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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

3分診療で鬱診断→向精神薬の強烈な副作用で“絶望の淵”をさまよった2年間

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
3分診療で鬱診断→向精神薬の強烈な副作用で絶望の淵をさまよった2年間の画像1
「Getty Images」より

 5人に1人が精神疾患にかかっているともいわれる現代日本。仕事や人間関係のストレスから鬱症状になる人も少なくない。多くの企業がメンタルヘルスケアに取り組み、ストレスチェックを実施するなど社員の精神衛生の向上に努めている。

 筆者が働く医療業界でも、鬱が原因で休職に追い込まれたというケースもある。しかしながら鬱の診断は、医師によっては非常に曖昧なケースもあるようだ。実際に医師の診断を疑いたくなるような経験をした2人の男性に話を聞いた。

薬を捨てるという選択

 ジャーナリストのA氏(仮名、52歳)は40歳の頃、仕事に打ち込むもうまくいかず、やがて何事にも気力が湧かなくなった。不眠や食欲不振などで苦しい日々が続き悩んだあげく、精神科を受診した。

「初めて会った医師から、わずか数分の診察で告げられたのは『鬱』でした。睡眠薬と抗うつ剤を飲むように言われました」(A氏)

 しかし、医師の診察に疑問を抱いたA氏は友人に相談したところ、「向精神薬は怖い薬だ。一度飲み始めたらやめられなくなって、副作用でもっと症状が悪くなることだってある。普段接していて、Aさんは精神疾患じゃないと思うし、飲んじゃダメだよ」と、強く忠告された。

 A氏は友人の忠告に従い、医師に処方された薬はそのままゴミ箱へ捨てた。現在は鬱を克服し、多くのメディアでも活躍するA氏は当時を振り返り、「医師には鬱と診断されましたが、単に職場の環境が合わずストレスからネガティブになっていただけ」だと語り、合わない環境で無理をするなかで、心が疲れた結果だと分析する。

「その会社で役立っていないとの思いが強くなり、さらに世の中に役立っていないと思うようになっていき、鬱傾向になったと思います」

 その後、転職したA氏は自信を取り戻した。

「転職し、あるラジオの番組を担当したのですが、ラジオのリスナーの方から感謝のメッセージを頂き、自分も人のために役立つことができると思えたのも鬱傾向を克服するきっかけとなり、薬は必要ありませんでした」

 A氏のように、自身の存在価値を見いだせない環境にいれば、人は容易に心身共に活気を失う。A氏を鬱と診断した医師の“誤診”は、まれなケースだと思いたいが、実際はそうでもないようだ。A氏とは対照的に、薬によって症状が悪化した経験を持つ人もいる。

“3分診療”で患者の心に向き合えるのか

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株式会社ワンズベスト代表取締役・根本晴人氏

 経営コンサルティング会社の株式会社ワンズベスト(http://ones-best.com/)代表取締役・根本晴人氏は、過去に鬱と診断された経験がある。初診で鬱と診断されたのだが、医師が処方した薬はナルコレプシーの治療薬「リタリン」であった。ナルコレプシーとは、日中はもちろん夜間でも通常の活動時間に強い眠気に襲われ眠り込んでしまう病気である。単なる眠気とは異なり、人との会話中にも寝入ってしまうなど日常生活に支障をきたす睡眠障害である。根本氏にそういった睡眠障害があったのだろうか。

「当時は、ストレスが重なり身体も心も疲れ、頭がうまく働かない状況だったので、とにかく医師に話を聞いてもらいたくてメンタルクリニックを受診しました。十分に話ができた感じはありませんでしたが、鬱と診断され初診でリタリンを処方されました」(根本氏)

 根本氏は心身ともに状態が悪く、どうにかしたいとの思いで医師の処方通りにリタリンを服用した。しかし、服用に伴い、改善するどころか生活に支障をきたしたという。

「ひどい嫌悪感、頭が割れるくらいの頭痛。そして、その後は人と会っても言葉がしゃべれなくなる状況や脳が溶けそうな感覚が起こり、人と会って話すことが恐怖になりました。やはりリタリンの副作用かと服薬は中止しましたが、強い副作用がトラウマとなり、人と会うとなると嘔吐をしてしまう状況が約2年間続き、日常生活に大きな支障が出ました」(同)

