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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ラグビーW杯決勝、イギリスの植民地だった南アが強豪国である人種構成的理由

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5つの言語で歌う南アフリカ国歌

 このように、イギリスの植民地であった歴史を持つ南アフリカですが、現在もイギリス風のライフスタイルを変えることなく、むしろ南アフリカの良い部分を残しながら豊かに生活しています。しかも、幼稚園から高校、大学に至るまで、教育システムはイギリスとまったく同じなので、子供の頃からイギリス伝統スポーツであるラグビーに触れる機会が多いことも、同じく元英国植民地であったオーストラリアやニュージーランドと並び、ラグビー強豪国のひとつとなった理由があります。

 そしてもうひとつ、ラグビーが南アフリカに有利な理由があります。それは多彩な人種構成です。身体能力に優れた黒人選手が多いだけでなく、南アフリカの黒人は、ほかのアフリカとは違い、がっちりとした体形の人をよく見かけます。特に、南アフリカ最大の民族であるズールー族は、大きく丸っこい体形でラグビー向きです。そして、ボーア人の存在も大きいでしょう。ボーア人というのは、イギリス人が南アフリカへやってくる前にオランダからやってきた農夫たちを祖先に持った白人です。オランダ人は世界で一番背が高いといわれている人種ですが、ボーア人もその血を引いているので、とても体格に恵まれています。このようなメンバーで構成されている南アフリカチームなので、1人の選手が3人の日本選手を引きずるくらいの強力なパワーを持っているのも納得できます。

 ところで、南アフリカの黒人たちは、種族によって違う言語を持っているのですが、オランダ系のボーア人たちも、オランダ語が変化したアフリカーンス語を話します。オーケストラのボーア系の楽員が、「リハーサル中に悪口を言いたいときには、アフリカーンス語で話すから、英語を話す人にはわからないのよ」と、笑いながら話してくれました。今回の南アフリカのラグビーチームも、試合後にビールを飲みながら、いろいろな言葉で話しているのだと思います。

 最後に、南アフリカ国歌について紹介します。この国歌は、南アフリカの5つの主要言語、コーサ、ズールー、ソト、アフリカーンス、そして英語の歌詞を順番に歌うので、世界で一番短い国歌といわれている「君が代」の倍の時間がかかる長さになっています。しかし、今もなお世界中で人種問題が解決していないなか、アパルトヘイトという悪名高い人種隔離政策を1999年に撤廃し、自分の国を見つめ直して、すべての人種を尊重してつくった南アフリカ国歌を指揮していると、音楽は多くの壁を崩してくれる力があると強く感じるのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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