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堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

身近な「怒っている人」からの負の影響を回避する方法…研究結果

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
身近な「怒っている人」からの負の影響を回避する方法…研究結果の画像1
「Getty Images」より

 世間を見渡すと、職場や学校で、駅やお店や道端で、そしてSNS上で怒っている人であふれかえっているように見えます。怒ることで良いことなどほとんどありません。かのピタゴラスも、「怒りは無謀をもって始まり、後悔をもって終わる」と言っています。また、怒ると6時間以上も免疫力が下がり、他者へのいたわりや慈しみの感情を抱くと、24時間以上も免疫力が高まるというロンドン大学のレインらの研究もあります。ほかにも、高血圧ストレス、不安、頭痛、血行不良など、さまざまな健康上の問題を引き起こすといわれています。怒りが、「有毒感情」といわれる所以です。

 困ったことに、この「有毒感情」は、周りの人にもネガティブな影響を与えます。怒っている人を見ると、嫌な気持ちになりますよね。実際、後述するスタンフォード大の研究でも、怒っている表情に接すると、表情を見た人もネガティブな感情になることが実験で示されています。

 また、怒っている他人を無視することができないのも事実です。エセックス大学のフォックスらの研究によると、私たちの脳は、怒っている顔により敏感に反応するそうです。怒っている人は、自分に危害を加える可能性があるので、本能的に他の表情よりも早く察知して、対応を考える必要があるからです。

 怒っている人と接するのは、とてもエネルギーのいることです。自分へのストレスにもなります。自分では普段あまり怒ることはないという人も、怒っている人と接することはなかなか避けるのが難しいもの。ですから、そういう人たちと接する際に、どのように接するのが自分への「被害」が小さくなるかを考えなければなりません。

 そこで参考になるのが、スタンフォード大学のブレッチャートらの行なった研究です。ブレッチャートらは、(1)普通の表情を見たグループと、(2)怒っている表情を見た被験者と、(3)怒っている表情を見て「捉え直し」をしたグループに分けて脳の活動を比較しました。先ほど述べたように、怒っている表情を見た(2)の被験者のグループは、他のグループに比べて統計的に有意にネガティブな感情になりました。

「捉え直し」

 この研究で注目すべきは、怒っている表情を見て「捉え直し」した(3)のグループについてです。「捉え直し」とは、たとえば、自分に対してではなく、「この人は上司と口論したのだ」などと怒っている原因を別のものと考えるようにトレーニングしたのです。このグループは、普通の表情を見た(1)のグループと有意な違いはありませんでした。

 脳の活動としても、ネガティブな感情を抱いている時は、後頭の活動が顕在化していたのですが、「捉え直し」をすると、前頭の活動が顕在化し、後頭が落ち着いていました。論理的思考は、前頭葉を使います。「捉え直し」をすると、脳のエネルギーが前頭に向かうので、感情の反応である後頭の活動が低下するということです。

 ですから、みなさんが今後、怒っている人を見ても、「課長、すごく怒ってるけど、きっと今朝、愛する娘さんに辛くあたられたんだろう」とか、「まあこの猛暑じゃイライラもするよな」とか、自分以外のところで理由を考えるようにして自分の感情への被害を抑えるようにすれば良いわけです。

 しかも、これは繰り返し行って訓練すればするほど効果的です。結局は、なんでもものごとの「捉え方次第」ということです。自分の怒りについても一緒です。たとえば、すれ違いざまにぶつかられても、その人が実は目が不自由な方だとわかったら許せる気持ちになります。同じ事実なのに、自分がどう解釈するかだけで、自分の感情がネガティブになるのを防げます。事実は一つ、解釈は無限です。どうせなら、できるだけネガティブな感情を持たない生活を送ったほうが健全です。この「捉え直し」を身につけることによって、他人の怒り、そして自分の怒りも上手に処理して、少しでもストレスの少ない生活を送れるようにしましょう。

(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

【参考文献】

Blechert, I., Sheppes, G., Di Tella, C., Williams, H., 8: Gross, I. I. (2012). See what you think: Reappraisal modulates behavioral and neural responses to social stimuli. Psychological Science, 23(4), 346-353

Fox, E., Lester, V., Russo, R., Bowles, R. J., Pichler, A., &Dutton, K. (2000). Facial expressions of emotion: Are angry faces detected more efficiently? Cognition & Emotion,14, 61–92.

Glen Rein; Mike Atkinson; Rollin McCraty, (1995). The Physiological and Psychological Effects of Compassion and Anger.  Journal of Advancement in Medicine. 8(2): 87-105. 

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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