 そのことについて、医師に相談はしなかったのだろうか。

「医師に相談しても2回目以降の診察は“3分診療”で、あまり相談に乗ってくれるという感じではありませんでした」(同)

 3分診療で心の問題が診断できるとは思えない。医療のあり方を見直す必要があるのではないだろうか。

断薬の後に回復

 友人や親族も心配して、ほかの病院を勧めてくれたという。

「ただ、ほかの病院に行くと診断名も異なり、違う向精神薬が処方されて、何を根拠に病名や薬を処方しているのかと疑問を持ちました。このまま薬を飲み続けても治るとも思えず、むしろさらに悪化すると感じました。そこで断薬をして、薬に頼らず自己の感情の整理や環境を変えたり根本原因を追究して治そうと考えました」(同)

 根本原因の追究とは、具体的にどのようなことか。

「まずは自分との対話から始めました。心が疲れた原因は、仕事のストレスです。また、向精神薬を飲んだことによって起こった恐怖現象がトラウマになっている状況がありました。そこで、環境を変えてまったく別の方向に行くという道もありかと思いましたが、私は自分の身に起こったことにはすべて意味があると信じていましたので、起こったことに直面する道を選びました」(同)

 直面する道とは何か。

「原因から逃げるのではなく、それに立ち向かうことで改善する方向を選ぶ道です。私が経験したストレスは、仕事をしている方の多くが抱えている問題なはずだと思いました。それなら、私だけではなく、同じようなストレスを抱える人の問題も解決できるようなビジネスモデルを考えることが、自分自身を立ち直らせることでもあるし、世の中に貢献できると考えました」(同)

成功体験を重ねる

 目標を持ったことで、より強く薬には頼りたくないと考えた根本氏。しかし、回復にはそれなりに時間を要したという。

「最初に心が疲れてから約2年間後に、ようやく解決できるようなきっかけがありました。それは、自分がやりたかったビジネスモデルを思いついたことでした。そして、それを思いついてから2週間後に起業しました」(同)

 起業し、多くの人と会うなかで、本来の自分を取り戻していった。

「起業することにより、少しアウトプットができるパワーを取り戻し始めたので、あえて鬱のときに不安現象が起こった場所で人と会って、今に意識を集中して『もう不安現象は起こらない』という成功体験を積み重ねることにより、回復しました」(同)

 現在、大人の引きこもりが大きな社会問題になっているが、解決には周りの理解が大切だという。

「心が疲れているときは、心の整理がついておらず、うまく自分の言葉で表現がしにくい状況になっています。また人の話を聞いても理解しにくい状態になっています。頭ごなしに指示したり知識をインプットさせるのではなく、その方が頭の中で整理がついていないことをアウトプットして整理できるように話を聞いてあげることが強いサポートになると思います」(同)

人のために行動する喜び

 鬱、薬の副作用を乗り越え起業した・ワンズベストの代表取締役として活躍を続け、今年13期目を迎えた。鬱を経験したことは、その後に生かされているという。

「これは私の考えですが、薬を飲むことはおススメしません。私もあのまま薬を飲み続けていたら、今の自分はいないと思っています。薬を飲んでいる時、一時的な高揚感はあったとしても、その後の嫌悪感やだるさ、眠気、気持ち悪さを続けていたら、治るものも治る気がしません」(同)

 根本氏は、自身の経験を社員育成にも役立てている。

「よく社員にも話すことですが、心が疲れることは誰にでも起こります。その心の疲れはピンチかもしれませんが、自分の心の声と向き合うことで自分らしさに気づくチャンスなんです。その自分らしさに気づくことが、改善の第一歩につながると思っています。既成概念にとらわれず、自分らしい人生を歩むことが大事だと思います」(同)

 今回、話を聞いた2人に共通することは、3点ある。鬱という診断に関する医師への不審、医師の診断と自身の状態のギャップに気づき薬を飲まない選択をしたこと、そして回復過程において自身のことだけでなく「人のために行動する」という喜びに気づいたことである。人のために何かできるということは、前向きな気持ちになるために大きな役割を持つといわれる。

 医師の診断は絶対ではないし、向精神薬を不適切に服用することは、依存や副作用など身体に負担をかける結果となることを知っていただきたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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