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マントラを暗記するインド人、脳が大きいことが判明

文=水守啓/サイエンスライター
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 すると、サンクスリット語に接してきた古典学者らの左右の大脳半球には、対照群と比較して灰白質(中枢神経系の神経組織のうち、神経細胞の細胞体が存在している部位)が10%増加し、大脳皮質(大脳表面に広がる、神経細胞の灰白質の薄い層)の厚みもかなり増加していたのである。また、短期的・長期的な記憶を司る右側の海馬も、より多くの灰白質を有していて、その皮質下構造の75%を占めていたことがわかったのである。

 調査の対象となった古典学者らが、習慣的にマントラを唱えることを除いて、どのような日常を過ごしているのかは不明確である。また、記憶することと、声に出すこと、それぞれの影響を区別するのも難しい。そのため、調査の正確さに関しては気になる点はあるものの、このような事実は専門家にとっても注目に値するものであった。だが、それが意味することを真剣に考え、科学的に考察する人となると、ほとんどいないようである。しかし、少し考察してみるだけで、興味深いことが見えてくる。

音波振動も無視できない?

 脳が大きくなること自体、もちろん、悪いことではないはずである。つまり、特別何も行わなければ、脳は完全なる成長・活性化の手前の段階にあると思われる。本来、もっと大きくなれるにもかかわらず、縮んだままということもできるかもしれない。

 では、どうしたら脳は大きくなるのだろうか? まず、よく頭を使うことである。これにより神経細胞は増える。また、血流を促し、脳細胞に十分な栄養が供給されるようにすることが不可欠である。さらに、細胞分裂が活発に行われるだけでなく、個々の細胞が最大限広がることも必要と思われる。

 もちろん、ここでは、口から摂取した栄養が単に問題の脳の部位に届いたから変化が及んだのではなく、記憶したマントラ(サンスクリット語)を唱えたことがその要因にあるとされる。つまり、記憶した言葉を思い出し、口を動かし、声を発したことが発端であると考える。

 筆者の考察では、頭をよく使うということが最も重要と思われるが、物理的な側面に注目してみると、口を動かし、口腔内で反響した音波振動が、頭部(骨、筋肉、脂肪)を伝わって脳に届くという刺激も重要と思われる。また、口から発した音を一瞬遅れて自らの耳で聞き取り、その信号が神経を介して、あるいは、振動が骨、筋肉、脂肪を介して伝わることも考えられる。音を耳だけでなく、体全体で受け止めることもあるだろう。ひとたび発せられた言葉の影響力は、こだまするように複数の波として到来して、その波に我々は飲み込まれていく。

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