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アサヒビール、新宿・思い出横丁で行った焼酎の新商品発表に脱帽…高いPR効果を実現

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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「芋かのか」新商品の例。手前は原料で使われた「黄金千貫」

 8月20日、東京都新宿区でユニークな記者発表会が行われた。「新宿西口思い出横丁 かのか散歩」と名づけた催しで、主催したのはアサヒビールだ。

 9月3日に同社の焼酎ブランド「かのか(佳の香)」から、新商品『芋焼酎 かのか 濃醇まろやか仕立て』と、『芋焼酎 かのか 華やかすっきり仕立て』が発売。それに先がけて行われた発表会だった。

 新商品は、いずれも鹿児島県産のさつまいも「黄金千貫」や国産米の米麹を使用。アルコール度数は25%だ。「まろやか」は、220ミリリットルのペットボトル(参考小売価格220円)から、1.8リットルの紙パック(同1450円)など4タイプを揃え、「すっきり」は1.8リットルの紙パック(同1450円)、4リットルのペットボトル(同2830円)の2タイプを揃えた。現在、これらの商品は小売店で販売している。

 20日は、新聞を中心にメディア関係者が集まり、筆者も出版社の担当編集者(九州出身の20代女性)と一緒に参加した。メディア訴求の手法も興味深いので、合わせて紹介したい。

「麦」の成功を「芋」にも波及させたい

 そもそも焼酎には「麦焼酎」「芋焼酎」「米焼酎」「そば焼酎」などがある。ふだん焼酎を飲まない愛飲家でも「黒霧島」(霧島酒造)や「いいちこ」(三和酒類)などのブランドはご存じだろう。

「かのか」は1993年に発売されたブランドで、「麦」「芋」などを揃える。「焼酎甲類乙類混和売上No.1ブランドで、2019年上期(1~6月)は混和市場で35.3%を占める※」(アサヒビール)という。14年から17年まで同31%台だったが、ここ2年で伸長した。販売計画は「かのか」ブランド総計で363万ケース(前年比103%)を予定しており、そのなかで約1割を今回の新商品で担いたいそうだ。
※インステージSRI焼酎混和市場 2019年1~6月 累計販売容量シェア 7業態計

 同社の19年上半期の内訳は「麦焼酎は伸びたが、芋焼酎は伸び悩んだ」という。「芋かのか」から新商品2品を投入したのは、麦焼酎の成功体験からだ。担当者は、次のように本音を明かす。

「麦焼酎の『麦かのか』は、発売以来2017年まで派生商品を発売していませんでした。しかし、消費者調査の結果を参考に期間限定品を発売したところ、好評で既存商品に上乗せされました。その成功例を『芋かのか』でも再現したいのです」

 焼酎の種類についても補足しておこう。焼酎には、つくり方によって「甲類」「乙類」「混和」の3種類がある。

 甲類は連続式蒸留焼酎でクセのなさが特徴。乙類は単式蒸留焼酎で香りや風味が特徴。混和は甲類と乙類のブレンドにより、双方の長所を生かしたものだ。何を飲むかは個人の好みだが、「かのか」が属する「混和焼酎」は、マイルドな味わいが持ち味となっている。

発表会を会議室ではなく「居酒屋」で実施した理由

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8月20日の説明資料と試飲の様子

 今回、アサヒビールが発表会の場所に選んだのは、新宿西口思い出横丁(以下、思い出横丁)にある居酒屋「安兵衛」だ。「会社の会議室で説明するのではなく、実際の飲用シーンのイメージを高めていただきたいと、飲食店にご協力をお願いした」(同社)という。このあたりは、日ごろから飲食店と付き合いのある酒類メーカーならではの選択だろう。

 こうしたPR手法は費用がかさむが、参加したメディア関係者のなかで商品イメージが高まり記憶に残りやすい。かつて会議室以外で行う「オフサイトミーティング」が流行した時期があったが、これはその発表会版といえ、販促関連に携わる人には参考になるかもしれない。

 冒頭で紹介した「かのか散歩」とは、「安兵衛」を含む思い出横丁の9店舗と連携して、「かのか」を使ったロックや水割り、お湯割りと一緒に料理を楽しむというもの。現在は一般客向けに実施中で、発売日の9月3日から約1カ月間は楽しめるそうだ。

