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藤野光太郎「平成検証」改正水道法の急所(5)

安倍政権の水道民営化、海外では水道料金高騰・水質汚染・汚職が社会問題化

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
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安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)

令和元年10月1日、「改正水道法」が施行

「公費」につながる利権は莫大なカネを生む。そのため、利権には汚職がつきものだ。放置すれば権力が腐敗することを誰もが知っているが、知っていても腐敗は事実上、野放しにされている。なぜなら、権力にぶら下がって禄を食む人々が公務の職責を疎かにして頂点を支え、そこに組み込まれたマスメディアも監視を怠って、自らその権力構造を支え続けてきたからである。

 税金が投じられる公共・公益事業に忍び寄る巨大企業は、“外部”を使って法の隙間をかいくぐり、あるいは政治と行政を経由して法制度そのものを改変する。目的は、政府や自治体の管理下にある「国民/住民の金庫」から莫大なカネを吸い取ることであり、そのための周到な計画が立てられる。計画に相乗りする政治家が得るものは権力の維持と目先のカネ、官僚は省益獲得による昇進と第二の人生の保障を得る。

 そこで狙われる公費は、政府や自治体があまねく集めた税金や公共料金だ。公共料金は公共機関が行う公益事業のサービス対価である。「利潤追求を目的」に経営すべきではない公共・公益事業で、水道のようなライフラインを担う事業は特に厳しく規制されてきた。規制が世界的に崩れ始めた端緒は、欧米で1970年代後半から80年代にかけて始まった規制緩和と民営化。その風潮が85年前後の日本に上陸して以降、公共・公益を守る規制の壁がじわじわと溶かされてきた。世の中で「規制緩和/民営化」すべきものとすべきではないものとの峻別ができなくなってしまったからである。

 公費をめぐる収奪の計画は、さまざまな接触とあらゆる場面で行政機構の内部に侵食し、そこに生まれた腐敗は権力の頂点から下り、末端からも上って、結果、全体の腐敗が完成する。日本で国を挙げての規制緩和が始まった昭和の末期=85年前後から平成・令和に至るこの30年間は、そうした権力構造が築き上げた巨大利権シンジケートが本格的に内外の国民を貪り食い始めた時代でもあった。従って、平成の世は本格的に日本に上陸した新自由主義(ネオリベラリズム)が描く「現代日本史」だったといえる。

 さて、平成最後の年末に可決・成立した「改正水道法」が、いよいよ令和元(2019)年10月1日に施行された。これを機に、諸事情でしばらく中断していた本連載を再開する。

水道コンセッション契約で始まる料金値上げの「段取り」と「算出法」

 まずは、前回までの要点を簡単に整理した上で、料金値上げの順路を予見しておこう。

 日本では、安全な水質と低廉な料金、安定した供給を維持する水道インフラが全国に普及してきた。ところが、各地の水道管はすでにあちこちで老朽化している。自治体財政が逼迫するなかで、「老朽化した公共インフラの再整備にはPFIが適切」との見解が、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)/PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)の普及に拍車をかけてきた。

 だが、数回前の記事でも指摘したように、改修コストが年ごとに蓄積し巨大化していたにもかかわらず、自治体の首長や議会は保身から住民への説明を怠り続け、マスメディアも料金値上げの是非を峻別できず、学識者も見識を失い、水道事業はコスト蓄積を避けるための適時・適切な料金への反映を行ってこなかった。

 他方、「官民連携」を御旗として制定されたPFI法は、「地方自治法」との整合性を巧妙に図りつつ、ここ数年でさらに改定されていた。政府は自治体をコンセッション契約(事業の運営権を企業に売却する仕組み)に踏み出させるインセンティブの法的根拠を整え、水道を含む公共・公益事業への巨大企業参入にさらなる拍車をかけるための規制緩和を繰り返してきたのである。PFI法や周辺法の改定・整備で「改正水道法」の法的正当性を巧妙に担保し、そのために公僕たる官僚の頭脳が動員された。そして、議会が利用料金の値上げを認めざるを得ないよう、料金決定に関する根拠法に手を入れたのである。

