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木下隆之「クルマ激辛定食」

日産スカイラインは、“両手離し運転”のまま東名高速から圏央道を経由して中央道を走ることができる

文=木下隆之/レーシングドライバー
【完了】日産スカイラインは、両手離し運転のまま東名高速から圏央道を経由して中央道を走ることができるの画像1
日産自動車「スカイライン」

 今秋にビッグマイナーチェンジされる「スカイライン」(日産自動車)の最大の目玉は、世界初の技術満載の「プロパイロット2.0」である。ハンズオフ(両手離し運転)が可能になり、あらかじめ設定したルートに誘導してくれる。“自動運転時代”がすぐそこに迫っていることを実感させる。

 プロパイロット2.0の最大の特徴は、「3D高精度地図データ」を採用したことだ。これまでのようなカメラとレーダーだけでは限界がある。目の前に見えたものだけにしか反応できないからだ。だが、スカイラインに搭載されるプロパイロット2.0はそれを補う。「3D高精度地図データ」が加わったことで、視界に飛び込んでくる状況だけでなく、その先のまだ見えぬ環境にも対応が可能になったのだ。つまり、“見て走る”のではなく“先を見て走る”のである。

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 地図データが3D高精度であることも肝になる。3Dゆえに、路面のアンジュレーション(地表の起伏)や傾きなども事前に知ることができる。実際にハンズオフで走ってみると、車線内中央をビタッと安定したまま走行を続けてくれることに感心した。これまでの運転支援技術は、外乱(通信系に妨害や雑音が加わること)の影響を抑えきれなかった。また、路面に傾きがあれば流されたし、アンジュレーションに進路が乱された。車線内にとどまることができても、わずかに蛇行を繰り返していたし、ピンボールのように走行ラインを探るような乱れも少なくなかった。だが、プロパイロット2.0は、その点でも完璧なのである。

 あらかじめルート設定しておけば、高速道路のランプウェイでの誘導や、ほかの高速道路への乗り換えなども対応可能だ。つまり、東名高速道路から圏央道を経由して中央道を走るというような複雑な案内も、条件さえ許せばハンズオフでこなしてくれるのだ。そう、これまで霞の中におぼろげに感じていたにすぎない自動運転が、突如として目の前に仁王立ちしていたかのような衝撃なのである。

【完了】日産スカイラインは、両手離し運転のまま東名高速から圏央道を経由して中央道を走ることができるの画像3 それが証拠に、ルート設定したあと、脇見運転をしたい衝動に駆られたのも事実。スマートフォンに目を落としてメールチェックしたり、カーナビの地図画面に見入ってしまいたくなったのである。

 そこで思い出されたのは「リスク・ホメオスタシス理論」である。1982年にカナダの学者が提唱した理論の概要は次のようなものだ。

「自動車の安全性を高めても、ドライバーは安全になった分だけ利益(楽をすること)を求めて危険な運転をするから、事故率は一定の範囲を超えて下がらない」

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「プロパイロット2.0」を導入したゴルフボール「ProPILOT GOLF BALL」

 ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)があると、ブレーキ操作が荒くなる。障害物センサーがあると、後方確認が疎かになる。レーンキープ機能があると、よそ見をする……という理屈である。実際に試乗中、あきらかに注意力が緩慢になっている自分に気づき、ハッと息をのんだ。

 だが、日産はそれにも対策を打っている。ダッシュボードに設置してあるカメラが、ドライバーを監視し続けている。目を細めたりよそ見をしたり俯いたりすると、警告音とともにハンズオフ機能を停止してしまうのだ。それゆえに、スマホチェックもカーナビチェックも許してはくれないのである。日産は安全のために、次の手を打っていたのである。リスク・ホメオスタシス理論をも否定してみせているような気がした。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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