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隠れた“虐待”保育園が消えない理由…おぞましい実態、背景に保育士の過酷な勤務

文=編集部
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事件のあった日の里西保育園(公式ホームページより)

 ブラック保育園が話題沸騰だ。読売新聞などによると、福岡県警捜査1課は21日、同県宗像市の私立認可保育所「日の里西保育園」の副園長、清原こづえ容疑者(40)を傷害の疑いで逮捕した。逮捕容疑は、6月26日、園内であおむけに体を反らせる「ブリッジ」をして歩く遊戯をしていた同園の男児(6)を殴り、2週間のけがを負わせた疑い。事件発覚後、インターネット上では同保育園で起こったとされる数々の園児虐待の情報が流れている。

 各社報道をまとめると事件の概要は次のようになる。

 園児らがブリッジ歩きをしていると、こづえ容疑は他の園児より動きが遅い男児を見つけ、両頬を平手で殴った。母親が男児の頬が赤く腫れていることに気づき尋ねたところ、こづえ容疑者は「どこかにぶつけたのかも」などと説明。男児はその後、母親に「こづえ容疑者に叩かれた」と告白。病院で診察を受けたところ打撲など2週間のけがであることがわかった。

 県警の調べに対し、こづえ容疑者は保護者に対する説明から一転、「ブリッジの途中に泣いていたので、励ますために両頬にタッチするように触れただけ」と、子どもに触れたことは認めたものの、暴行そのものの行為に関しては否認している。

笑顔なき保育園

 現場となった保育園はこづえ容疑者の母、清原由鶴乎氏が別の経営者から一部保育士とともに引き継いだ。こづえ容疑者は海外で仕事をしていたが、2011年に副園長に就任したという。

 ところで、被害にあった男児はブリッジをして歩ていていたとあるが、どういうことなのか。どうやら、同園では「ヨコミネ式幼児教育法」という比較的に体育会系の指導方針を取っていたようだ。

 同教育法は、女子プロゴルファー横峯さくらさんの伯父、横峯吉文氏が提唱した教育法で、同氏が講師を務めるヨコミネ株式会社(鹿児島県志布志市)が全国各地に広めている。「体幹を鍛える」スポーツに力を入れ、体操、宙返り、逆立ち歩きの他、読み書きや計算などの学習カリキュラムを実施。理念として「過保護が『不登校・ひきこもり・家庭内暴力・思春期を乗り越えられない』など、人間としての自立に影響を与えている」と主張したうえで、「這えば立て、立てば歩めの親心」などと説いている。

 こづえ容疑者は同教育法を極端に独自解釈したのか、同園では園児のみならず同僚の保育士に対しても、いっさい甘えを許さない指導を行ったようだ。こづえ容疑者着任以降、同園では60人以上の保育士が退職。園児も多数退園したという。

 各社報道によれば、こづえ容疑者の指導で園児たちは「背中を蹴られた」「階段から落とされた」「トイレに行かせないとか、トイレの前で食事をさせられた」などの被害にあっていたという。

 保護者たちも、こうした状況を危険視。その結果、「指導が厳しい」「口調がきつい」「子どもがけがをした」など、こづえ容疑者にまつわる暴力や指導に関する相談が宗像市に計11件寄せられていたという。これを受け、市と県は園長に改善を求め、口頭で指導していた。また、こづえ容疑者は7月下旬にも別の園児の肩と頭を押さえ、口の中を切るけがを負わせていたことも判明した。

 テレビ局記者は次のように話す。

「退職した保育士によれば、こづえ容疑者の命令は絶対で反論は一切許されない状態だったといいます。それは園児たちも同様だったようで、『園から笑顔が消えた』そうです。退園する子どもも多く、一般的に待機児童であふれている認可保育園では珍しく『空き』がありました。そのため、評判をよく知らない親子が利用してまた被害者が増えるという状況だったようです。

 自立心や克己心を磨くことは大事でしょうが、世の中のすべての人がアスリートのような人間になることを目指しているわけではありません。そういう環境に適した子どももいれば、気の優しい、おっとりした子どももいますよね。

 そういう園児がこづえ容疑者の指導対象になったようです。保護者の苦情についても、こづえ容疑者は“過保護なクレーマー”という認識だったのではないでしょうか。捜査も所轄署ではなく、県警の捜査1課が動いていることからも、悪質な事案だということです」

子どもたちが保育園の人質になっている

 ある保育士は保育業界の状況を次のように説明する。

「人員不足に伴う過労と子どもを預かるプレッシャーで保育の現場はかなり疲弊しています。そのストレスのはけ口として、弱い立場の子どもに暴力をふるってしまう保育士も少なくないと思います」

 保育士向けサイト「ほいくのおまもり」の運営者は、今回の事件に関して次のように解説する。

「今回の一件で、声を上げられない子どもたちに対する虐待が他の地域の保育園にもあるのではないかとの声も聞きます。あるかないかでいえば、残念ながらあります。

 だからといって、幼い子どもが全治2週間のけがを負うなんてことがあっていいはずはありません。子どもたちはちょっとしたけがでも、何があるかわかりません。大人が思っている以上に、簡単に重篤な状態になってしまうのです。

 事件が起こった日の里西保育園は認可保育園です。つまり、行政からその運営を保証された団体です。だからこそ、園児たちに危険が及ぶような事態があれば、即刻行政が介入すべきでした。一部報道では、この保育園の体罰や虐待と思われる行為に関しては、これまで保護者たちが何度も行政に報告していました。福岡県も立ち入り調査を行っていたこともわかっています。被害者の子どもが大けがをする前に、防ぐことはできたはずです。

 一方で、保育園に対して一度出した認可を取り消すのは難しいのも現実です。明日から認可を取り消すとなったとき、そこに通っていた子どもたちを受け入れる保育園があるのか。保護者の皆さんからしても、明日からどこに預ければいいのか。そういう問題がつきまといます。

 今回のように保護者が行政に報告するというのも大変勇気がいる行動です。それでも、子どもたちを助けたいという強い気持ちがあったのだと思います。異変に気が付いた保護者の皆さんが報告できる仕組みや、行政が子どもたちの危険を察知してすぐに対処できるスキームが必要になっていると思います」

 否認を続けるこづえ容疑者はいっさい甘えのない取り調べの中、今、何を思っているのだろうか。

(文=編集部)

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