堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

年収650万円超の人、前向きで幸福度が高い傾向強く

「gettyimages」より

 私たちは、元気な人や幸せそうな人を見ると、「きっとこの人はストレスとかないんだろうな」とか、逆にあまり元気がなさそうだったり幸せそうじゃない人を見ると、「きっとこの人はストレスを抱えているんだろうな」などと勝手な印象を抱いてしまったりします。しかし、幸福感とストレスには本当にそのような相関があるのでしょうか?

 この疑問について、別府大学の矢島らによる面白い研究があります。矢島らは、自分が幸せだと思っている度合いが高い実験参加者20人とそういう気持ちが低い15人の実験参加者に、ストレスを与える課題を与え、課題前、課題直後、そして20分後に、ストレスを計測する代表的な内分泌物質であるコルチゾールの値を計測しました。また、質問紙を使って、元気度(エネルギー覚醒、高いほうが好ましい)や緊張や恐怖や驚きのような心のネガティブな状態(緊張覚醒、低いほうが好ましい)も調べました。

 結果、普段から幸福感の低い人は、ストレスを与える課題に対して、有意にストレスを感じる一方、幸福感の高い人は、ストレス課題を強いストレスと感じない傾向がありました。また、しばらく経ったあとも、幸福感の低い人は、ネガティブな気持ちが残ったままでした。エネルギー覚醒が高いほど、そして緊張覚醒が低いほど注意力や集中力が高くなるといわれているので、幸福感の高い人は課題に集中して取り組むことができ、その結果、ストレス反応が軽減したのではないかと矢島らは推測しています。

 つまり、不幸だと思っているとストレッサーをストレスと受け止めやすいし、ストレスを解消しにくいということです。そう考えると、冒頭で述べたような私たちの印象はあながち間違っていないということになりそうです。

 では、幸福感を上げるためにはどうしたら良いのでしょうか?

 それについては、海外ではさまざまな研究がありますが、文化的な違いも考慮に入れると日本の調査が参考になるでしょう。経済産業研究所の西村と同志社大学の八木は、20歳以上70歳未満の2万人を対象に、所得、学歴、自己決定、健康、人間関係という5つの側面から幸福度を調査しました。

 結果としては、また、前向き思考の人は幸福度も高いことがわかりました。要因としては、所得が高くなるほど前向き思考になり、「不安感」も減少し、年収650万円を超えたくらいから前向き思考の人のほうが割合的に多くなるようです。平成29年度の平均世帯年収が620万円ということですので、平均を超えたくらいからということになるでしょう。ちなみに、大卒と非大卒では大卒のほうが、そしてより難易度の高い大学を出ている人のほうが前向きで不安感も低くなりました。

 さらに、年齢でいうと、35歳〜49歳の中年期において、幸福感は下がり、若い時期と老年期においては高くなるという結果でした。いわゆる、働き盛りほど幸福度が低いという結果になったわけです。確かに、人生のこの時期は、仕事の責任や社会的責任が重くなってくる時期ですし、子育てなどにも追われる人生で最も大変な時期かもしれません。自分や家族の将来についても心配の種は尽きない時期です。

 健康については、健康と答える人ほど、前向きで、不安感が低いという傾向がありました。やはり、健康であることも幸福感においては大切ということなのでしょう。

 人間関係においても、不満が少ない人ほど、前向きで不安感が少ないという結果が出ています。特に、配偶者や恋人、直属の上司との関係が影響するようです。そして、「自己決定」においては、大学や専門学校などの高校卒業後の進路・進学先、就職先は誰が決めたかなどについてたずね、自己決定度合いの高い人ほど前向きで、不安感が少なく、自己決定度合いが低い人ほど、前向き思考ではなくなり、不安度も高くなるという結果となりました。

 ほとんどの側面は、私たちの直感と合っていますが、自己決定が幸福度と関連するというのは目新しい結果でしょう。確かに、自分で決めたことについては、失敗したとしても後悔も少ないでしょうし、満足度も高いでしょう。

 こういったさまざまな条件も大切ですが、そもそも、幸福感というのは、非常に主観的なものです。自分が幸せだと思っていれば幸せです。どんなに裕福でいろいろなことに恵まれていても、本人が幸せでないと思えば不幸だし、どんなに大変な境遇でも、本人が幸せだと思っていれば幸せです。小さな幸せを毎日見つけていく人生のほうが、不平不満を見つけてばかりの人生より幸福感が高くなるはずです。結局、心の元気を保つことが、ストレスとうまくつきあっていく上でも大事なのです。

 とはいえ、なかなか気持ちだけをポジティブに変えていくのが難しいという方もいらっしゃいます。そういう方は、上で見たような環境を整えることが元気でハッピーな毎日を過ごす上で大事だということになります。すなわち、健康でいる努力をし、他人との関係を良好に保ち、できるだけ自分の意思でものごとを決定していくことが大切だということです。

(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

参考文献

矢島潤平,岡村尚昌, 田中芳幸,津田 彰 (2008) 「主観的幸福感と心理生物学的ストレス反応との関連性」日本心理学会大会発表論文集72  1061頁

西村和雄, 八木匡 (2018) 「幸福感と自己決定-日本における実証研究」RIETI Discussion Paper Series 18-J-026

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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