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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

米国、中国の国策的監視ネットワーク「天網」を破壊…ファーウェイ他100社超を禁輸対象に

文=渡邉哲也/経済評論家
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中国・ハイクビジョンの監視カメラ(写真:AP/アフロ)

 アメリカ商務省が、中国の企業8社および新疆ウイグル自治区の公安機関や警察大学校などを「エンティティリスト」(EL)に掲載することを決定した。

 対象となるのは、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)などのテクノロジー企業のほか、地方の公安機関だ。ELに掲載されると、政府の特別な許可がない限りはアメリカ企業との取引が実質的に禁止される。そのため、ELは事実上の禁輸措置リストであり、ブラックリストとも呼ばれる。

 ドナルド・トランプ政権は、今回のEL入りの理由を新疆ウイグル自治区のイスラム教徒少数派に対する人権侵害に関与したこと、としている。トランプ政権が人権侵害を理由に中国企業のEL掲載を決めるのは初めてだ。ハイクビジョンとダーファの2社は世界の監視カメラ市場で合計シェア3分の1ともいわれるが、トランプ政権は「ハイテクを使った監視といった中国の人権侵害にかかわってきた」と糾弾している。

 EL入りすることにより、該当企業はアメリカ原産の技術や産品が25%以上におよぶ製品は利用することができなくなる。また、再輸出規制により、日本も同様の製品を該当企業へ輸出することはできない。また、人的な技術供与も許されないため、アメリカ原産の技術を用いた研究や技術開発からも該当企業を排除する必要がある。

 現在、顔認証や音声認識などの技術の基礎部分にアメリカ原産の技術が多数含まれているが、今後は該当企業とのライセンス契約もできなくなる。そのため、ライセンスの抹消により、今後は該当企業の製品が知的財産権の侵害とみなされる可能性もあり、そうなれば日本への輸出にもストップがかかるかもしれない。

 ハイクビジョンは世界シェア1位といわれ、日本のメーカーもOEM供給を受けているケースがあるようだが、東京オリンピック・パラリンピックを控えて監視カメラや警備システムの更新が進むなか、今後は計画を大きく見直す必要に迫られることになりそうだ。

 また、アメリカは輸出規制の対象について、日本などの同盟国にも同様の措置を取ることを求めており、今後は日本独自の技術や産品であっても該当企業への輸出ができなくなる可能性もある。リスクヘッジのために、日本企業も中国企業とのAIやハイテク分野での共同開発および共同研究の計画を見直す必要があると思われる。

 今回のEL入りで、アメリカの“天網潰し”が始まったといっていいだろう。「天網」とは、中国におけるAIを用いた監視カメラによる国策的なコンピュータネットワークであり、現在の中国の異常な監視社会を形づくっているシステムだ。ハイクビジョンとダーファは、その天網のいわば象徴であったといえる。すでに、この2社は国防権限法の発効により、今年8月から連邦政府や軍などアメリカ政府機関の調達から締め出されていたが、今回EL入りを決めたことで、トランプ政権は天網潰しに本腰を入れ始めたというわけだ。

 また、10月10日からは閣僚級の米中貿易協議がワシントンで行われる予定であり、これに先立ち、アメリカが中国を強く牽制したという見方もできる。

ファーウェイ関連100社以上も禁輸リストに

 ELと中国企業といえば、すでに華為技術(ファーウェイ)および関連企業100社以上が掲載されており、事実上の禁輸対象となっている。その中には、ファーウェイの開発部門や海外の開発拠点、SoC(CPU)を製造しているハイシリコンの拠点、映像処理ソフト会社などが含まれており、通信網構築や新規開発などに関する抜け穴がふさがれた状態となっている。

 また、ファーウェイおよび関連企業には「一時的な一般ライセンス」(TGL)が与えられているが、このTGLが切れる11月19日以降は、ファーウェイ製品でグーグルの基本ソフト(OS)である「アンドロイド」の機種別メジャーアップデートなどができなくなる可能性がある。また、すでにファーウェイの新機種には、グーグルが提供するソフトウェアである「グーグルプレイ」や「ユーチューブ」「グーグルマップ」などがインストールできなくなっている。つまり、アンドロイド対応の各種アプリが使えないのだ。

 ファーウェイは独自開発のOS「鴻蒙(ホンモン)」を発表しているが、これは「アンドロイドを代替するほどの性能はない」という見方が広がっており、ファーウェイとしてもアンドロイドを優先したいのが本音で、独自OSに頼らざるを得なくなるというのは最悪の展開ではないだろうか。

 TGLは5月にファーウェイおよび関連企業がEL入りした際に付与され、8月に90日間の延長が発表されたが、アメリカは再延長は行わない方針を示している。そもそも、TGLの延長自体が中国に対する融和策ではなく“余命宣告”のようなものであり、ファーウェイおよび中国は、いわば執行猶予の状態であるといえるのだ。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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Twitter:@daitojimari

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