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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~ポスト五輪を待ち受ける23区の勝ち目、弱り目

「東京五輪のために羽田空港ゲートウェイ化」のまやかし…時代に取り残される大田区

文=池田利道/東京23区研究所所長
「東京五輪のために羽田空港ゲートウェイ化」のまやかし…時代に取り残される大田区の画像1
羽田空港の国際線ターミナル(「Wikipedia」より/Sidowpknbkhihj)

 本連載の『東京・世田谷区と杉並区、「住むまち」として人気衰退の理由…時代に取り残された中央線沿線』で、過去20年間に東京で進んだ鉄道再編の動きに杉並区と江戸川区が取り残されていると指摘した。つけ加えると、大田区も取り残された仲間に入る。

 東急目黒線再編のメリットを享受できたのは、北端の大岡山駅周辺だけ。東横線再編のメリットも西端の田園調布駅周辺にとどまり、区内の大部分が鉄道利便性向上の蚊帳の外に置かれている。しかし、未来に目を向けると評価は大きく変わってくる。

 オリンピックまでにという期待は空騒ぎに終わったものの、東京駅と羽田空港を直結するJR羽田空港アクセス線は事業化に向けた動きが進み出した。早ければ2029年頃には開業予定とのことだ。東急と京急の両蒲田駅を結ぶ蒲蒲線(新空港線)も、事業主体の検討が始まりつつある。

 いうまでもなく、これらの動きのキーワードは羽田空港。東京の未来は国際化にあり、羽田はそのゲートウェイ(玄関口)という熱い想いがひしひしと伝わってくる。

五輪のために航路変更が必要?

 その羽田で今、航路変更問題が議論を呼んでいる。人口稠密な市街地の上を飛行機が低空で飛ぶことになるのだから、住民が不安を抱くのも無理はない。渋谷区と品川区の議会は見直しを求める意見を決議していたが、国は離発着の角度を急こう配にするなどの対応策に理解が得られたと、2020年3月29日からの実施を決めたという。

 飛行機は風上に向かっての離着陸がもっとも効率的。夏は南風、冬は北風が吹く東京で離着陸の航路を北に採るのは理にかなっている。国土交通省の所見によると、新航路の設定により、1時間あたり最大で10便の増発着が可能になるらしい。羽田空港はすでに満杯状態にあり、今のままでは海外からの観光客の増加を受け入れることができなくなる。そこで、五輪までに航路変更が必要というのが国の主張だ。しかし、ことは住民の安全にかかわる。「五輪のため」というレトリックで片づけることには違和感を覚えざるを得ない。

 国際空港評議会(ACI)のデータによると、2018年の世界の空港の利用客数ランキングは、1位がアトランタ空港(1億700万人)、以下、北京(1億人)、ドバイ(8900万人)、ロサンゼルス(8800万人)と続き、羽田は5位の8700万人。国内では敵なしで、2位の成田空港(4100万人)を2倍以上上回り、3位の関空(2900万人)とはトリプルスコアの差がある(国内空港のデータは国交省『空港利用状況概況集計表』による)。

 羽田空港利用者の推移を追った図表1を見ると、近年急速に利用者が増えていることがわかる。よく見ると国内線はほとんど変化していないが、国際線は2010年10月の再国際化以降、うなぎ昇りの状態。羽田空港がパンク寸前の状態にあることは間違いない。「東京五輪のために羽田空港ゲートウェイ化」のまやかし…時代に取り残される大田区の画像2

 本連載で紹介したように、五輪開催時に海外からの観光客が増えるのか、逆に減るのかには、かなり怪しい部分がある。不効率な航路なら、なぜ早く改善しておかなかったのかについては、「横田空域」という一種の「治外法権」があることを多くの人は初めて知った。突っ込みどころ満載の話なのだが、一番の問題は、成田があるのになぜ羽田の増強が必要かという点にある。「成田は不便」というなら、それは成田空港をつくったときに議論しておくべき課題だったはずだ。

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

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