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南清貴「すぐにできる、正しい食、間違った食」

10月の消費増税による貧困世帯の栄養悪化という「健康問題」が見過ごされている

文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事
10月の消費増税による貧困世帯の栄養悪化という「健康問題」が見過ごされているの画像1
「Getty Images」より

 日本のGDP(国内総生産)は、アメリカ、中国に次いで世界3位です。現段階ではまだ「経済大国」といって差し支えないでしょう。しかし、30年後の予測では、そうとう贔屓めに見ても4位に、厳しめの見方では8位にまで転落するといわれています。

 もっとも、問題はGDPの額よりも、その内容だと思いますから、順位が下がることを悲観するよりも、日本という国が、どのような経済活動をしていくのか、という点に期待したいところですが、実際には、まったく期待できないでしょう。

 GDPの約60%は個人消費ですが、それがここ数年ほとんど伸びていないばかりか、10月に引き上げられる消費税によって、さらに消費は冷え込むだろうと予想されているからです。日本経済新聞社の調査によれば、首都圏のスーパーマーケット経営者の方々は、今回の消費税率アップによって大きなダメージがあることを覚悟しているということです。

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 世界情勢に鑑みれば今後、石油の価格が高騰することも予見され、そうなれば当然、自動車を持っている方はガソリン代が今よりもかかることとなり、給与が上がらない限りは、何か別の消費を控えるしかないという状況になります。そのもっとも手っ取り早い方法は、食費を削ることで、消費者は今よりもさらに安い食品を求めることになります。これでは、GDPの内容が良い方向に向かうはずはありません。

 そんななかで、女性の就業率が全年齢ベースで51.3%となり、就業者数についても、前年から87万人増加して2946万人と、過去最多になりました(総務省統計局労働力調査より)。

 御同慶の至り、と言いたいところですが、そう単純に喜ぶことはできません。というのは、女性の非正規雇用は55.3%と、男性の21.2%とは比較にならないほど多いからです。これは、主婦の皆さまが、自分が働ける時間などを考慮して、アルバイトやパートを選択しているということも影響があると思われますが、それだけではないようです。日本での女性が管理職に就く割合も13%と欧米諸国に比べてかなり低く、シンガポールやフィリピンなどのアジア諸国と比べても低いといわれています。要は、職場における女性の実力が、あまり認められていないということの表れが、非正規雇用のパーセンテージに反映しているのだと思われます。

生活が困窮して食事がおろそかになる

 また、シングルマザーの貧困率の高さも重大な問題です。シングルマザー世帯は約123万世帯あります(ちなみに、シングルファザー世帯は約19万世帯)。子供がまだ幼い場合だと、子育てや家事にも時間が取られるため、なかなかフルタイムで仕事ができず、よってシングルマザーは非正規雇用で働くしかなくなるという現状もあり、それも貧困に陥りやすい要因のひとつです。いくら真面目に働いても、給与の面や待遇などにも差が出て、ワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれる最悪の状態に陥る人も出てきます。

 当然のことながら、病気やケガなどで働けなくなると、一気に収入がゼロになるか、そうでなかったとしても収入は激減してしまいます。もともとそれほど余裕のある生活ではなかった場合、そこから立て直すのは至難の業といってもいいでしょう。

 また、少しでも多くの収入を得るため、長時間働くことになり、食事を準備する時間も十分には取れないため、子供の食事がコンビニ弁当や、ファストフードばかりになってしまうという傾向も強くあるようです。

 そんな食事を続けていたら、子供もですが、ご自身も、栄養バランスが崩れ、健康のレベルは極端に落ちます。また、いくら安いものを選んで買い、食べたとしても、自炊するよりも経済的負担が大きくなるため、そのことも貧困から抜け出せなくなる要因となり、悪循環が続くことになってしまいます。

 シングルマザーの家庭には、児童扶養手当をはじめとして、医療費助成制度、住宅手当、税金の控除、保険料・年金の免除または減免制度、自立支援教育訓練給付金など、さまざまな支援もあるにはありますが、どれも根本的な解決に至るものではありません。

“正しい食事”が健康問題を解決する

 雇用の形態などによって正当な給与や保障が得られなかったり、さまざまな要因によって貧困状態に陥っている場合、最終的には健康問題に行き着きます。

 日本国憲法の第13条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれています。しかし、現状、それが守られているかというと、甚だ疑問だと言わざるを得ません。

 困窮している人は、多少体調が悪かったとしても、それを自身で回復していくための時間も取れず、医療機関で受診することもできないでしょう。そんな余裕はない、というのが正直な意見だと思います。そして、そのまま時間が経過してしまうと、取り返しがつかないところにまで追い込まれることになります。

 正しい食事を摂れさえすれば回避できる健康問題は、たくさんあります。むしろ、ほとんどの健康問題は、正しい食事で解決できるのです。しかし、経済的理由によって正しい食事すらできないというのは、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が奪われている、ということにならないでしょうか。「個人として尊重」されているといえるのでしょうか。筆者はいえないと断じます。

 主婦の皆さまはアンケートに答えるかたちで、仕事をする理由の第一は「家計の足しにするため」だと言っています。自分の能力を社会に生かすことでもなければ、仕事をすることによって得られる特別な満足感でもなく、社会とつながっていることの充実感でもないのです。

 そしていよいよ、10月から消費税率が上がります。筆者が憂えているのは、そのことでますます家計が苦しくなり、主婦の皆さまは、少しでも家計の足しになるようにと働きに出ることになるでしょう。それが、その人が本来持っている技術や才能を生かすための仕事であるならば万々歳ですが、そうではなく、単に自分の時間を切り売りすることになりやしないか、ということです。

 男女問わず日本人が食事の準備に費やす時間は、ますます短くなり、それが国民全体の健康に大きく悪影響を与えるであろうことを筆者は懸念しています。消費税の本来の目的は、社会保障に当てる財源の安定的確保ということであり、今回の消費税率引上げによる増収分を含む消費税収は、すべて社会保障財源に充てるとされていますが、それ以前の問題として、まともな食品を買うことができる、食べることができる仕組みをつくるべきなのではないかと思っています。

 最後にひとつだけ警告を発しておきます。コンビニ弁当やファストフードは、買う時点では安い買い物ですが、トータルに人生を考えた時、それは決して安い買い物ではない、ということを皆さまの心に留め置いてください。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

南清貴

南清貴

フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会
代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

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