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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~ポスト五輪を待ち受ける23区の勝ち目、弱り目

国の東京23区人口予測は、なぜ大外れしたのか?東京は老人ばかり“にはならない”

文=池田利道/東京23区研究所所長
国の東京23区人口予測は、なぜ大外れしたのか?東京は老人ばかりにはならないの画像1
東京・渋谷のスクランブル交差点(「Wikipedia」より/Aimaimyi)

 ある自治体が、2015年の『国勢調査』データをベースに2100年の将来人口を予測する調査を行っていると耳にした。人口の将来予測は、シミュレーションモデルをつくってしまえば、100年後だろうと150年後だろうと自動的に答えが出てくる。だが、シミュレーション推計の本来の意義は単に数字を出すことではなく、得られた結果をどう使いこなしていくのかにある。85年後を予測して、何に活用するのだろか。

 世は未来予測ブームだ。しかし、多くの未来論が上の例と同じように「数字のひとり歩き」という過ちに陥っている可能性を否定できない。未来予測とはなんなのかにまで、立ち返ってみる必要がありそうだ。

 本連載のまとめとなる第4フェイズでは、国や都の将来人口予測なども視野に含めつつ、東京の未来を改めて問い直すことにする。

東京23区の将来人口推計が大外れ

 国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)は、『国勢調査』の結果が発表されるたびに将来人口の見直し推計を行っている。今から20年近く前の2002年1月に発表された推計値は2000年の『国勢調査』に基づくもので、2015年の我が国の総人口を1億2627万人と予測した。実は、この数字は、高位、中位、低位の3つの予測のうちの中位値で、1億2466万人~1億2764万人の範囲内と予測したと言ったほうが、より正しい。

 2015年の『国勢調査』による我が国の総人口は1億2710万人。予測レンジの中に見事に収まり、中位値との差もわずかに0.65%。将来人口予測は高い精度で推計が可能といわれるが、それにしても見事な正確さである。

 社人研は、翌2003年12月には市区町村別の将来推計人口を公表している。予測の基準は前述した全国推計と同様、2000年の『国勢調査』結果。図表1は、この社人研推計による東京23区の予測人口と実際の人口動向を比較したものだ。どう取り繕っても、及第点とはいいがたい。国の東京23区人口予測は、なぜ大外れしたのか?東京は老人ばかりにはならないの画像2

 2020年の実態値は筆者の推計値だが、3年半の実績トレンドからその1年半後を予測するという単純なもので、それほど大きく外れていない自信がある。これと社人研推計値との間には、実数で約150万人、比率で2割近い差がある。ちなみに、筆者のモデルによる2019年6月の人口は961万人。実際は963万人で、筆者推計自体が抑え目なものとなっていることを付け加えておく。

なぜ人口予測が外れるのか?

 社人研だけでなく、東京都も将来人口の予測を行っている。大部分の未来論は、社人研や東京都が公表する「権威ある」将来予測を論旨の拠り所とする。その土台があやふやでは、なんとも心もとない。確度が高いはずの将来人口推計が、なぜ大外れを起こすのだろうか。

 図表2は、社人研と東京都の過去3回ずつの将来人口推計の中から、23区の予測値をピックアップして整理したものだ。一見して、次の3つの傾向に気づくだろう。国の東京23区人口予測は、なぜ大外れしたのか?東京は老人ばかりにはならないの画像3

 第1に、新しい発表値ほど推計結果が上方修正されていること。第2に、社人研の13年推計値と18年推計値との間に不連続な差があること。2040年の予測人口は、2013年推計の840万人に対し、2018年推計では976万人で136万人も多い。第3に、社人研と都の最新予測を比べると、前者は2030年以降970万人強で高止まりになっているのに対し、後者は2030年をピークにゆるやかながら減少傾向に転じている。

 図表1に示した社人研の2003年推計が実態との間に大きな乖離を生んだことを含め、これらの理由は一点に集約される。それは、全国ベースではあまり深く考えなくてもいいが、自治体別になると途端に重要度が増してくるもの。もうおわかりだろう。人口の社会移動(転出入)をどう読み込むかだ。

実際は「過去だけ」を見ている将来推計

 1960年頃には転入者が転出者を15~20万人近く上回る転入超過を示していた東京23区は、1964年を境に転出超過に変わる。1964年というと、ちょうど前回の東京オリンピックが開催された年だ。前回五輪の置き土産ともいえるこの転出超過状態が、再度転入超過に変わるのは1997年のこと。その結果として、1965年をピークに減少を続けていた国勢調査人口は、2000年に30年ぶりの増加へと転じる。

 2000年の国勢調査時点で、この人口増を一時的な現象と捉えるか、大きな構造変化のうねりと考えるかの判断は難しかっただろう。30年間も人口が減り続けていたのだから、増えたのは一時的で、やがて元に戻るだろう。多くの人たちがそう考えたとしても無理はなかった。社人研の推計も、結果的にこの立場を採っている。「結果的に」と言ったのは、シミュレーションモデル自体が変化の兆しを捉えて未来を予測するものとはなっていないからだ。150万人の大外れは、こうして生み出された。

 新しい発表が行われるたびに結果が上方修正されるのも、同じように社会移動の読み違いが生んだ結果である。将来推計とはいうが、そこにインプットされるのは過去のデータだけ。つまり、過去だけを見て未来は見えていない。だから常に後追い、後追いの修正とならざるを得なくなる。

 社人研の2013年と2018年の推計結果に大きな差が生じているのは、きわめてテクニカルな理由によるものだ。従来、社人研は「社会移動は次第に収束していく」というモデルを採用していた。2018年推計では、これを「収束せず現状のレベルで続く」というモデルに改めた。詳細は不明ながら、都の2013年推計と2017年以降の推計に見られる不連続も、モデルの見直しによるものではないかと推測される。

 ただし、都は今も「社会移動は収束する」という考えを採っているようで、この違いが高止まりで推移するか、ゆるやかながらも減少していくかという差になって現れている。

 社人研の予測も都の予測も科学的手法を駆使した、まさに「権威ある」ものだ。しかし、どんなに精緻なモデルであれ、設定条件を変えれば結果はガラリと変わってしまう。

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた! amazon_associate_logo.jpg

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