 改定前の水道法は第14条「供給規程」の第2項の1で、「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること」とされていたが、改正法では、この条文に「健全な経営を確保することができる」との文言を加筆挿入することで、総括原価計算に改修費等の資産維持費を「その他の出費」と共に算入しやすくした。総括原価制度は、全費用を利用料金に反映させられる。自治体と運営権者は今後、蓄積され巨額化してしまったコスト負担を利用者に転嫁する料金値上げが比較的容易に実現できる。これまでためらってきた「原価算入」の背中を押す条文改定が行われたため、議会が反発しても料金規程の条例改定を強行できる見通しが立ったからである。

 これによって、コンセッションを導入した自治体の水道料金は、民間企業の要求に応じて比較的容易に値上げしやすくなり、コンセッション契約が破棄/終了しても、以降の水道料金は高止まりのまま自治体が受け継げるわけだ。コンセッションの運営権者は複数企業の連合体であり、各々に配分し得る利益幅を設定できる。

 従って、必要コストのみ上乗せする自治体の値上げとは異なり、水道コンセッションで民間企業が請求する料金は、「通常の運営コスト」に「+老朽化した管路改修コスト+特別目的会社の全社に配分する利益+配当金等」が加算された金額を利用水量で割った金額となる。放置すれば、いずれはその料金徴収が始まることになる。

 以上のように、「老朽化した管路改修コスト」の原価算入をためらってきた自治体の足元を見て改定されたのが「改正水道法」だということを、本連載(1)~(4)で明らかにした。

 この10月1日の改正法施行で各地の自治体が「水道コンセッション契約」に走った場合、水道利用料金の値上げは今後、次のような「段取り」と「算出法」で行われるだろう。

(1)運営企業が自治体との定期会議で「そろそろ利用料金を上げたい」と事前打診し、その前提でコンセッション契約した自治体は当然のようにこれを内諾。

(2)運営企業は、「現行の水道料金単価」と「当該年度から数年後までの水道使用量の見込み額」を試算し、料金収入を試算(収入総額の予測)。

(3)同時に、「利益、その他」を非開示のまま、同じく「当該年度から数年間に必要となる施設維持管理費や更新費用」を総括原価方式で試算(費用総額の予測)。

(4)予測費用収入総額と予測費用総額の「差」を「不足分」として現行規程の料金に上乗せした新料金案を算出。自治体はこれを「適正価格」とする条例改定案を議会に提出。

(5)規程の総括原価方式に基づき提出された「適正価格」は、改正水道法で謳われた「健全な経営の確保」に整合・合致するとされ、議会の反発は尻すぼみとなって条例改定案が通過。

(6)自治体は、広報紙で新料金を住民に伝え、記者クラブにも発表資料を配布。マスメディアは批判もせず地味に「広報」。

――新料金は、世論の反発を回避するために様子をうかがいながら段階的に行われる。ちなみに、水メジャーのヴェオリア社やスエズ社が本拠を置くフランスの首都パリでは、1985~2009年の24年間で水道料金が250%を超えるほど上昇した。

欧米では水道コンセッション/民営化で不正と汚職が蔓延

 イギリスでコンセッションが生まれたのは、日本のバブル経済が破綻した直後の1992年。その7年後に日本もこれを推進するためのPFI法を制定し、数度の法改定を経て現在に至る。“鵺”のような立場を量産する「官民連携」を政・官・財・学・報がこぞって崇め讃えた結果、世に不正と汚職がはびこることとなったのである。

 公共・公益事業にまつわる腐敗・汚職は今、世界的な規模で拡大・浸透・深化している。それは、かつてよりも大胆で巧妙だ。行政機関に組み込まれることで、さらに複雑化・巨大化したその仕組みが常態化すれば、もはやそれは国民の目に「不正・違法」ではなく「正当・合法」なものとして映り、ほかの事例同様に当たり前のこととして定着する。

 新PFI法と水道法改正は、「コンセッションによる事実上の水道民営化」への扉をこじ開けたが、他方、以下に記すように、官民連携のコンセッション推進は世界各地で腐敗・汚職を多発させてきた。安倍内閣とマスメディアは、その事実を法施行後の今も隠し通そうとしている。

