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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

なぜ悩みが多い人のほうが、悩まない人より幸福な人生を歩めるのか?

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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「わたしたちは患者に安らぎを与えなかった。形而上学的軽率という見せかけの安らぎを与えなかった。また患者が自分の実存の意味を見出して、自分自身に立ちかえらないかぎり、わたしたちは患者が安らぐのを許さなかった」(フランクル 真行寺功訳『苦悩の存在論』新泉社 以下、同書)

「人間をその病気から外へ引き出すことはすでに問題ではない。問題なのは、むしろ患者をその人のありのままの事実へと導くことである」

「このあるがままの事実のために、患者をおどして、かれの形而上学的軽率から追い出さなければならない。しかも一つの危険へ向けて、つまり少なくとも一時的に緊張が高まり、苦しみに満ちた体験が生じるという危険に向けて駆りたてなければならない。(中略)とうにわたしたちは、古典的な心理療法が立ってきたところには立っていない。人間を単に働くことができるようにし、またそれ以上に享受できるようにするという点に、心理療法の課題をわたしたちはもはや見ていない。少なくとも同じ程度に人間を苦しむことのできるものにしなければならない」

 自分の日常に対して疑問をもたずに、安穏として、「見せかけの安らぎ」に甘んじている人に働きかけ、悩む存在へと追い込むことも大切だというのである。

悩んでいる人の方が健康なのかもしれない

 悩み苦しんでいる人からすれば、なんの悩みもなく、呑気に暮らしている人は羨ましいだろうが、自分の現状に疑問を抱くことなく、安易な安らぎに甘んじていることこそ不健康なのだと思えば、気持ちが楽になるはずだ。悩んでいる自分のほうが健康だということになるわけだから。

 悩み苦しむことはストレスになり、心身共にきつい。だから、気分転換したり、気晴らしをしたりして、ストレス反応を軽減することも必要だ。でも、気分転換や気晴らしによってストレス反応をいくら軽減したところで、苦悩から解放されるわけではない。悩み苦しむことで、私たちは成長し、成熟していく。人間は苦悩する存在である。苦悩するというのは、まさに生きている証でもある。そう考えることで、前向きに苦悩することができるようになるはずだ。

 こうしてわかるのは、悩むことこそ人生においてとても大事なのだということである。簡単に解決することばかりだとしたら、人生はどんなに印象が薄く、味気ないものになるだろうか。人生には多少の摩擦が必要だ。それが「思い切り、生きている」といった実感につながる。

 人生に挫折はつきものである。思い通りにならないことだらけといってよいだろう。そこで人は悩む。それによって心は鍛えられ、印象深い人生の軌跡が刻まれていく。

 悩み苦しむことで視界は開け、人生の段階がレベルアップしていく。悩めば悩むほど思索は深まり、味わい深い人間になっていく。そう思えば、気持ちがラクになるだろう。悩みつつ楽しむ。それが味わい深い人生にするためのコツなのではないか。

(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

※編注:引用文の傍点は、弊社サイトのシステムが対応していないため、省略しています。

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