 発表会当日は、「安兵衛」での説明会が終わると、参加者それぞれが提携9店を回った。我々もそのうちの3店を回遊して飲食を楽しんだ。

消費者に「料理との相性」を知ってほしい

 提携する9店は「おすすめ料理」(つまみ1品)が異なる(各店が1~3品を用意)。たとえば、玉子焼き、肉豆腐、お通し&若鶏唐揚げ、お通し(つぶ貝)&刺し身盛り、おでん盛り合せなどがあり、これらの料理は「芋かのか すっきり」との相性が良いという。

 一方、コロッケ・メンチセット、餃子、しゃもじつくね、うなぎ蒲焼串焼き、もつ煮込みなどを用意した店もあり、こちらは「芋かのか まろやか」との相性が良いそうだ。

 8月20日は、「かのかのワンドリンク+つまみ1品」(3店分を無償提供)以外は自腹だったが、筆者も酒豪の20代編集者も追加注文をして、ハシゴ酒を楽しんだ。各店では偶然隣り合わせた40代や50代の男性会社員、別の店では20代前半の女性美容師たちとも談笑。手狭な場所ゆえ、客同士の距離が近い「思い出横丁らしさ」も味わった。

 今回の催しは、「家庭向け商品が中心の『かのか』と、消費者の出合いを広げるのが目的で、業務用市場の拡大を意図したものではない。日常的にご家庭で食べているおかずとの相性の良さを体験していただこうと企画しました」と担当者は話す。

「この料理と芋焼酎は合うな」と実感できるので、面白い訴求だと感じた。

焼酎市場は若年層を取り込めるか

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「かのか散歩」の説明資料

 引いた視点で見ると、焼酎市場全体では規模の縮小が続く。酒類全体を見てみると、国税庁の発表資料では、17年度の国内酒類消費量は約837万3600キロリットル(前年比0.5%減)と微減市場のなか、ウイスキー(同10.5%増)、リキュール(同6.1%増)、スピリッツ(同14.5%増)などが伸長した。その一方、焼酎は約81万6000キロリットルと市場全体の1割弱を占めるが、ピークだった07年度から2割近く縮小している(参考:帝国データバンク。19年8月21日の発表資料)。

 その理由として、愛飲家の高齢化、若年層のアルコール離れも指摘される。だが、同行した20代の編集者も「普段は自宅に焼酎を常備しており、飲食店でも飲む」と言い、「今回は多様な楽しみ方を知りました」とも話す。前述した、隣り合わせた20代女性3人も楽しそうに飲食をしていたので、若者にも訴求の工夫次第に思えた。

ハイボールの成功は、脱・前例と新提案

 酒類の世界では10年ほど前に成功事例がある。サントリーが08年に仕掛けた「ハイボール」だ。ジリ貧だったウイスキー業界を復活させ、現在も好調が続くのは、前述のデータにも表れている。

 V字回復の要因を探るため、筆者は成功間もない10年に、当時のサントリー酒類社長や酒類業界に精通するジャーナリストを取材した。

 詳しく紹介する紙幅はないが、「それまで美味しいと考えていたウイスキーの黄金比率12%以上を消費者は『濃い』と感じていたので、ハイボールは8%にした」「従来のウイスキー水割りではやらなかった、レモンを軽く絞ることも好評だった」という話が印象的だった。

 また、「健康問題に敏感な先進国では、アルコール度数の高い酒は流行らないが、割って薄めれば度数も下がり、飲みやすさとともに健康を気にする中高年の嗜好にも合う」という話も聞いた。

 近年では「ハイカラ」と呼ばれる、ハイボールと唐揚げの組み合わせも若い世代を中心に人気だ。炭酸の爽快感×揚げ物を楽しむ人も多い。

「焼酎=オジサンの酒」のイメージを変えられるか

 思い出横丁でも飲食の組み合わせを訴求していたが、こうした一連のハイボールの成功例に、焼酎市場の活路があるのではないだろうか。

 少子高齢化で元気なシニアが多いとはいえ、若者が参入しない消費財(食品も含む)は、やがて行き詰まる。「芋かのか」のパッケージは、失礼ながら若い世代を取り込める感はない。そこは織り込み済みなのかもしれない。

 支持率が高い中高年が健在のうちに、世代交代を図る。口で言うほど簡単ではないが、思い出横丁のような昭和レトロな空間も若者に支持される時代だ。「古い=ダサい」ではなく、どのように「レトロ=かわいい」に変えていくか。

 新たな訴求などに動き続けなければ、消費者と商品との出合いもなく、新展開も見えてこない。焼酎市場のさらなる提案とその成果に期待したい。
(文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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