 本連載(1)で既述したように、国内初となった浜松市の下水道コンセッション契約で運営権を握る特別目的会社HWS(浜松ウォーターシンフォニー)の6社連合は、その中核が仏ヴェオリア社の日本法人(ヴェオリア・ジャパン)である。同社は世界を股にかけるウォータービジネスで仏スエズ社と共に頂点に君臨する多国籍巨大水企業(通称:水メジャー、ウォーター・バロン)だ。

 同社の本拠フランスでは19世紀以降、水道や鉄道などの公的インフラでコンセッション方式による行政契約が推進されてきた。だが、それは汚職をはじめとする数多の問題をはらむものだった。次々と露呈する問題で世論の反発が高まり、行き詰ったフランス政府は1993年に「汚職の防止並びに経済生活と公的手続における透明性に関する法律」(通称「サバン法」)を制定、表向きは規制を強化した。

 ところが、同法の施行後もコンセッションは汚職を生み続けたのである。

水道コンセッションによる料金高騰・公務汚職・水質汚染・会計隠蔽

 世界的な労働組合連合体「国際公務労連(PSI)」に委託を受けた英グリニッジ大学の「公共サービス国際研究所(PSIRU)」は、フランスでサバン法が制定されてから約20年が経過した2012年、『腐敗と公共サービス』と題した報告書で、政府によるコンセッション推進の影響と実態を厳しく指摘した。少し長くなるが、翻訳された要約文から以下に一部を引用・抜粋する(報告者はPSIRU・デイビッド・ホール氏)。

<……これらのネットワーク(本稿筆者注:政治家と企業グループによる贈収賄のネットワーク)は違法な支払い(賄賂)を利用したが、合法の支払いを通じた「影響力のネットワーク」も築かれた。つまり、政党への献金やロビイストを雇って政治家に特定の政策的立場をとらせることなどである>

<……政治家を仲介者とし、制度的に整った政策プロセスにおいて、お金を払ってアクセスと影響力を手に入れるという企業の努力がそこにある。発展途上国では、ロビー活動にお金をかける企業は、ただ賄賂を払うだけの企業よりも大きな利益を上げている。アメリカでは政治家とつながりのある企業が政治家を選挙で支持し、選挙後により多くの契約を取り付けている。イギリスとアメリカでは、銀行が数千数百万ものお金を費やして、規制の強化を食い止める>

<民営化は腐敗と国家捕獲を促す大きなインセンティブと機会を生んだ。国有産業の売却は、もうけの多いビジネスを買収する1度限りの機会であるため、投資家は贈賄によって低価格で獲得のチャンスを高めようとする>

水道事業の長期的なコンセッションまたは民間発電所の電力購入合意、または PPP も、政府をバックとして 25 年も 30 年も続く一連の収益を狙った1度きりのチャンスであり、さらに賄賂を促す同様のインセンティブを生む>

――公共インフラの売却にまつわる汚職が、法の制約から逃れて巧妙に広がりつつあることがわかる。

 安倍内閣もマスメディアも、相変わらず「水道コンセッションは民営化ではない」などと戯言を垂れ流しているが、本連載で何度も述べてきたように「コンセッションは事実上の経営」である。そもそも「施設と運営権を所有する完全民営化」であろうが、「運営実権の譲渡で事実上の民営化となるコンセッション」であろうが、それが庶民の健康と生活と経済を脅かさないものであればなんら問題はない。

 しかし、前述した「サバン法の無効性」や「PSIRUによる実態報告」を見れば、水道コンセッションを含む行政契約の末路を透視できる。パリ市をはじめとする世界各国で、「公営水道→民営水道」の流れが止まり、次々に「再公営化」されてきたのは、水道コンセッションで水質汚染や料金高騰、会計隠蔽や公務汚職、といった問題が多発したからである。

 同種の疑惑は水道法改正前の日本でも一瞬、露呈した。報じられた事件は記憶に新しい。だが、はたして事件の全容は解明されたか。問題の追及は核心に届いたか。次回、法改定に向けて誰が何をどのように準備し、それが何を目論んだものなのかを検証する。

(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

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