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江川紹子の「事件ウオッチ」第135回

「旭日旗」持ち込み問題で生じる東京五輪組織委への疑問…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 サッカーと旭日旗をめぐる問題を取材した、ルポライター清義明さんの『サッカーと愛国』(イースト・プレス)は、中国・広州の年長サポーターのこんな発言を紹介している。

「日本は嫌いではない。中国が予選で負けるというのもあるが、ワールドカップでは日本代表を応援するぐらいだ。うちの子どもも日本のアニメは大好きだ。けれど、過去の話になると別だろう。中国人で親類縁者が日本人に殺されていない人はいない。旭日旗はその象徴だ」

 清さんは、「この話を聞いても、日本サポーターはアジアで旭日旗を出せるだろうか」と問いかけている。今、東京オリンピック・パラリンピックで旭日旗を掲げるべしと主張する人たちにも、同じ問いかけをしたい。

 しかし、残念ながらこうした問いかけが心に響かない人たちもいる。となると、なんらかのルールが必要だ。

 それを考える時、サッカー界の対応が参考になると思う。

 国際サッカー連盟(FIFA)は「攻撃的、挑発的な内容の横断幕や旗」を掲げることを禁止。2017年に川崎フロンターレのサポーターが韓国のチームとの試合で旭日旗を掲げた問題では、FIFAの下部組織であるアジアサッカー連盟(AFC)が、旭日旗を「国家の起源や政治的意見を表明する差別的なシンボルを伴う旗」であると認定し、フロンターレに罰金などの制裁を課した。フロンターレ側は「旭日旗に政治的、差別的な意図はない」として上訴したが、退けられている。

 AFCは東アジアから中東まで、さらにはオセアニアを含む広い地域の47の国と地域のサッカー協会で構成されている。そこで出されたのが、この結論だ。

 日本帝国が掲げた大東亜共栄圏の構想は、日本がアジア諸民族の「家長」としてアジアの国々を率い統治するというもので、差別的な構造を持っていた。この構想を実現すべく活動した日本軍の象徴たる旭日旗が、侵略と支配を受けた国々の人たちから、差別と屈辱のシンボルと受け止められる。

 日本側の「意図」がどうであろうと、これがアジアの受け止めであると認識しなければならないだろう。人々は他の国々が、韓国のように声高に主張するわけではないからといって、彼らも過去を忘れていると高をくくってはいけないと思う。

なぜ旭日旗をオリンピック会場で掲げたいのか

 さて、オリンピックである。

 安倍晋三首相も出席した、IOC総会のオリンピック招致プレゼンテーションで、滝川クリステルさんが日本の「おもてなし」の心を強く印象づけるスピーチを行った。

<見返りを求めないホスピタリティの精神。それは先祖代々受け継がれながら、現代の日本の文化にも深く根付いています。「おもてなし」という言葉は、いかに日本人が互いに助けあい、お迎えするお客様のことを大切にするかを示しています>

 先の中国人サポーターのように、声高に日本を非難せず、むしろ日本に好感を抱いてくれている人たちに、旭日旗を見せつけ、過去の苦難の歴史を思い起こさせ、わざわざ嫌な思いをさせるのが、日本流の「おもてなし」ではあるまい。

 東京オリンピックの会場で旭日旗が翻って、欧米のメディアがそれを大きく報じ、日本が過去の帝国主義や軍国主義を肯定しているかのように見られる、という事態になるのも不本意だ。

 そのような意見や懸念を聞いても、どうしても旭日旗をオリンピック会場で掲げたい、という人たちがいるとすれば、その主たる動機は、「日本が韓国の要求に屈するわけにはいかない」という、意地やナショナリズムだろう。

 町中のデモやネット上の表現活動で旭日旗を掲げ、そうした思いや主張を訴えるのは自由だ(私自身は、日本の対外イメージを大切にしたい愛国者なら、せめてオリンピック・パラリンピックの期間は、町中で旭日旗を振り回すのはやめてほしいと願うが、それを強制するわけにはいかない)。

 ただ、オリンピックの会場は、自身の思いや考えをなんでも自由に表明し、展開できる場ではない。オリンピック憲章に、はっきりこう書かれている。

<オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、あるいは政治的、宗教的、人種的プロパガンダも許可されない>

 2012年のロンドン五輪では、男子サッカー日韓戦の終了後、韓国選手が竹島の韓国領有を主張するメッセージを観客から受け取ってピッチ上で掲げ、処分された。

 18年の平昌冬季五輪の際には、南北合同チームの「統一旗」に竹島が描かれていることに日本側が抗議したところ、IOCはこれを「政治的行為」とみなし、竹島が含まれていない旗を使用するよう勧告した。韓国側はそれに応じた。

 今回、旭日旗について、ここまで問題になったのに(というより、問題にされているからこそ)、あえて日の丸ではなく旭日旗を持ち込もうとするのは、政治的なメッセージ、あるいはなんらかのデモンストレーションを行おうとするものと見なしてよいのではないか。

 それを放置し、トラブルが発生すれば、日本オリンピック委員会(JOC)は不作為を責められるだろう。

 パラリンピックのメダルのように、扇をデザインしたものにまで、無限に連想を広げ、「旭日旗をイメージ」するという独自の解釈で禁止を求めるなどの要求まで受け入れる必要は、もちろんない。そうしたものは毅然と(かつ丁寧に)断りつつ、常識的になんらかのデモンストレーションになりうるものについては、オリンピックの会場に限って持ち込み不可とするという対応が望ましいのではないか。

 旗がダメなら、衣服の柄ならどうか、ハンカチやタオルなどの小物はどうか、顔などへのペインティングはどうか、という話も出て来るだろう。旭日旗のデモンストレーションとなる可能性で見極め、対応が場当たり的にならないよう、五輪組織委などで事前に検討しておく必要がある。

 なお、こうした話をすると、「だったら、朝日新聞の社旗も取り締まるべきだ」「韓国はなぜ朝日に文句を言わないのか」などと茶々を入れる人がいる。同紙の社旗が旭日デザインだからだが、同紙の記者が「おそ松くん」のハタ坊よろしく、頭上に社旗をなびかせてオリンピックスタジアムで取材をするわけではあるまい。

 ネットで持論を展開する人たちは、しばしばこんなふうに、関係ない話題を混同させて話を混乱させようとする。悪いクセだ。今回、話題にしたのは、あくまでオリンピック会場で旭日旗をどうするか、という話であることを、念のため付け加えておく。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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