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阿部誠「だまされないマーケティング…かしこい消費者行動:行動経済学、認知心理学からの知見」

サブウェイの恐怖…注文の選択肢「4400万通り」で消費者を遠ざける

文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
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サブウェイの店舗(「wikipedia」より/Kirakirameister)

1.サブウェイがいまひとつブレークしない理由

 パン、トッピング、野菜、ドレッシングなどを選んで自分好みのサンドウィッチを注文できる、ヘルシーなイメージのサブウェイ(SUBWAY)ですが、日本での人気はいまひとつのようです。

 その理由の一つに、選択の複雑さが挙げられます。サブウェイの横長カウンターでは、流れ作業の順に、まずサンドイッチの種類(ターキー、アボカドシュリンプなど)を約15の中から決め、次にパンを5つの中から選び、さらに8つの有料トッピングの有無、4つの野菜の有無、4つの無料トッピングを決めて、最後にドレッシングを9つの中から選んで、商品が完成するという仕組みです。

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『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(阿部誠/KADOKAWA)

 その数、実に約4400万通り(15×5×2の16乗×9)にもなります。自分の後ろには、列に並んでいる人からのプレッシャーもあります。事前に決めていないと、リアルタイムに約4400万の選択肢の中から、自分が一番好むサンドウィッチを注文するのは至難の業です。

 一見さんにとっては、特に大変かもしれません。たかだかサンドウィッチ、注文でミスをしてもお腹いっぱいになればと思うかもしれません。しかし間違った選択をして後悔するかもしれないという恐怖は、消費者を無意識のうちにサブウェイから遠ざけている可能性があります。

 選択肢は多ければ多いほどいいと思っていませんか? たしかに、4400万通りの中から効用が一番高くなるオーダーを瞬時に計算できるようなロボットであればそうでしょう。

 しかし人間の情報処理能力には限界があります。これは1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが提案した限定合理性と呼ばれる概念です。選択肢の数が多すぎると、意思決定の負荷が大きくなったり、選択に失敗したときの後悔を恐れたりして、選択自体を保留することが知られています。

 たとえば心理学者シーナ・アイエンガーの著書『選択の科学』(文藝春秋)で紹介された有名な実験では、6種類のジャムを用意した場合、試食に来た人のうち30%が購入しましたが、24種類の場合には、試食に来た人のうち3%しか購入しませんでした。彼女は、人が進んで選ぼうという気になって、その結果に満足できる選択肢の数は5~9といっています。

 サブウェイでも、各選択項目にチェックリストが書かれた注文用紙を記入するようなシステムでもあれば、この問題が少しは緩和されそうですね。

阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授

阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授

1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得後、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に論文を多数掲載。『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)など著書多数。
東京大学教員紹介 阿部誠ページ

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