです。さまざまな定義がありますが、私が捉えるハイパーカジュアルとは、(1)言語に依存しない、(2)ゲームのルールが明快、(3)広告と課金収入のどちらもゲーム運営の前提として組み入れられているゲームのことです。

――日本のゲームアプリの収益は「課金だけ」が中心ですが、世界を見ると、いかにゲーム内で自然に広告を見てもらうかに注力する流れも進んでいますよね。

日影 はい。また、言語に依存せず、ゲームのルールが明快というのは、世界展開を前提としているためです。日本のトランスリミットが提供している「Brain Dots」も人気のハイパーカジュアルゲームですが、「離れた赤い玉と青い玉を、うまく線を引いてくっつけるだけ」という、「アーチャー伝説」よりもさらにシンプルなゲームです。

――シンプルなゲームですが、脳トレやパズルのような中毒性がありますね。

日影 そうなんです。ハイパーカジュアルのゲームはシンプルですが、決して「つまらない」ゲームではなく、初期のファミリーコンピュータのソフトのような基本的なゲームのおもしろさがあり、原点回帰の魅力があるんですよね。

 そして、このシンプルさは現在の行動様式とマッチしています。今、ユーザーに1日30分ゲームをしてもらい課金してもらう、というのはとても難しいことです。その代わり、1分ゲームで遊んでもらい、その間に広告を見てもらうことでペイする、という流れができています。広告は課金より利幅が薄い分、世界中の人に使ってもらうことでペイしていくというわけです。ハイパーカジュアルはシンプルなのでとっつきやすく、電車に乗っているときなどの隙間時間で使ってもらいやすいのです。

 また、開発者側に目を移すと、ハイパーカジュアルのゲームは複雑なグラフィックなどを必要としないので、少ない人員でつくることができます。個人あるいは少人数でゲームをつくりたい人にとっては、すごく夢のある話ですね。

日本の「重厚長大」型ゲームはどうなる?

日影 今の30代以降の人たちには「開発費用をかけていいゲームをつくれば売れる」という考えがあるかと思います。

――私もその世代ですが、売り切りの物理的なゲームソフトを購入することがゲームとの最初の出会いだった世代は、そう考えがちですよね。派手なオープニングムービーがあって、というような。

日影 開発費用が1億円以上のゲームアプリも少なくありませんが、ハイパーカジュアルのようにゲームをビジネスとして捉え、お金をかけすぎずにシンプルなゲームアプリをつくり、自社ゲームアプリの広告を別のゲームに出稿したり、逆に自社ゲームアプリ内に他社の広告を出したりするなど、人が集まる場をつくる。そして、そのアプリを日本だけでなく世界中に展開していく、という流れも進んでいます。

アーチャー伝説」がリリース直後に順調にユーザーを増やしたのは、純粋にゲームとしておもしろいからというのもありますが、広告宣伝を上手に行ったためでもあるでしょう。

――今のゲームは「単純に内容がおもしろいか」だけでなく、「ビジネスモデルとして優れているか」も問われてくるんですね。

日影 それまでの「コストをかけて大作ゲームをつくって」という「重厚長大」型のビジネスモデルから、ハイパーカジュアルのように、まずは低コストでゲームをつくり、それを広告モデルでうまく回しながら収益を確保していくという流れに、一部は移りつつあります。

――ただ、日本のゲームアプリを見ると、まだ「重厚長大」型のゲームが多い印象ですね。ゲームアプリの売り上げランキング上位の常連である「Fate/Grand Order」は課金のみのモデルです。

日影 日本はもともと「重厚長大」型のゲームの人気が高く、いわば内需がありますからね。ですが、「App Ape」においてゲームのMAU(月に一度でもアプリを利用したユーザー数)ランキングトップ200のうちハイパーカジュアルのゲームの数を調べたところ、2018年6月は9つでしたが、19年6月では倍増していました。

――今後は、ゲームのハイパーカジュアル化が日本でも進んでいきそうですね。

日影 ただ、一方で「従来型の重厚長大のゲーム」がなくなっていくかといえばそんなことはなく、たとえば、任天堂の「ニンテンドースイッチ」も好調です。今後は、開発費用をかけてつくり込んだ重厚長大型のゲームと、気軽につくれてプレイできるハイパーカジュアルのゲームの二極化が進むのではないでしょうか。

ハイパーカジュアルの原点回帰的魅力

 スマホのゲームアプリをいくつか使ったことがあるが、途中で挫折したものも多い。挫折の要因は、少なくない日本のゲームアプリが入れている「日課的要素」だ。ストーリーを展開したりキャラクターを育成したりするために、毎日同じ作業をしなくてはいけない単調なゲームは多い。スマホの画面を適当に押していてもまったく問題のないような作業で、それが退屈で続かなかった。

 しかし、こういったゲームが多いということは、「このつまらなさや退屈さを許容している人が多いため、ビジネスとして成り立っている」ことの表れだろう。魅力的な「萌え」なキャラクターをつくり、そのキャラのファンになることで単調な作業も我慢する、もしくは気にならないという人が一定数いれば、何も手間暇をかけておもしろいゲームにしなくてもいい、というのはひとつの割り切り方ともいえる。

 一方、ハイパーカジュアルのゲームはシンプルだが、退屈さとは無縁の「そういえばゲームってこうだった」と気づかされる原点回帰的なおもしろさがある。「日課的要素」のある種の退屈を備えたゲームがハイパーカジュアルのシンプルなおもしろさを兼ね備えれば、日本のゲームが得意とするキャラ萌えとゲーム性を併せ持った強いゲームになるのではないだろうか。

(文・構成=石徹白未亜/ライター)

石徹白未亜/ライター

ライター。得意分野はネット依存・同人文化(二次創作)・ファッション。ネット依存では自身の体験をもとに書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)を執筆、NHK『ハートネットTV』、フジテレビ『バイキング』、朝日新聞、週刊文春等メディア出演多数。個人に向けたスタイリストとしても活動しており、著書に男性スーツ本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)。ユニ・チャーム株式会社でのスーツ着こなしセミナーなど、ファッション研修も多くの実績あり。おうち大好きインドア派。同人誌と串揚げとしめさばとビールで生きてます。
●「主なプロデュース作品
『何になりたいかわからないけど就活を始めるあなたへ まず自己分析をやめるとうまくいく』辻井啓作(高陵社書店)
『自分のイヤなところは直る! 』牧野秀美(東邦出版)
『英語がサクッと口から出る 英語の「筋トレ」4センテンス繰り返しCDドリル 初級編 』渡部泰子(主婦の友社)

Twitter:@zPvDKtu9XhnyIvl

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