“被害者面”する関西電力の印象操作…金品受領を隠蔽した「監査役会」の重大な責任

関電会見、会見に応じる八木誠会長(写真:日刊現代/アフロ)

「贈賄側がブラック、収賄側はホワイト」などという印象操作は通用しない。

 関西電力八木誠会長は月額報酬の2割を2か月、岩根茂樹社長は同2割を1か月を返上するというが、両氏は改めて引責辞任を否定し、「原因究明に努める」そうだ。「死人に口なし」である。金品を持参した福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(故人)のふるまいを会見でリアルに再現してみせるご両人は、「賄賂病」の重症患者のようである。各地域の“殿様”である電力会社に残る腐った根っ子は、どうすれば除去できるのか。

「儀礼の範囲をのぞいて返却」と岩根社長は当初、説明した。「儀礼の範囲内とは中元・歳暮、そうめん」(同)。50万円のスーツお仕立て券は、当初、儀礼の範囲内に隠されていた。「金品を渡したのは森山氏1人」と説明していたが、吉田開発など2社から390万円分を直接、3人が受け取っていた。

 最初の記者会見での説明は虚偽だった。わかっていながら「儀礼の範囲」を拡大解釈して会長、社長、原発部門を守ろうとした。社内調査の報告書は社内役員がトップの組織がまとめたもの。説得力に欠ける。「受領した金品の額はもっと多いのでは」(関電関係者)との疑いが浮上しているという。徹底的な調査が必要だ。

 監査役会も同じ穴のムジナだった。昨年秋ごろに調査の報告を受けていたにもかかわらず、取締役会への報告を怠り、重要議案として取り上げていなかった。監査役は経営陣を監視する役割だが、関電の隠蔽体質を黙って見過ごした責任は重大である。

 経営陣が不都合な事実を隠し切ろうとしてきたことが、はっきりした。筆頭株主の大阪市の松井一郎市長は「新しい体制をつくるべきだ」と述べている。税務調査後に1.6億円を返却したというが、税務調査がなければそのまま懐に入れていたのだろうか。

原発再稼働に逆風

 10月3日付日経産業新聞は記事『「電力改革」関電が冷水 巨額金品受領も社長ら続投』で次のように報じている。

<「盟主」機能不全の可能性 原発再稼働「一層困難に」。(略)原発再編や発送電分離といった一連の改革は、原発事故で経営が厳しくなった東京電力ホールディングスに代わり関電が業界の主導役となっていた。関電問題は日本の電力システム改革を足踏みさせる恐れもある>

 株式市場が懸念しているのは、原発再稼働に逆風が吹くというシナリオだ。「業績に与える影響より、再稼働に必要な原発立地自治体の承認が得られなくなり、原発3基の再稼働が遅れるリスク」を先取りしている。関電は2021年までに高浜原子力発電所1、2号機、美浜原発3号機の再稼働を予定しているが、関電が今回の問題をきちんと“処理”しなければ、さらに遅れる。

 原子力部門以外の太陽光発電の関連部署でも金品の受け渡しがあった。電気を家庭や工場に供給する「送配電カンパニー」の幹部3人が元助役から250万円相当の金品を受領していた。送配電カンパニーの電力システム技術センターの所長だった福田隆氏らだ。福田氏はその後、常務執行役員に昇格した。他の2人は副所長だった。福田氏は130万円の商品券のほかスーツ仕立て券をもらった。他の2人は商品券計120万円分を受領した。

 八木会長、岩根社長はすべての社外役員を辞任する。八木氏は10月4日付で日本生命保険の社外取締役を辞任した。エイチ・ツー・オー(H20)リテイリングの社外取締役と読売テレビ放送の社外監査役も辞任する。岩根氏は田辺三菱製薬とテレビ大阪の社外取締役だ。読売テレビ、テレビ大阪は、きちんと関電問題を報道すべきだ。八木氏は関西経済連合会の副会長は辞めないとしているが、辞任が先決ではないのか。「関経連の次期会長」と考えているのは関電関係者だけだろう。

 安倍晋三首相の“オトモダチ”、稲田朋美・自民党幹事長代行が代表を務める「自民党福井県衆議院選挙区第1区支部」は、元助役が取締役だった警備会社から11~13年、毎年12万円、計36万円の献金を受けていた。稲田氏は10月4日出演したBSフジの番組で献金を受けていたことを認めた上で、返金に関して「事実確認をした上で対応したい」と語った。稲田氏は「違法ではない」と言っている。

癒着の構造

 関電と元助役の関係は30年以上にわたって続いてきた。電力会社と地元有力者の癒着、相互依存はコーポレートガバナンス(企業統治)と対極に位置する暗部だ。“オメルタ(黙契)の掟”を無意識のうちに意識していたのであろうか。黙契とは「無言のうちに互いの意識が一致すること」だ。関電と元助役は黙契を結んでいたのだろうか。筆者が一番知りたいのは、この点だ。

「原発運営に支障をきたすリスクがあった。呪縛から逃げられなかった」。10月2日の記者会見で岩根社長はこう述べたが、苦しい言い訳である。またまた恐怖の「呪縛」という言葉が出てきた。旧第一勧業銀行の総会屋利益供与事件で出てきた言葉だ。この時は頭取経験者が自死している。

 元助役が今年3月に90歳で死亡しなければ、この癒着の構造は、まだまだ続いていた。「(金品を)返したくても返せず、我慢を重ねてきた」(岩根社長)という釈明は笑える。重大な不祥事の疑いが把握できた段階で、なぜ第三者委員会による調査を行わなかったのか。取締役会で情報を共有せず、公表を見送ってきた対応は、まさに隠蔽である。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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